黒と緑
「蒼~」
ふと誰かに名前を呼ばれ、振り返る。
そこには笑顔で教室の扉の前に立っている友達、緑谷志葵がいた。
「どうしたの、志葵?」
「現代文の教科書忘れたから貸して!!」
「またぁ?どんだけ忘れれば気が済むのよ…」
「現代文嫌いだから仕方ない!!」
すごい笑顔で言う。ある意味最強かもしれない。
私は自席に戻り、現代文の教科書を取りに行く。
「そうだ、志葵。明日の放課後空いてる?」
「何でー?」
「勉強ができない志葵のために、私が手取り足取り教えてあげようと思って」
「えー!!…まあ、蒼は現代文が得意だからいいよ!放課後空けとく」
そう言って微笑んだ彼に胸の奥がキュンとなった。
「じゃあ、また後で教科書返しに来るね」
「うん、分かった」
彼の後ろ姿を見送る。
…そうか。私が志葵と必要以上に関わるのは、彼のことが『好き』だからか。
途端に顔が熱くなる。
分かってる。彼のことを『好き』だって。
小学生の時は友達になりたくて、紫音によく相談していた。
中学生の時は、何となく彼といると胸の鼓動が早くなるのを感じた。『好き』とは認めたくなかった。認めてしまったら、3人の関係が壊れてしまう気がしたから。
今私は、ただひたすらに明日が待ち遠しいと感じている。
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「ねえ、紫音。ちょっと聞いてくれない?」
いつもの道を紫音と喋りながら帰る。
「何、あお?」
そう言って彼女は振り返る。
「協力してくれない?拒否権はないから」
「いいよ」と笑った紫音の顔が
「志葵のことなんだけど」と言うと少し冷たくなった。
友情、愛情、どっちを大切にした方がよかった?
まだ大人とも言えず、子供とも言えない私には少し難しかった。
君の気持ちに気付くまであとXX日…。




