キャラメル
「私ね、昔からすごくキャラメル好きだったの。」
放課後の教室で、突然そう話し始めた彼女は私の親友だ。勉強の合間に、カバンに入っていたキャラメルを1つ手渡したのだが、「好き」と言った割には表情は冴えないし、口に運ぼうともしない。
「でもね、今は嫌いになっちゃった。」
「……どうして?」
私の問いかけに、彼女は少し笑みを浮かべて話を続けた。
「だって、あの人何でもキャラメル一つで片付けようとしたんだもん。私が好物なの知ってたから、謝る時とか、機嫌取ろうとする時とか、必ずそれで許して貰えると思ってるのよ?そんなに簡単な女じゃないっての!」
あの人と表現するくらいだから……彼氏か誰かなのだろうか?
でも、彼女にそんな存在がいるなんて親友の私でも聞いたことがない。
「まあ、でも好物を知ってくれてるっていうのは良いことだと思うけどね。」
「確かにそうだけど……。ていうか、彼自身キャラメルのような人だったからね。」
「え?」
彼女は窓の外を見ながら、懐かしむように話す。夕日で照らされたその横顔は、ひどく綺麗だ。
「勇気を出して想いを告げたっていうのに……次の日に彼転校しちゃったんだもん。『ずっと好きだった。』っていう甘い言葉だけ残してね。」
「……そうだったんだ……。」
「だからキャラメルなんて嫌いなの。──口にしたら、甘くとろけて消えちゃうんだもの。」
そう言って彼女は、丁寧に包み紙を剥がしキャラメルを口にした。その表情はひどく切なかった。