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何処でも無い場所。
「やあ、また会えたね」
その女性は三人に笑い掛けた。
いや、彼女が頬笑みを送っていたのは中央に立っているカイ一人だけか。
「……此処は何処だ!?」
「私達は確か琥珀の国の城に居たはずでは……」
アイ、ミュウは、突然どうやって送られてきたのかすら分からないこの場所を見渡しては混乱を隠せない様子だった。
「此処は世界の何処でも無い場所だ。何処を見ても白一色、白い闇の中なのさ」
白い闇の中、それと対比するかの如く漆黒のローブを見に纏った謎の女性が説明する。
その衣服は本人より一回りサイズが大きいのか、手足は隠れ、裾を引き摺っていた。
寒い訳でもないだろうに露出している肌が首から上のみと言う奇妙な出で立ちが、彼女の存在感、威圧感を際立たせていた。
「お前は誰だ。何か知っているのか?」
「私は――――」
「彼女はこの世界の神様だよ」
カイが代わりにそう答えた。
「ふふ、その通り。此処に来るのが二度目なだけに、随分と落ち着いているんだね。えーっと……此処では『カイ』と呼んだ方がいいのかな?」
「それよりも神様、僕達が此処に来たと言うことは何か理由があるんだろ?」
「おっと、そうだった。いやあ此処に外から誰かが来ると言うのも珍しくてね。ついはしゃいじゃったよ」
こほん、ともっともらしく息を吐いてから、彼女――――神は語り始める。
「まずはお疲れ様。第二段階クリアだ」
「第二段階?」
突然飛び出したその単語にオウム返しをしてしまうアイ。
「そう、第二。君達二人は途中参加だからね、知らなくて当然だ。訊きたいこともたくさんあるだろうけど、生憎時間が無い。――――『時間が無い』って言っても此処じゃまずその時間と言う概念そのものが無かったりするからそこまで急がなくても良かったりするんだけど……まあこの辺は全く関係の無いことだから気にしないで。とにかく、君達はクリスタルを破壊することに成功した。いや、厳密には失敗したんだ」
「どういうこと?」
「まあまあそう焦るなよカイ少年。大丈夫、ちゃんと君達は正規のルートの上に立てているんだから」
なんだか回りくどいことを言われている気がするが、そもそもこれが一体何のことについての話なのかから分からない少女二人は全く流れに付いていけない。
「いい? 此処に居る『私』と言うものは実在のようで非実在。かと言って夢や幻想といった括りでもない特殊な立場に居る。なんたって神様だからね。そしてそんな非実在の私がどうやって存在を保っているか――――それがクリスタルだ」
そう言って右手の四本指を立てる女神。
「君たちが壊そうとしたクリスタルは四つ目に当たるんだけど、ここで勘違いしてはいけないことが、この四つのクリスタルは決して私の四肢ではないと言うこと。どちらかと言うなら四つ合わせて一つの『魂』なんだ」
「四つ合わせて一つの……?」
「そう。この四つは互いに互いを補い合って存在している。何処か一つが欠けたところで、瞬時に残り三つが力を出し合って再び四つ目を復活させる」
すなわち、
「琥珀の国のクリスタルは壊されていない」
全く話の内容が分からない二人にも、この部分だけは辛うじて分かった。
「壊されていないって……どういうことですか!?」
「どういうこともこういうことも、今言った通りだってば。お互いが補い合っているんだから、もし本当に壊したいなら」
「四つ全て同時に破壊しなければ意味が無い」
「その通り。カイには以前言ったことだけど、魔法の源はクリスタルであり、それを壊すことでこの世界から魔法の力を消し去ることが出来る。私は彼の願いを叶える手助けをしているんだけど、神である私は君達より一つ先の次元に居るんだ。私から君達の世界に干渉することは出来ても、君達が私や私のいる此処に干渉することはできない。それどころか私に何をされたところで気付かずに『そういうものなんだ』と受け入れるしかない。……ただ二つだけ君達側からこっち側に干渉できる方法があってね。その一つがついさっき君達がやってみせた『クリスタルの破壊』なんだよ」
何がそんなに嬉しいのか嬉々とした表情で説明する女神だったが、
「ちょっと待て」
とアイが遮る。
「お前、さっきはクリスタルのことを自分の存在を保つ『魂』って言ってなかったか? それを破壊しようとするのを手助けするっておかしいだろ」
「おかしい? どうして?」
きょとんとした顔をする女神。まるでアイがおかしなことを言っているような気にさせられる。
「どうしてって……クリスタルが全て破壊されたらお前は依り代を失い、消えるんじゃないのか」
「そうだけど」
「お前は死にたいのか?」
「そうだけど」
その言葉を受け、次はアイがきょとんとする番だった。
「私は死にたいのさ。でもただ死んでやるのはあまりにもつまらないだろ? だったら利害の一致する誰かに殺してもらった方が私は楽しめるし、かっこよく死ねるし、もしかしたら後世に語り継がれるかもしれない。そうなったら私は神話の登場人物だ。ただ、そうなることは決してないんだけどね」
意味深長な笑みを浮かべながら話す女神。
質問に答えているはずなのに次々と新たな謎を提示してくる彼女に対し、今度はミュウが最も気になることだけを訊くことにした。
「私達側から貴方側へ干渉する方法は二つあると仰っていましたよね。その一つがクリスタルの破壊とも。では、もう一つは?」
その問いに対し、女神はより一層笑みを深めて
「教えてあげない」
「なっ……」
「これは『神殺し』のゲームであり、プレイヤー同士ではなくディーラー対プレイヤーの戦いだ。もちろんディーラーは私ね。そして立場が対等でない以上、何でも教えてもらえるとは思わないでほしい」
自分の生き死にをゲームだと称する女神。
『神殺し』のゲーム。
「というわけで、インターバルはここまで。それじゃあ引き続きプレイがんばってね」
「待って。最後にもう一つだけいいかい?」
しばらく黙っていたカイが口を開く。
「何かい?」
「もし僕達がゲームに勝って神様が消えることになったら、この世界はどうなるの?」
果たして、女神は答えなかった。




