赤信号
「すごーい!!風が気持ちいいね!」
車の窓を全開にした私は、流れる景色を見ながら彼に話しかける。真夏の青い空と海が、どこまでも広がっていく。
大学生の私と、社会人の彼。付き合い始めて、1年の記念日に二人で旅行に来ている。朝早くから出掛けてきたので、私は心配になって彼に尋ねた。
「ねぇ、運転疲れてない?大丈夫?」
彼を気遣い声をかけると、優しく笑って答える。
「大丈夫だよ。もうそろそろ着くだろうし。」
彼の言葉に私は違和感を感じる。もう目的地に到着する頃だっけ?あと一時間ほどはかかるものだと思ってたけど……。すると、彼は続ける。
「ねぇ、一つゲームしようよ。」
「え?何々?そういうの大好き~!!」
「簡単だよ。次の信号機が何色か当てるっていうゲーム。で、当たった方の言うことを1つだけ聞くっていうのはどう?」
彼は得意気に話す。
「面白そうだね!うーん……私は青だと思う!!」
「青ね。じゃあ当たったらどうする?」
「当たったら、明日の行き先私が決めても良い?」
「……良いよ。じゃあ、俺は赤って予想しとくよ。」
「当たったら?」
「それは後でね。」
そんな彼の様子に違和感を感じながらも、それ以上私は何も言えなかった。
***
そのまま車は走り続け、いよいよ運命の信号機が見えてきた。
「あ、信号機!!……赤だー。」
「俺の当たりだね。」
「じゃあ、私は何を言うことを聞けば良いの?」
「ん?もし、あのまま赤信号が変わらなかったら──止まらずに突っ込んでいくから、俺と一緒に死んでくれる?」
「……え?」
慌てて前を向くと、信号はもう目の前。その瞬間、信号機はパッと青色に変わった。
変な汗が流れる。
恐る恐る彼の方を向くが、変わらずすました表情をしていた。
「あー、君の当たりだね。じゃあ、明日はどこに行こうか?」
そう言って彼は、ニヤリと笑みを浮かべた。