平原にて
僕と俺は直すべきか? それとも、直さないべきか。
いきなり大混雑の広場に転送されるなんてことはない。混雑度を判定して一番低い場所に転移。
「此処は……門か?」
実は合流する予定の知りあいがいる。何となく見れば雰囲気で判ると思うが、転移によって必ずしも同じ場所ではないうえに、名前も知らない。
「合流場所は」
マップを開いて合流場所である酒場を探す。この場所はベータテスターの持つ合言葉が無いと入れない場所なので、混雑することはない。
「相棒ー」
「あっ!」
ドアを開けたら。奥の方に、一人のプレイヤー。相棒だ。相棒はベータテスターでこのゲームをやる以前からの知り合いで、僕がWikiとか覗いてみようとか思ったのも、こいつがベータテスターだから。
「キャラメイクは問題なかったか?」
「うん。私はどっちかっていうと感覚派だから、あんな風に考えたりはしないけど」
「悪いな、俺に合わせてもらって。スキルが五つも埋まるのはステータスが上がるにしてもきついぞ?」
「もし違う構成にして置いてかれたら嫌だ。逆に、追い越すのも」
いい性格してるよな、なんて思う。僕と違って他人とパーティを組むのに戸惑わないし、他人を気遣えるのだから。
「一応確認のためにステ見せてくれ」
「はい」
クーLV1 人間? 力6 知力6 体力5 精神6 器用6 速力7
スキル ・妖精の祝福 ・鬼化 ・魔力覚醒 ・長耳 ・飛翔 ・槍 ・投擲 ・跳躍 ・ステップ ・回避
「んー」
「どうしたの?」
「いや、クーの方が体力低いだろ? だったら俺が前に出るべきなんだが、一番高いのが知力で」
「つまり? 問題無いように思えるけど」
「ああ、うん。前衛後衛とか考えた俺が馬鹿だった。武器は買ったか?」
「先に買ってきた! ちゃんと紺が長剣使うと思って、そっちも買ってきたよ」
「おお、ありがと。俺はセルフ鑑定出来ないし助かる。幾ら?」
「一つ1500D、つけでもいいよ」
「一つ?」
なんと相棒は僕が長剣を複数本使用することまで読んで、買えるだけ買ってきていたのだ。最初に支給される所持金は余裕があるとはいえ、それだけ買ったら相棒の所持金は0。友情価格ではなく普通の価格で全部買い取った。
「あれ、ちょっと待った。武器で全部使ったということは、防具は?」
「そんなのもあったね、忘れてた」
「今から二人で買いに行くのも面倒だから、防具抜きで行くか。どうせ最初の敵だ、防具なんてあっても無くても変わらないだろ」
「多分それは甘い認識、ベータテスターだから断言するよ。最悪の場合一撃死する」
「じゃあ買いに行くか? 多少時間は掛かるけど」
「ううん、そういう危険があるだけ。全部避ければ問題ないよね?」
「疑問形で締めくくるな。俺と相棒の二人なら大丈夫だよ」
「あー、相棒に戻った。結構その相棒呼び恥ずかしいのに」
「だと思って注意はしたけど、分かった、クー呼びで」
多分気が抜けると相棒呼びに戻る。先生とか先輩みたいに汎用性があり過ぎるから仕方がない。相棒は一人なのに。仮想空間の中で、本名も教えてないうえに、色んなゲームを遊んでそのたびに名前を変えるから、相棒が安定するんだよな。
「で、何処に行くの?」
相棒の問いに対して、酒場のテーブルにマップを表示させながら答える。
「相棒からの情報(悪友のも交じってるが)を纏めると、行ける場所としては三か所。一つは草原、初心者がまず行く場所で当然ながら却下。次に森だが、こっちは幾らなんでも高レベル過ぎる。浅い場所は低レベルだが潜っていくにつれてレベルが跳ね上がり、引き返すのが困難ってそりゃベータテスターでも攻略できないし、俺らが攻略出来る筈がない。ってことは折衷案、平原だ」
僕はトントンとマップの中央から見て少し西にある平原を叩く。
「テスターの情報から判明しているのは・ブラウンラビット ・ソードゴブリン ・コボルト ・ラット 最初の二種は草原のラビット・ゴブリンの強化版だな。あと・ハーピー が低確率で出現するらしいけど」
「投擲なら持ってるよ」
「俺も持ってる、だから出てくるモンスターは概ね対応できるわけだ。少しレベル高めだが誤差の範囲内だ、行こう」
「うん!」
平原はそう遠くない、事前に公式とか見ておけば場所も解るので特に迷わずに着いた。
「あれ、ゴブリンだよね?」
「ソードゴブリンな。鑑定持ってないから判別できないが」
戦闘特化の弊害。だが相棒はベータテスターである、見たことあるかと思ったらそんなことはなかった。そうして眺めていると、向こうも気付いたみたいで近づいてくる。
「うわっ、アクティブか。ここで戦ってると他のモンスターを呼び寄せないか?」
「サクッと片づければいいでしょ? 指示お願い」
「ガンガンいこうぜ」
こんなのに指示とか必要ないだろ。俺がソードゴブリンの刃を長剣で受け止め、横から相棒が刺す。僅か十秒足らずの時間でソードゴブリンは絶命した。
「一発!」
「ソードゴブリンはどっちかといえば攻撃よりで体力はゴブリンより低いからな」
「そうなの?」
「ベータテスターだよな? ま、当てにし過ぎると変更されたときに対応出来ないが。さ、次来るぞ」
その後も何体かのソードゴブリンを戦ったが、攻撃が高く体力が低いというのはとてもやりやすい相手で、二人でかかれば恐ろしいどころか雑魚だった。
「レベルアップだ。クーも振っとけ」
「はいよー」
紺LV2 人間? 力6 知力7 体力6 精神6 器用6 速力6
クーLV2 人間? 力7 知力6 体力5 精神6 器用6 速力7
このゲームではレベルアップすると好きな能力を1上げることが出来る。僕は速力、相棒は力に振り込んだ。僕の方は相棒の速さに合わせる目的で、クーは火力不足によってだ。
「上手く当てないと一撃で殺せないから、力はあった方がいい」
「上手く当てればいいだけだろ」
「私は楽したいの」
それは凄く解る。何も考えずに、本能に任せて生きられたら。僕は楽がしたいが為に効率を重視する。
「取りあえず連携の練習だ。長剣も槍も長くて危ない」
「紺とは長く戦ってきたでしょ?」
「これはプールに入るための準備運動みたいなものだから毎回やるんだよ」
スイッチ! なんて叫ばなくても自然と判るような、そんな連携。僕も相棒も型があるから、それぞれをピタッと合わせられればきっとうまくいく。
「コボルトだ、しかも五体。逃げる?」
「いや、大丈夫だろ。連携行くぞ!」
まず僕の投擲、動きを止める。その隙を逃がさないように先行して相棒が一突き、このレベルになるとさすがに一撃では倒せないのかコボルトはそれを耐え、反撃してくる。それを相棒はステップで回避。
「鬼化を使え!」
「忘れてた。鬼化!」
鬼化を使うことにより相棒の力が増す。上昇した力で攻撃ではなく跳躍し、槍を投擲する。
「頂戴!」
僕の長剣が投げ渡される、長剣の方が向いていると判断したのか。しかし、この程度なら…………と相棒が長剣を要求した理由に気付き、近づいて背中合わせの状態に。
「何体来た?」
「五くらい?」
「ヤバいな、離れんなよ」
なんと別のコボルト集団がこちらを捕捉、向かってきたらしい。合計して敵コボルトは十体、かなり多い。
「鬼化の有効時間は10分、解るな?」
「十分以内に片づけろ?」
「そういうことだ。ブレット!」
後で検証予定だった黒魔法をも使って迎え撃つ。コボルト達の装備は全部ナイフ、射程が短いというのは本来歓迎すべき要素だが、振り回しても仲間に当たらないというのはこの状況下では不利。幸いにも身体全体で掴みかかって他のコボルトで制圧するという発想は浮かばないのか、律儀にナイフを振り回している。とはいえナイフは短すぎて弾けず、腕を断ち切ろうにも力が足りない。必然的に躱しながら攻撃していくことになるが囲まれているためそれも辛い。
だが相棒が居る。
ステップというスキルの枠に沿った回避は動きが分かりやすく、僕の回避を阻害しない。お互いが右に左に入れ替わり、コボルトを斬りつける。一撃で倒すことは重視せず、むしろ手加減し、他の邪魔になるよう工夫する。互いが互いの隙を補う陣形、コボルト如きには破れない。だが数が多い。
「あ」
「跳躍して飛翔で逃げろ!」
鬼化が切れ、相棒の力が減少する。力が無いと長剣は扱えない。相棒は武器を取り落とした。
「ブレット」
魔法でスペースを空け飛翔スペースを確保。残りは三体だがこのくらいなら相棒が居なくてもどうにかはなる筈だ。ところでこの飛翔というスキル、使いこなすのはとても難しい。落下耐性が翼人の種族スキルになっていることからも読み取れるように、よく墜落する。
「うわわっ!!?」
「大丈夫か!?」
相棒はこういうのが得意だから大丈夫だと勝手に思っていたが、さすがにいきなり使うのは無謀だった。ちょっと飛んだけれどすぐにバランスを崩し、コボルトたちの上に落ちた。
「いてて……」
結果的に、コボルトをクッションにしてダメージを軽減し、ついでに撃破できた。
「これで、全部か」
「いや、まだいる」
コボルトよりも大きいコボルト、コボルトリーダーがそこに居た。囲むだなんてやけに賢いと思ったら、こいつが指示してたのか。手にはナイフではなく短刀が握られている。
「ブレット」
黒魔法によって作られた銃弾を驚くべきことに回避し、低い姿勢で近寄って、僕を射程に入れた瞬間斬りつけた。強い!
「紺!」
「大丈夫」
種族スキルの竜鱗は物理ダメージを軽減する。防具を着けていないにしても、短刀の一撃は軽かったので一発は耐えれた。ただ、二発目を喰らったら死ぬ。そういうレベル差が存在している。
だが負けれられない。
僕は地面を蹴っていったん距離を取り、長剣を投擲して牽制する。そしてアイテム高速化により素早く長剣を取り出し、再び地面に投擲。それをコボルトリーダーは跳躍して回避。そこに相棒の援護、鬼化によって力が減少しても使えるコボルトがドロップしたナイフを投擲する。空中という回避が難しい空間、コボルトリーダーにナイフが突き刺さり、絶好の隙が生まれた。僕はまた長剣を取り出して両手で持ち、斬りかかった。
「そっちか!」
コボルトリーダーはターゲットを相棒に切り替える。未だ鬼化のデメリットがあるので相棒はまだナイフしか持てない。
「もう慣れた」
だけど、コボルトリーダーによる斬りつけは跳躍によって回避され、そのまま飛翔されて逆に相棒が首を狙う。首を竦めて回避されるが、この瞬間背後には無警戒。走りながらまたまた長剣を取り出して投擲した。背中に突き刺さる剣。そしてそのまま飛び蹴りした。
「倒した?」
「倒した」
「疲れたね」
「悪いな、安易に鬼化させるのは迂闊だった」
「そんなことよりステータス振ろう?」
「……そうだな」
紺LV4 人間? 力6 知力8 体力6 精神6 器用6 速力7
クーLV4 人間? 力8 知力6 体力6 精神6 器用6 速力7
僕は知力と速力に、相棒は力と体力に。
「さっ、帰ろう? 疲れちゃった」
「帰るか」
精霊魔法は使えない理由があった。スキルの詳細については設定に載せておきます。あと、コボルトは人間LV3くらいの強さで、コボルトリーダー(レア)はLV6程度です。