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遠い夏の夜空のエーデルワイス  作者: 尾久出麒次郎
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第三章その1


 第三章、学校へ宝探しにレッツ・ゴー!


 七月の終わりが近づいた数日後、冷房の効いた市立図書館で涼たちはグロッキー状態でテーブルに突っ伏し、涼は口から魂が抜け出しそうだった。

「やっと……終わった」

「よく七月で宿題終わらせるって口だけでは言ったことあるけど……実際にやると死ぬほどキツイ、もう勉強したくない」

 いつも明るく元気な葵も声が弱々しい、大地はホッと一息吐く。

「まっ、でも今日は休んで……明日辺りにやればいいんじゃないか?」

「そうね、八月前に終われてよかったんじゃない?」

 美紀は背伸びしながら言うと、睦美は珍しく微かに微笑んでるようにも見える表情と穏やかな口調になる。

「そうよ葵、これで残りの夏休み……沢山遊べるわよ」

「そうだった。そうか、睦美はあたしと涼君のために――」

「米島君のためじゃないわ、葵のためだけよ!」

 睦美は断固否定するが、これで今日からはみんなと遊び放題だ。葵は嬉しそうに右腕を勢いよく上げた。


「よーし、それじゃあみんな、明日は学校へ宝探しにレッツ・ゴー!」


 七月最後の日曜日、涼は朝食を食べて制服に着替え、細高に到着するとグラウンドには部活動生が練習してる。校舎内では図書館での宿題の後、帰りに事前偵察としてあらかじめ学校に立ち寄っていた。

 その結果、体育館では合唱部やバドミントン部が、音楽室や各教室では吹奏楽部が各パートごとにそれぞれの教室で練習している。日曜日は週末ということもあってか、休みで補習もないという状態だ。

 集合場所は二年二組の教室に集合すると、幸いにもカーテンは閉められて外からは見えないようになっていた。

「よし、それじゃあ早速探しに行こうか!」

 葵が言うと、涼を含めたみんなが「うん」と肯く、みんな今日を楽しみにしていたのは確かで涼も自然とワクワクしていた。まず最初に一年一組の教室を探してみる。教室内をを見回すと、長期間隠せそうな場所はないか分担して探す。

 当然だが、簡単には見つからないし見つかれば苦労しない、美紀は教室内を見回す。

「やっぱりあるはずないか……普段、先生や生徒の目に入らずに隠すことができて、おまけにすぐ取り出せる場所……ねぇこの黒板の下、その踏み台は?」

 そうか、踏み台なら構造上空洞になっていてお宝を隠すスペースはある。涼は大地と目を合わせてアイコンタクトすると、邪魔な教卓を二人で持ち上げて動かす。

 そして二つある木製の踏み台、席から見て左側の出っ張ってる部分に手をかけ、大地は涼と顔を合わせる。

「いくぜ涼!」

「うん、せーの!」

 涼の合図で動かすと予想以上に重いが動かせないわけじゃない。壁からある程度離れると、土台を立てて睦美と葵が確認する。

「ないわ」

「ないよ」

 睦美と葵が首を振ったのを合図に、試しに涼と大地も確認するが影も形もない。踏み台を床に戻して右側のを持ち上げるが同じだった。踏み台と教卓を元の位置に戻し、舞い上がった埃で明らかに動かした痕跡が残ると女子三人が掃除用具を拝借して痕跡をできる限り消し去った。

 涼は汗だくで踏み台に座り込んだ。

「動かすだけでも重労働でヘトヘトだよ」

「運動不足だな涼、自転車通学に切り替えた方がいい。それだけでもだいぶ違う」

 大地は汗だくだが全く疲れてる様子もない、美紀は他にどこかないか周囲を見回して探している。

「ねぇ……あの天井の点検ハッチ……開くかな?」

 美紀の指差す先は教室の後ろにある掃除用具ロッカーの真上、天井の点検用ハッチで涼はゆっくり立ち上がった。大地と美紀が踏み台の机と椅子を用意し、涼はそれに乗って埃塗れのロッカーの上に乗ってハッチを開けた。

 当然ながら中は真っ暗で、涼はスマホを取り出してライトを点灯させ、周囲を見回すが見当たらない。涼は溜息吐き、ハッチを元に戻して降りた。

「駄目だった……何もない」

 汗だくになって探したのに見つからない、完全に骨折り損だと黒板の踏み台に座る。あと三つも探すのかと思うとうんざりしてくるのになんだろう? 全然嫌な気がせず苦笑する。

「一年生の教室というのが正しかったらあと三つか」

「でも、先輩たちはなんで仕事始めに寄贈したのかしら、冬休みが終わってからでもよかったのに」

 睦美の何気ない一言だった仕事始め? 冬休み? 一月? 涼は試しに訊いた。

「ねぇ寄贈された日って?」

「一月四日――あっ!」

 美紀も気付いてそれが伝染したかのように、みんなは「ハッ」とすると涼は疲れを忘れて立ち上がった。

「四組だ、四組の教室にあるかも!」

 涼はすぐに四組の教室に入る、幸い生徒はいない。一組の時の要領でまず黒板の踏み台を二枚調べるが見つからず、最後の候補である天井裏点検用ハッチを開けてスマホのライトをONにする。周囲を見回すと埃被ったかなり大きな箱があった。

「あった! 今から取り出してみる!」

 涼は箱を取って引きずり出そうとするがかなり重い、中には何があるんだろう? 引きずり出すと丁度お土産のお煎餅をいれる箱のようで、蓋にはビニールテープで厳重に密閉されていた。

「涼、俺が持とう。落ちるなよ」

「ありがとう大地」

 先に箱を大地に渡し、涼はロッカーから降りると踏み台にしてた机を戻して、埃や汚れを掃除して痕跡を消してる間に、葵は睦美と外にある自動販売機でスポーツドリンクを買ってきた。

「はい、みんなお疲れさん」

 汗だくになった涼にはとてもありがたい。大地は「すまない」と言って受け取り、涼も「ありがとう」と言って受け取った。


 二年二組の教室に戻り、葵の机の上に置かれた箱を囲む。エーデルワイス団の記録が隠された、これは先生たちに見つかってはいけないパンドラの箱とも言えるものだ。

「開けるよ、みんな」

 葵がみんなに見回しながら訊くと、涼を含むみんなが肯いて葵はテープを剥がし、蓋を開けた。中身は膨大な数のディスクと古いタイプのウォークマンが一つ、それにノートや封筒が入っていた。

 美紀は首を傾げながら見たことのないディスクとウォークマンを取り出す。

「これは? ウォークマン?」

「ミニディスク、言ってた通り、通称MDね」

 睦美は一枚を取って見つめながら言う、涼も物珍しさに一枚取るとラベルにはマジック『No.1.2003.0510』と書かれていた。MDは全部で四〇枚近く、それは高校入学してしばらくした日から、卒業の日まであり最後の日付は卒業式の日だった。

 大地が取った物は『No.38.2006.03.01』と書かれている、恐らくは卒業式の日だ。

「一年の一学期から卒業まで……全部記録してたのか……見てみろ」

 大地がもう一枚取り『これを見つけた未来の君たちへ』と書かれたMDを涼は見つめながら言う。

「これは、見つけた僕たち宛てのメッセージかな?」

「ねぇねぇこれってさ、手作りのアルバムじゃない?」

 美紀が取ったノートを開くと、最初のページにはルールのような物が書かれていた。


 ルールは次の通り。


 一、互いの意志を尊重し合い、自分の意志を信じること。


 二、互いを貶めたり、名誉を傷つける行為等は一切行ってはいけない、互いの名誉を守る努力をすること。


 三、互いに助け合い、尊敬し合い、信頼し合う関係を築くこと。


 四、二に反しない限り、エーデルワイス団に入団、退団は個人の意志で決めるとする。


 ページを捲ると、二ページいっぱいに三年間の思い出を切り貼りした写真や、落書きで埋め尽くされていた。真ん中には卒業式の日を切り取ったのか、卒業証書の入った筒を持った制服姿の男女四人の写真が切り貼られていた。

 その下にはメンバーの名前が書かれていて、図書室に寄贈した四人だった。男子生徒が書いたのだろう、丁寧な筆跡で書かれていた。

『平成一五年五月一〇日に、今しかない今を精一杯生きるために結成したエーデルワイス団は平成一八年三月一日、未来に向けて解散する』

「この人たちが……エーデルワイス団を作った」

 美紀は呟きながらページを捲ると今度は別の生徒たちで、結成は平成一八年六月三日、解散は平成二一年の三月一日卒業式の日だった。ページを捲ると二年生になってから見つけた人たちや、三年生の夏休みの終わりに結成した人たちもいた。

 最後に解散した人たちは今年の三月で、確かに見覚えのある先輩たちで涼は呟く。

「いいなぁ……みんな楽しそう」

「うん、凄く羨ましい」

 葵も羨望の眼差しで見てる。ふとノートとは別の折り畳まれた画用紙を取って広げる。画用紙には二つ~五つくらいの小さい丸が納まった大きい丸が複数描かれて、それらは線で繋がり丁度アメーバ状のネットワークのようになっていた。

 涼は首を傾げて戻すと、葵はMDプレイヤーを取って入ってたスピーカーにセット、コンセントに繋いだ。

「これからみんなで聞いてみようよ!」

 先生が来るんじゃないかと思ったが、みんな不安よりも好奇心の方が勝ってしまったのかもしれない。大地が持ってるMDを葵が受け取ってセットし、再生ボタンが押されると、少しの沈黙を経て落ち着きのある少年の声が流れる。

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