4話 召喚されたしフォロワー0人
前回のあらすじ:ウミウシ
「……行ったかな?」
「……いや」
とりあえず身を隠した宝箱の中で耳を澄まし、今回ここに来た侵入者……勇者の気配を探ってみる。彼らも一筋縄ではいかないらしい。ここに隠れて結構な時間が経過している気がするけど、まだ彼らの発する音が聞こえてきた。
『だめだ、いない』
『あと探してないのは……この倉庫ね』
『よし、行ってみよう』
彼らの声がないようを聞き取れるほどはっきり聞こえる。ということは、それほど彼らが近くに来ているということに他ならない。
「ヒィッやばい……! も、もうだめだ。おしまいだぁ……」
「頼むからもう少し静かにしてくれ。でも確かにこれは……」
このままじゃ、この場所がばれるのも時間の問題……いやそれどころか、このチビ魔王……イブがパニクって大声でも出そうものなら、それだけでもう、アウツ……ッ! 露見する……ッ! 居場所……ッ!
「もしかして本当にここで死ぬのか? まだ4話目だぞ……」
焦っているのか、自分でもわけのわからないことを言ってしまう。ギャンブル漫画のようなモノローグをしたところで名案が浮かぶわけでもない。やばい、完全に詰みかなこれは……
「お、おいヨシカゲ……だからお前が魔王って言って出れば言えば私は生き残れるんだ、行ってこいよ。ご主人様の命令だぞ」
「ふざけんなお前、なんだその労働組合も裸足で逃げ出す上司命令」
あって半日しかたってない相手に自分のために死んでこいとかよく言えるなコイツ。精神面だけなら立派に魔王だわ。
……ん? 待てよ、俺が魔王に……?
「それだ」
「え? なに? 生贄になってくれるの」
コイツついに面と向かって生贄って言いやがったな。けど俺にそんな殊勝なことを考える脳みそはついてない。
「ちげーよこのゲスロ……ご主人様。それより耳貸してくれ」
「お前今ゲスロリって言いかけなかった? で、何よ?」
「なーに簡単さ。何があってもこっから出てくるなよ、それだけ」
「そんなん言われんでもそうするわ……でもどうしたんだよ、いきなり?」
「なあに……ちょっとね」
そう言った後俺は、宝箱の中からでて
スーツのネクタイを、締め直した。
◆
「!……ひ、人だ、人がいる!」
魔王の城に来てもう数時間ほど、一向に魔王が見つからない勇者一行は、最後の部屋に訪れると、黒い身なりをした。背の高い男がいた。
「い、いやでも、あの不遜な笑みは一体……」
「まさか……!」
「……初めまして、勇者諸君。私は……まあ、君らの言うところの魔王だ。以後、お見知りおきを……」
「!」
勇者たちは驚愕した。魔王と言われれば、いつも化物のような、見るもおぞましいものを想像していたのに、目の前にいる魔王は、完全に、どこにでもいる人間であった。
……ただ、彼から発せられる異様な雰囲気と、その長身痩躯を助長するような、見たこともない黒い服を着ていること以外は。
「ついに現れたな、魔王!」
「こんなところにいたとは、どういうつもりですか?」
「いやなに、君たちが必死で私を探しているのがあまりに面白くてね。ついつい逃げながら見学してしまったんだ」
「バカにしてッ……!」
「……それより、いいのかな君たち、こんなところで油を売っていて?」
「どういうことだ?」
「確か、ここから一番遠い人間界のあの村、なんといったかな?」
「……なんだ? 貴様プライムの村に何をした!」
「ああ、そうだ、そんな名前だったな」
プライムの村とは、この勇者の故郷でもあり、結婚を約束した幼馴染と、自分と年の近い妹がいる、彼にとっては自分のすべてをかけて守るべき場所だ。勇者が村の名を告げると、魔王と名乗る男は、クツクツと笑い、心底面白がっているような態度で、こう告げた。
「実は困っていてね、うちで飼ってる魔物どもなんだが、最近人間の女に凝っているようで……女とみるや、すぐに犯し壊してしまうんだよ……」
「ッ……貴様、まさか!」
勇者は、背筋に悪寒を感じた。そんな勇者をあざ笑うかのように、男はこう言い放った。
「プライムの村。あそこの女は実に魔物好みだ。なあ勇者様よ?」
「貴様、貴様あぁぁぁ!」
勇者は、無意識の内に剣を振りかざし、その聖剣にのみ許された技、斬撃波を放つ。しかし怒りに任せた技に精度などあろうはずもなく、斬撃波は魔王城の壁を虚しく切り刻むだけであった。
「………まてよ勇者様。だから言っているんだ。油を売ってていいのかって」
「黙れ! 絶対に許さない! お前だけは絶対に」
「まあ聞け、それがまだ間に合うとしたら、どうする?」
「!?」
男の答えに、勇者たちの手は止まった。男はそれを確認し、またゆったりと話し出す。
「魔物たちがプライムの村に向けて出発したのはつい先日。やつらの足ではどうしてもまだしばらくかかるだろう」
「! まだ村は無事なのか!」
「多分、な……」
だが、と男はつづける。そのゆっくりと手を動かしながら話すしぐさは、奇妙だが穏やかに教鞭をとる教師のような、そんな雰囲気をまとっていた。
「それも時間の問題だ。ま、少なくとも私と戦っているようじゃ、その間に……」
「……クソ」
苦渋の表情で自らの顔を歪めながらも、勇者は剣をおさめた。
「みんな、悔しいけど行こう、まず村を救わなきゃ」
「……よいのですか、勇者?」
「背に腹は代えられないよ、僧侶さん……今から行けば間に合うんだな?」
「君たち次第さ。まあ、急いだ方がより確実ではあるかもね」
「……魔王、なぜあなたは我々にその情報を?」
険しい顔をした僧侶の問いに、魔王は少しだけ微笑み
「面白いから」
そう答えた。
「……行きましょう。ここからではどんなに急いでも3日はかかる」
「ああ……みんな、無事でいてくれ」
そんな祈りにも似た言葉を皮切りに、勇者たちは走り出し、魔王の元を去った。
◇
死ぬかと思った(小学生並みの感想)
「い、生きてる……」
自分の両手を目で確認して、改めて自らの生存を確認する。ホントに死ぬかと思った。なんだあのビームサーベルみたいなの? あんなの聞いてねえよ。さっき当たった壁がえげつないえぐれかたしてんだけど。あんなの聞いてねえよ(2回目)
「はあ……おーい、もう出てきていいぞー」
勇者一行が完全に去ったのを確認し、宝箱にいるイブにそう告げる。しかし結構すごい音なり振動なり聞こえてきたのに、少しの声もあげずに大人しくしてくれてて意外だったな。あの調子なら悲鳴の一つでもあげると思っていたけど。
「…………あれ?」
イブを呼んでも一向に返事が返ってこない。一体どうしたんだろう? そう思い、宝箱の方に近づいてみる。
「おーい、イブー?……あれ?」
全く返事がない。流石に不審に思い、俺は宝箱を開けてみた。……答えない理由はすぐにわかった。
「泣きながら失神してる……」
どうにもおかしいとは思っていたんだ。考えてみれば、斬撃波のとき『ヒギィッ』て声が聞こえてきた気がしたし、あれが相当ショックだったんだろう。
「おい、起きろ。おいこらゲスロリ」
「ヒッヒイィ……ハッ一体何が……」
「勇者さんたちは帰りましたよ、魔王様」
「ヨシカゲ……? お前生きてるのか、けがは?」
「無傷だよ、奇跡的にな」
「そ、そっか、よかった……」
もしかして心配してくれていたんだろうか? なんだかんだこの子も根はやさしいのかもしれないな。
「ところでお前、よくあんな話とっさに思い付いたな」
「ん? ああ、魔物云々の話か」
「すぐ思いつくってことは普段あんな妄想してるんだろ? キモイわ。マジどん引きだわ」
「やっぱ勇者に差し出そうかなコイツ」
前言撤回。あんなべそかいて失神までしといてよくそんなこと言えるな。何このクソみたいなメリハリ。
「はーあ……でも1日に2組も勇者どもが来るとはなー……やっぱ障壁を修理して貰わないとだめかー」
「修理してもらうって……魔物か何かに一声かければそれで済むんじゃないのか?アンタ仮にも魔王だろ」
「は、何言ってんだ? 私に従う魔物なんているわけないだろ」
「うっそだろお前」
なんかこの城イブ以外いないなと思ったらそう言うことなのかよ。フォロワー0人の魔王とかもう魔王じゃねえだろそれ。
「そっか、直してもらわないといけないのか……うえ、いやだなー」
と、心底嫌そうな顔をするイブ。それこそ、めんどくさい、というのではなく、純粋に嫌だと言った感じだった。
「そもそも、直してもらうって誰に?」
「……こっから少し離れたところにいる、担当者にだよ。そいつのところに言って、直してもらうよう言わなきゃ」
「なんでそんな嫌がってんだ?」
「……その担当者がさ」
「私の、姉ちゃんなんだよ」
◇
「フフフ……」
魔王城とは少し離れた屋敷。その中に、とんがり帽を被り、机の上で何やら魔方式のようなものを目まぐるしい速さで書いている少女が一人。
「さあて、魔法陣が壊れちゃったねー……ああ、早く来ないかなあイブちゃん。今どうしてるのかなあ?」
そう言いながら、彼女は水晶のようなものを取り出した。その上で何か文字のようなものを指でなぞると、水晶に女の子が映し出された。イブだ。
「フフフフ……今日1日調子悪かったけど、やっと写ったわ。ああ、今日もかわいいなあイブちゃん。早く泣きじゃくりながら私に縋りに来ないかしら……あら?」
そしてそこに、もう1人、長身痩躯の男が写った。ヨシカゲだ。
『よ、ヨシカゲ。ちょっと着替えてきていいか?』
『え? …………ああ、ごゆっくり』
『おいなんだ今の間は? 言っとくけど汗かいただけだからな』
『あーハイハイわかりましたよ』
『ホントに汗だし! 間違ってもちびってなんかいないし! そういう妄想マジキモいかんな! マジどん引きだか』
『早くしろよ』
「……あらあ、誰、その男?」
その瞬間、水晶がぴしりと割れた。
勇者さんたちマルチとかにすぐに引っかかりそうで不安です。