緑谷志葵の日常
「あっ。やばい、現代文の教科書忘れた」
それに気付いたのは1時間目の授業が始まる10分前。
今日の1時間目は現代文だ。
「うーん…蒼に借りるか」
そう呟き、蒼がいるクラスに向かう。
「蒼~」
教室の前で彼女の名前を呼ぶ。
振り返り、蒼は俺の方に歩み寄ってくる。
「どうしたの、志葵?」
「現代文の教科書忘れたから貸して!!」
「またぁ?どんだけ忘れれば気が済むのよ…」
「現代文嫌いだから仕方ない!!」
「…」
呆れた様な顔をし、自席に戻る彼女。
暫くすると、現代文の教科書を片手に戻ってきた。
「はい。4時間目までには返してね」
「ありがと~」
彼女にお礼を言い、教室を後にした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
蒼に借りた教科書で現代文の授業を乗り切ったのも束の間。
「あっ。やばい、数学の教科書忘れた」
それに気付いたのは2時間目の授業が始まる10分前。
今日の2時間目は数学だ。
「うーん…紫音に借りるか」
そう呟き、紫音がいるクラスに向かう。
「紫音~」
教室の前で彼女の名前を呼ぶ。
振り返った紫音は、俺の姿を見るなり怪訝そうな顔をした。
そして数学の教科書を片手に俺の方に歩み寄ってくる。
「はい、志葵」
「何で分かった…」
「毎回この曜日のこの時間に数学の教科書を借りにくる奴が何を言う」
「さすが紫音様」
「全く…」
呆れた様な顔をし、俺に教科書を渡す彼女。
「はい。4時間目までには返してね」
「ありがと~」
彼女にお礼を言い、教室を後にした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
昼休みになり、俺たち3人はいつも通り空き教室で一緒に弁当を食べる。
授業中にあった面白い事とか、昨日見たTV番組の内容とか、俺たちは他愛もない話をし続ける。
いつも通りの中身の無い会話。
いつも通りの紫音のセクハラ、助けを求める蒼。
小学生の時からずっと続いてきた光景だ。
嗚呼、楽しいなぁ。こんな日々がずっと続けばいいのに。
その時の俺は、この『日常』が崩壊するなんて思いもしなかった…。




