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彼と彼女と彼女  作者: 紫音
第3章
11/13

赤色の秘密

彼、青野紺先生とは高校の入学式で出会った。


「あお、遅いなー…」

校門に立て掛けられた『◯◯高校入学式』と書かれた看板の横で1人佇む私は、大好きな親友を待っていた。

春らしい暖かい風が吹き、桜吹雪が舞う。桜の木を見上げ、これからの高校生活に夢と希望を抱き、私は軽く微笑んだ。

ふと、誰かの視線を感じた。校舎の方を見ると、先生らしき人物がこちらを眺めている。きっと、私たち新入生を見ているのだろう。

「紫音、お待たせ!!」

聞き覚えのある声にハッと振り向く。

「…お前かよ、志葵」

「あからさまに嫌な顔をするな」

「だって嫌だし…あっ、あお!!もー、遅いよー」

他愛もない会話をしながら、私たち3人は新しい学校生活に向けて校舎へ歩んでいった。

「あの人が担任だったらいいな…」

ただ何となく、そう思った。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


無事に入学式も終わり、私は新しいクラスへと戻る。

蒼とも志葵とも別々のクラスになってしまった。

名前順に割り当てられた席につき、先生が来るのを待つ。

ドアが開き、騒がしかった室内が一瞬で静かになった。

「えー、今年このクラスを担当することになりました、青野紺です。主に数学を教えています。みんな、よろしく」

直感的に、今朝の先生だと分かった。

自己紹介を続ける先生をジッと見つめる。

高い身長。ふわふわした猫っ毛。細い指。聞いていて落ち着く低い声。

青野先生、か…。

彼に対する胸のざわめきを感じた。大好きな彼女に対するものとは違う、別の何か。その時の私にはよく分からない感情だった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


その後はクラス全員が1人ずつ自己紹介をして、明日からの予定を聞いて解散となった。

しかし、日直だけは今日から始まるらしい。私は教室に残っていた。

ガラッと、ドアの開く音がする。

「紫音、一緒に帰ろー」

大好きな蒼からのお誘い。しかし私には日直の仕事が残っている。この時ばかりは自分の苗字を呪った。

「うー…あお、ごめん。日直だから、先に帰ってていいよ…」

「そっかぁ。分かった。じゃあ、また後でLINEするね〜」

そう言って蒼は帰っていった。

「すまんな、今日から日直で」

「あっ、いえいえ。名字が『あかがわ』だから仕方ないですよ」

唐突に先生に話しかけられ、少なからず動揺する。

その時風が強く吹いて、窓の外で桜の花びらが沢山舞った。

「わぁ…!先生、綺麗ですね!」

窓際に駆け寄り、手を伸ばした。

「ん…もう少しで、花びら、捕まえられそ…よしっ」

「先生、見てください。花びらキャッチ成功!」

「おお、よかったな」

「手、出してください」

「うん?」

「はい。この花びら、先生にあげます。初めて先生とお話した記念に」

そう言って私は先生の手のひらに桜の花びらを置いた。暖かい春の陽射しに包まれた先生の微笑み、私に向けられた優しい眼差しに、胸がきゅうっと締め付けられた。


初めて恋に落ちる音を聞いた。

少し切なくて、苦しくなるような音だった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


それから月日が経ち、2度目の春がやって来た。

今年も私は青野先生が担任のクラスになった。


「青野先生。この問題、どうやって解くんですか?」

いつも通りの言葉と共に、先生に問題を見せる。

「んー、これはここをこうして……ということだ。分かったか?」

「あぁ!なるほど~」

「赤川は本当に数学が好きだなぁ」

「数学が好きなんじゃなくて、先生が好きなんです。好きな先生の教科は必然と好きになるものですよ。数学とか、世界史とか…って、何回か同じこと言ってますよね!?」

なんて、照れ隠しの答え。このまま『先生が好きです』と言えたらいいのに。

「いやぁ、何回聞いてもぶれないから、もしかしたらいつか違う答えが返ってくるんじゃないかと…」

「もう、からかわないでください!」

すまんな、と言い、眉を下げて笑う先生。

普段先生は無愛想で、他の生徒からは少し敬遠されている。この笑顔を知っているのは、私くらいだろう。そう思うと、自然と顔が綻んだ。

その頃の私は、青野先生への恋心を悟られまいと、隠すのに必死だった。


「職員室までお供します」

その言葉を合図に私たちは教室を後にする。


何回聞いただろう。背後から、先生の声がする。

「数学、好き?」

もちろん、好き。数学も、先生も。

ああ、この気持ちだけは、絶対に知られてはいけない。私だけの秘密にしなければ。

きっと私は、この叶うことのない恋に儚い希望を抱いて、何回も貴方に同じことを言うのでしょう。

「好きですよ、先生のこと(数学)

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