第56話 人の優しさ
「そうかい、御両親を亡くして一人で旅にねぇ~若いのに苦労してるんだねぇ~」
居間と思われる部屋に案内された男は老婆が用意してくれた麦飯と何かのスープを頂き、これまでの話を
説明した。
勿論内容は作り話で少年の記憶の中にあった旅人の話を参考に話していた。
それにしても何かを食べるという行為がいつ以来か分からない、その味は薄く通常ならとても食べれたものでは無かったのだが男は黙々と食べた。
人間が生きる上で食事というのは必要不可欠でその有り難さ、幸せさを男は老婆に教えられたのだ。
「隣の部屋に布団敷いておいたから食べ終わったらそこで寝るといいだよ」
人にこんなに優しくされたのはいつ以来だろう…
そう男は本心から思った。
事実、もし男の記憶があったとしてもそれは思い出せないくらい過去の事なのである。
食事も終わり老婆にこの辺りの事を少し聞いて暫く道なりに進めば町があり老婆はそこの育ちだという。
では何故こんな山奥に住んでいるのかと尋ねると老婆は笑顔で答えた。
「息子が帰ってくるのを待っている」
男は何かを察してそれ以上何も話すことなく食事が美味かったと伝え隣の部屋に移動した。
藁を敷いた上に布が敷かれ手作りと思われる掛布団が用意されていた。
「寒いじゃろうて、これを使いなさい」
老婆が顔を出し水袋のような物を手渡してきた。
暖かい、これは湯タンポか…
男はいつ以来かの眠りにつくのだった。
次回は明日の午前7時頃更新予定です




