蒼の国 偽街ブレッティンガム 5
10
最初に連れてこられた広場でアイとミュウの二人は大きなオフィスビルだった瓦礫の山を見詰めていた。
「おー、派手に崩れたな」
「『おー』じゃないですよ! 何で本当にまとめて潰しちゃうんですか! ああ、ラムダ……!」
自分の片腕を吹き飛ばされた時でさえすぐに落ち着きを取り戻していたミュウがおろおろと取り乱している。
「まるで別人だな」
「当たり前です! たった一人の弟を目の前で、こんな形で潰されて冷静で居られる姉が何処に居るんですか!! どうしてくれるんです、あなただってこの先の旅で戦力が――――」
「まあ落ち着けって、ほら」
そう言ってアイは瓦礫の山を指差す。そこには二つの人影が。
「おーい!! アイちゃーん!!」
「なっ……二人は最上階に居たはず。どうして……」
「あいつは一度私を負かしてるんだ。これくらい平気な顔してくれないと私が困る」
カイがこちらに向かって歩いてくる。その背中には気を失ったラムダ。
どうやら彼の盾で落下の衝撃から護ったはいいものの、すっかり伸びてしまったらしい。
そういう意味ではカイが無事勝ち残ったということだろうか。
「お前何平然としてんだよ」
「がはっ」
激闘を終えたばかりのパートナーに突然右ストレートを顔面に喰らわせるアイ。
「私の最大火力の一撃を浴びせたんだぞ。何で死なないんだよ」
「そんなこと言われても」
意味も分からず殴られたと言うのに笑顔で応じるカイ。
「でも先ほどアイさん、『これくらい平気な顔してくれないと私が困る』って」
「敗者は黙ってろ」
その声には棘が含まれていた。
「あれ。ていうことはアイちゃん、勝ったんだね」
「当たり前だろ。私を誰だと思ってる」
「だって、僕はラムダに負けちゃったし」
「えっ!?」
驚きの声を上げたのはミュウだった。
あの倒壊したビルから平気な顔して戻ってくる様を見て、到底信じられないのだろう。
「アホくさ」
しかしアイは驚くどころか侮蔑を込めた冷たい声で、
「お前。私がこいつに勝った上でビルごと爆破すること、分かって闘っていただろ」
「そんなわけないよ。闘いはゲームじゃない。さすがの僕でもそこまで予想するなんて……」
「じゃなきゃわざわざ『勝者はもう片方の戦闘に加勢できる』なんてルールは作らないし、あんな『狙って下さい』とでも言わんばかりに逃げ場の無いビルの屋上を戦闘場所になんて選ばないだろ」
「でも、確かそのルールはラムダとの戦闘権を取られたアイさんを納得させる為のその場しのぎ的に作られたものだったはずです」
ミュウが真っ当な疑問を投げかける。
「馬鹿、逆だよ。こいつは自然な形であの状況を作るためにわざとその男を対戦相手に選んだんだ。『興味がある』なんて適当な嘘吐いてな」
「そう言えば、言外に罠を張るよう指示したのもカイさんでしたよね。それってつまり……」
「そう、此処で伸びている無様な弟だけじゃない。私にお前、此処に居る全員が最初からこいつ一人の掌の上だったってことだ」
その一言を聞いて、一気に顔を青くするミュウ。
へらへらと間の抜けていそうな顔をしているこの少年は、一体何者なんだ。
「……うう」
「あっ、ラムダが起きたみたいだ。大丈夫? 立てる?」
「俺は……?」
カイに介抱されながらゆっくりと地面に両足を付けるラムダはまだ状況を正しく理解出来ていない様子。
「負けたんだよ。私達全員、こいつにな」
うんざりした様子で、顎でカイを示すアイ。
「だから過大評価だってば。大丈夫、ラムダも十分強かったから」
「……いや、俺だけ気絶してあのビルから助けられている時点で勝ったなんて言えない。悔しいが、完敗だ」
「ほら、やっぱりお前の勝ちじゃねえか」
「アイちゃん、もうそれただ嫌味で言っているでしょ……」
とことん僕のこと嫌いなんだね、と困り顔をしながらも笑みは絶やさないカイ。
しかし、次に放たれたミュウの一言でその笑みは驚きに掻き消された。
「じゃあ、これからはカイさんが私達のリーダーですね」
「ええっ!?」
「ほら、これから行動を共にするに当たって統率する人は欠かせません。それをカイさんにお願いしようと思いまして。彼なら皆さん異論はありませんよね?」
「で、でもアイちゃんだってミュウに勝っているわけだし彼女が――――」
「お前のお陰で、な。それになんで私がそんな面倒事引き受けなきゃいけねえんだよ。絶対に嫌だね」
「そんな……」
肩を落とすカイ。どうやら受け入れるしかないようだ。
「で、これからどうするのリーダー? ゴッドクリスタルを探すんだっけ?」
「ラムダまで……。そうだね、まずは翠の国に行こうと思う」
「翠の国? いきなり敵地ですか。まだ碌に調べていないのなら見つかってないだけで朱の国や蒼の国にも可能性があるのでは?」
「いや、実は少し僕にも考えがあってね」
「考え?」
ミュウに対するカイの答えは意外なものだった。
「ゴッドクリスタルと、失踪した朱の国の国王探しと並行して僕達は、世界に点在する巨大なクリスタルの破壊を目標に掲げようと思う」
それは、自らの手で人類の叡智とも言える魔法の力を手放すことを意味していた。




