表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彼と彼女と彼女  作者: 紫音
第3章
10/13

青色の告白

彼女、赤川紫音とは高校の入学式で出会った。


「さて、今年はどんな生徒が来るのかな」と、2階の職員室の窓から新入生たちを眺めるのが毎年恒例だった。

校門に立て掛けられた『◯◯高校入学式』と書かれた看板の隣で、親に写真を撮ってもらっている子供たち。その横で、1人佇む少女を見つけた。友達でも待っているのだろうか。

桜吹雪と共に、サラサラした髪が風になびく。桜の木を見上げ、軽く微笑む彼女。

美しいと思った。

ずっと見ていたかった。

しかし、朝の職員会議が始まり、否が応でも現実に引き戻される。

「彼女の担任になれたらいいのに…なんて笑」

そう、ポツリと呟いた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


無事に入学式も終わり、生徒たちは新しいクラスへと帰っていく。

自分も担任を務めることになった教室へ足を運んだ。

ドアを開け、中に入る。騒がしかった室内が一瞬で静かになった。

「えー、今年このクラスを担当することになりました、青野紺です。主に数学を教えています。みんな、よろしく」

自己紹介を終え、今度は生徒たちの番だ。

「それじゃあ、廊下側の席の人から順番に自己紹介していこうか」


「赤川紫音です」


奇跡が起きた。

さっきの彼女がいた。

自己紹介を続ける彼女をジッと見つめる。

高い身長。肩にかかるサラサラの黒髪。形の良い唇。細い身体。可愛い系より綺麗系の顔だ。他の女子生徒より断然大人びて見える。

赤川紫音、か…。

彼女に対するこの胸のざわめきが何か、その時の俺にはよく分からなかった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


それから滞りなく全員分の自己紹介が終わり、明日からの予定を話して解散となった。

しかし、日直だけは今日から始まる。赤川紫音は教室に残っていた。

ガラッと、ドアの開く音がする。

「紫音、一緒に帰ろー」

「あお!!」

途端に笑顔になる彼女を見た。

「うー…あお、ごめん。日直だから、先に帰ってていいよ…」

「そっかぁ。分かった。じゃあ、また後でLINEするね〜」

そう言って『あお』と呼ばれたその子は帰っていった。

「すまんな、今日から日直で」

「あっ、いえいえ。名字が『あかがわ』だから仕方ないですよ」

声は明るいが、分かりやすくションボリ顔をしている。

その時風が強く吹いて、窓の外で桜の花びらが沢山舞った。

1年生の階はちょうど桜の木と同じ高さにあるため、ここから眺める景色はなかなかの見ものだ。

「わぁ…!先生、綺麗ですね!」

窓際に駆け寄り、手招きで俺を呼ぶ。

「ん…もう少しで、花びら、捕まえられそ…よしっ」

「先生、見てください。花びらキャッチ成功!」

「おお、よかったな」

「手、出してください」

「うん?」

「はい。この花びら、先生にあげます。初めて先生とお話した記念に」

そう言って俺の手のひらに置かれた桜の花びらと、暖かい春の陽射しに包まれた少女の人懐っこい笑顔が、とても眩しく、とても綺麗だった。


初めて恋に落ちる音を聞いた。

少し切なくて、泣きたくなるような音だった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


それから月日が経ち、2度目の春がやって来た。

今年も俺は彼女の担任になった。


「青野先生。この問題、どうやって解くんですか?」

授業終わりに必ず質問に来る赤川は、いつも通りの言葉と共に俺に問題を見せる。

「んー、これはここをこうして……ということだ。分かったか?」

「あぁ!なるほど~」

「赤川は本当に数学が好きだなぁ」

「数学が好きなんじゃなくて、先生が好きなんです。好きな先生の教科は必然と好きになるものですよ。数学とか、世界史とか…って、何回か同じこと言ってますよね!?」

「いやぁ、何回聞いてもぶれないから、もしかしたらいつか違う答えが返ってくるんじゃないかと…(世界史とかいらないし)」

「もう、からかわないでください!」

そう言って呆れたように笑う彼女。

彼女の笑顔は、とても可愛い。普段大人びているからだろう。

その頃の俺は、もうとっくに彼女への、赤川紫音への恋心を自覚していた。


「職員室までお供します」

その言葉を合図に俺たちは教室を後にする。


彼女の後ろ姿をぼんやりと見つめる。

なぁ、赤川。からかってなんかいないんだ。

きっと俺は、いつか違う答えが返ってくるのを期待して、何回もお前に同じことを聞くだろう。

俺のこと(数学)、好き?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ