16話 召喚されたし責任は取りたくない
前回のあらすじ:万国スタジオ日本
「……うそだろ」
俺がそこに入って、まず最初に口から出た言葉がそれだ。賑やかなBGMと、それに合わせて世話無く動くアトラクションの数々。ここは、俺がもといた場所にあった遊園地そのものだった。
ていうかパクリだった。大阪にある礼のテーマパークを丸パクリしていた。巨大な丸いスタチューに英語で万国のスタジオって書かれているそれを間近で見たときは、道中の吹雪が暖かく感じるくらいの悪寒が走ったもんだ。それだけじゃない、アトラクションを色々見てみると、バラエティやCMで見たようなモノばかりだ。
「冗談だろ、頼むからもう少しオリジナリティ出してくれよ……」
そもそもどうやって造ったんだとか、どうやって動かしてるんだとか、某東京を名乗ってる千葉のテーマパークの方はどうしたとか諸々の疑問はあったけど、目下確定したことは一つ。これを企画した奴は、間違いなく俺と同じ世界から来たってことだ。
「そんな……村が、僕の故郷が……」
勇者ちゃん……リサは自分の故郷が無残(?)に変わり果てた様を見せつけられ、その場にへたり込んでしまった。
「僕のせいだ……僕がもっと早く戻ってくれば……なのに、怖くて、目を背けて……ッ」
俯いていて顔が見えないが、声が詰まっている。泣いていることがよくわかった。
かける言葉も見つからない。しかし、だからといって彼女をそっとしておくには、敵陣のど真ん中というのはあまりに危険すぎた。
「とにかく、偽魔王を探そう。ここでそうしてちゃ危険だ、な?」
「……うん」
俺はリサの手を取り、彼女を何とか立たせた。ふと彼女の表情を見ると、目に見えて生気が失われていた。相当堪えたらしい。彼女の手は震えていた。
「……イブ、この場所はいろいろとヤバそうだ。ここは慎重に」
「ヨシカゲ見てー! すごいよ! このカップみたいなのすっごい回るー!」
「言ったそばからあの子ったらんもゥ!」
俺は自分でもよくわからない口調になりながら、できるだけの速度でイブをコーヒーカップのアトラクションから引っぺがした。
「わ、何すんの」
「ココ、敵陣。ワナ、危険。オマエ、バカ」
「あ、はい……すいません」
イブを強引に説き伏せてから、改めてあたりを観察した。……今のところ、罠や敵があるような気配は感じない。いや、それどころか、俺たち以外に誰もいない? 人っ子一人いないテーマパークで、ただアトラクションだけが不気味に稼働している。
ふとリサの方を見る。まだ少し怯えた表情だったが、一応は落ち着きを取り戻していた。今なら、質問にも答えてくれるだろう。
「リサ。前に話した時、村人が全員人形になったって言ってたな? 生きたぬいぐるみもいたと」
「う、うん。いや、でも、辺りにあいつ等の気配は感じない。どこか別の場所かも」
俺の質問の意図を読み取り、リサは簡潔にそう答えた。
「となると、いるのはやっぱり、『あの場所』か」
俺はそう言って、パクリテーマパークの中央を見る。そこには、これまたどこかで見たような巨大な城があった。千葉のテーマパーク要素はきっとあれだろう。
「……うん、間違いないと思う。あそこからすごく嫌な気配がする」
「勇者の勘かい?」
「うん、そのはず」
いつもは『からかわないでよ』くらいは言ってくるリサが、やけに素直に俺に答えた。俺に突っかかる余裕もないらしい。それくらいの『嫌な気配』か……。
「ハァ……よし、行こう。イブ、こっちに来てくれ。なるべく俺から離れないで」
「あう! 舌ヤケドした……」
「ビックリしたそのタコ焼きどっから買ってきたお前」
イブを見ると、8個セットのタコ焼きを持ちながら舌を出してヒイヒイ言っていた。
「ヨシカゲも食べる?」
「クソ、ソースのいい匂いさせやがって……やめとけって、なに入ってるかわかんねえぞ」
「美味しいのに。でも結構するよね。これで1140ゴールドだって」
「え、高っ……。やっぱテーマパークの食い物っていい値段するんだな」
「……ねえ、魔王の眷属。やる気がないならせめて僕と魔王の邪魔しないでよ。迷惑だから」
イブの行いが随分気に障ったのか、それとも余裕がなくてピリピリしてるのか。リサはイブを今にも殺しそうな目で見ながらそう言った。
「そ、そんな怒んなくったっていいじゃん。ほら、タコ焼き分けてあげるから」
「いらない」
リサはイブを一蹴してしまい、そっぽを向いてしまった。まあ自分がシリアスになってる横でタコ焼き食ってたらそうも言いたくなるだろう。
「にしてもイブ、そのたこ焼きどこで買ったんだ?」
「え、あの売店だよ。ほら、あそこ」
「売店?」
イブが指さした方を見ると、確かにそこに売店。……いや、人だ。
人が、いた。
「いらっしゃいませ。そちらもおひとついかがですか?」
そこにいたのは、眼鏡をかけて、おかっぱ頭をした、端正だが無表情さをつくった顔をした女性だった。
「!?……いつの間に!」
リサは鋼の剣を抜き、即座に臨戦態勢に入った。いや、それよりも、ついさっきまであの場所に人なんていなかったはずだ。入り口近くの目立つ場所、あそこを見落とすはずがない。一体いつから……。
「剣をお納めください。こちらから危害を加えるつもりはありません」
「嘘だ! 偽魔王はどこにいる! 村のみんなをどこへやった!」
「……これだから蛮族は」
とても小声だったが、今明らかにその端正な顔をゆがませて蛮族と言った。この余裕といい、音もなく俺達の近くにいたことといい、少なくとも戦闘能力は高いとみていいだろう。
ここでやり合うのはリスクが高い。そう思って、俺は恐怖で震える足を抑えて、リサの前に割って入った。
「魔王! 邪魔しないで!」
「頭冷やせ。剣を振る場所はここじゃない」
「ッ……」
俺の言葉を聞いてくれたらしく、リサは鋼の剣を鞘に納め、臨戦態勢を解いた。
「そちらの方はお話を聞いていただけるようですね」
(なんともまあ、おっかない……)
先程と全く表情が変わらず、抑揚のない声でおかっぱ頭はそう言った。人形……ではなさそうだ。事務的にするよう心掛けているみたいだが、声の生気を隠しきれてない。さっきのあの態度といい、見た目よりも考えが顔に出るタイプなのか? そして戦いは強い。
……となると……。
俺は彼女に対する対応を考え、まずは慎重に探りを入れることにした。
「イブ、ちょっと離れてたこ焼き食ってろ。それと、リサを見ててくれ」
「え、何いきなり……リサって勇者のことか? 別にいいけどさ」
『邪魔が入らないよう』イブとリサを外し、俺はこのおかっぱ頭と1対1の形になった。
「……すいませんね、非礼をお詫びしますよ」
「構いませんよ。それより、勇者様御一行が、どのようなご用件で?」
「ええ、まあ。ここの責任者様を探しているのです。『珍しい格好』をした人じゃありませんか?」
いつもの影武者モードだ。底を見せず、余裕そうに。かつ、相手に対して丁寧に。大物の悪党のように演じる必要がある。正体を見せてはいけない。
「……失礼ですが、アナタに会う権限があると?」
「おや、いけませんかね?」
「誠に申し訳ありませんが、約束もなしにお会い頂くことは……」
「おかしいな、『いつでも遊びに来ていい』と言ってくれたのですがね」
「え?」
少しおかっぱ頭の顔色が変わり、一瞬焦りが見えた。予想通りだ、このままいってみるか。
「……どうやら、話が通っていないようですね。残念だ。またあの腕時計のお話を聞きたかったのに」
「腕時計……まさか、ミヤギ様の……」
彼女の焦燥が目に見えて大きくなってきている。聞いてもいない名前を口から出した。よし、これならいける。
「会えないというなら仕方ありません。後日、彼に直接今日のことを話して、お会いできるようにしますよ。ああ失礼ですが、一応そちらのお名前を伺ってもよろしいですか?」
秘儀・思いこませ。いかにも重役っぽい態度を装い、受付役などに君は知らないだろうけどそっちのお偉いさんとは仲が良いんだよ的な雰囲気を見せかけ、門前払いをさせない奥義の一つ。
もしこれで門前払いしてしまったら大失態でクビかも……という被雇用者の心理をついた技である。相手の名前を聞いてから、門前払いされたことをお偉いさんに伝える旨を話すとより高い効果が期待できる。
「も、申し訳ございません! すぐにご案内いたします!」
「ええ、お願いします」
ビンゴだ。このおかっぱ、あまり駆け引きが得意な人間じゃないな。戦闘能力に自信があるってことは、護衛か何かか……? 何にせよ、勘付かれる前にさっさと偽魔王に会う必要があるな。
「イブ、リサ。話はついた。行こう」
俺は少し離れてる2人を呼んだ。
「ま、魔王、一体どうやったの? あいつ、かなり強いはずなのに、戦いもせず……」
リサは俺と前を歩くおかっぱを交互に見て、目を丸くした。何が起こったのよかよくわからないといった顔だ。
「あのおかっぱ、さっきと随分態度違うけど、何言ったんだ?」
イブも気になったらしく、似たようなことを俺に聞いてきた。
「まあ、あれだ……どんなに腕っぷしが強くても、余計な責任を負うのは嫌ってことだ」
その言葉に、2人は首を傾げるだけだった。
◇
「こちらでお待ちください」
そう言われて案内された場所は、映画でしか見たことがないような長テーブルが置かれた、中世風の広間だった。室内に灯はついておらず、唯一巨大な窓から入る外の光だけが照らしていた。そのコントラストがこの部屋を幻想的にする演出をしていた。
言われた通り俺はその場所で、上着を脱ぎ、いつものスーツ姿で待つことにした。
「綺麗な場所……」
イブがそんなことを呟いた。確かにきれいだ、しかしどこか寂しいような、不気味な雰囲気がある。
「魔王……」
リサは怯えた表情で俺を見る。この旅の間、彼女はずっとこんな調子だ。不安なのだろう。無理もない。
「……大丈夫だ。今は俺に賭けてくれ」
俺は無責任にもそんなことを言った。もう少しだけマシな言い訳があったかもしれない。しかし今の俺には、それを考える余裕も知恵もなかった。
だが気休め程度にはなったのだろうか。リサは俺を見て少しだけ震えが止まっていた。
「そうとも、今こそ賭けの時だ」
「ッ……!」
不意に聞こえた低い声。それを聞いた瞬間、リサの表情は恐怖に染まり切った。
声がした方を見る。見えたのは、白髪の混じった七三分けの髪と、紳士的な顔立ちをした、老齢の男。黒く見るからに上等なスーツと、腕時計。
光も何もないような瞳
偽魔王だ。
「……ヨシカゲ、ダメだ。あいつヤバイ……」
イブが何かを察したのか、震えた声で俺にそう言ってくる。言われなくても、いやになるくらいわかる。
強いとか弱いとかじゃない。根本的な何かが、今まで会ってきた、この世界の住人とは違う。そう直感できるくらい。
「もしかして、お食事前にお邪魔してしまいましたかね?」
「なに、構わないよ。ちょうど、君に会ってみたいと思っていたところだ。せっかくだ、ここで食べていったらどうかね? 小腹も空いてるだろう」
いっぱいいっぱいに魔王を演じた。さっきのおかっぱとは違う。全く感情が読み取れない。焦燥も怒りも喜びも悲しみも殺意も、何も感じない。ただ、一つだけ。
「……やあリサ、大きくなったね。僕は嬉しいよ」
黒いどろりとした何かだけは、ひしひしと伝わっていた。
「お前が……お前がッ……!」
「リサ」
俺が名前を呼ぶと、仇を目の前に殺意に呑まれそうになっていたリサが、目を覚ました。この時だけは、彼女の奥にある恐怖心に感謝した。
「イブ、リサを連れて部屋から出ろ。安全なところに逃げてろ」
「な、何言ってんだよ急に。話が見えないぞ……」
「見せたくない話があるのさ」
俺は淀みなくそういった。確証はない、具体的な予測もできない。けれど、あの偽魔王と今からする話は、コイツらに聞かせちゃダメだという確信だけは、何故かあった。
俺が言うと、イブは驚いたような、もしくは、怖がってるような顔をして、『俺を見た』
「いいから逃げろ。なんなら魔界に帰ってろ。何があっても、絶対にここに戻ってくるなよ」
「……勇者、落ち着け。アイツに任せよう」
「ッ……わかった」
そう言って、イブはリサを連れて、広間から出て行った。あとに残ったのは、俺と、偽魔王だけだ。
「良かったのかい? 見てあげなくて」
「アナタは不必要に女性を傷つけたりしない。そうでしょう?」
底を見せないように、自分の感情を出さないように、極力『魔王』を演じる。ここからは、駆け引きの時間だ。
「……そう言えば先程、私に会いたいと仰ってましたが、私のことを知っていたのですか?」
「ふむ、知ってたかと言われれば微妙なところだ。名前も顔も知らない、『新しい魔王』とだけ聞いてたのでね」
聞いてた? 誰からだ? 魔王の世代交代なんて、これっぽっちも噂されてなかったはずだ。
「そうですか。とすると、このプレゼントもアナタが?」
そう言いながら、俺は来ているスーツの襟を正し、ネクタイピンを手に取る。すると偽魔王は紳士的な笑みを見せた。
「ああ、そうとも。着てくれて嬉しいよ。気に入ってくれたみたいで何よりだ」
なるほど、プレゼントはこの人かららしい、となると『あのメッセージ』もか。
「そうですか、それはそれは。では御礼ついでに聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「いいとも」
「『世界をもっと面白くしよう』ってのは、どういう意味です?」
「……」
そう言うと、男は紳士的な笑みを崩さぬまま、口を閉じ、俺を見据えた。俺の反応を見て楽しんでるようだった。
「私がここに来た理由は至極単純です。聞きたいからだ。なんでアナタがこんな場所を大量虐殺してまで造って、俺にこんなモノを送って、そもそもなんで俺とアンタはここにいて」
段々と声が荒いで来てるのが自分でもわかる。でもとめることはできなかった。ここまで来た疑問を、恐怖を、好奇心を、抑えることはできなかった。
「何より」
「……」
「俺たちはこの世界の『何』なんだ?」
「……ふむ、なるほど確かに、素質がある」
偽魔王は俺を見て確かにそう言い、そして口の笑みを崩さぬまま、冷たい口調でこう言った。
「話してあげるとも、『新人くん』」
次回はようやく世界観説明。ここまで来るのに1年かかった。亀更新ですいません




