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4話 雷で裂けた木

カチ、カチ、カチ。

火がつかない。

「ライターいかれちまったな。」

くわえたマルボロを握りつぶす。

「で、未だタバコ止めれないんだ。」

功がつぶやく。

「ま、こればっかりはなかなか。」

「だって知り合った時、宗司ってまだ未成年だったのに、タバコ吸ってんだもん。」

そうだった。


功と知り合った時、まだ高校2年生だった。功は1年生。

アルバイト先のスタンドに同じくバイトとしてやってきたのが功だった。

年も近かったせいか、すぐに親しくなった。

「山行くとさ、すぐ息切れしてさ。」

確かに。肺がやられるんだ。心拍数が上がってくると胸が苦しくなって上れなくなる。

なのに、功と俺は登山に夢中になった。

きっかけは、バイト先のスタンドの長屋さん。

「覚えてるよ。長屋さんから、山登りするやつにタバコ吸うやつなんていないぞって、いつも言われてたこと。」

「うん。悪癖だな。」


長屋さんは勤続20年のベテランスタンドマン。整備士の免許も持っていて、給油やお客さんの接待の外に、車の整備や車検などもおこなっていた。面倒見のよい人でアルバイトたちには人気があった。俺と功に目をかけてくれて、趣味である山登りに何度か連れて行ってくれた。

最初の頃は、長屋さんに連れていかれていろんな山に登った。慣れてくると功と二人で3000M級の山にも何度か足を運んだ。

「あの山覚えてる?」

功は一番最初に登った山のことを話した。

「きつかったね。何でこんな苦しい思いして、馬鹿じゃないのって思った。」


長屋さんが最初に連れて行ってくれた山。鉢尾山。

1300Mくらいの山だが、下から登ったら結構な距離があって苦しかった。

登山道からすぐに急登に差し掛かり、勾配差のある山道を登ったり、下りたり。屋根に出たと思ったらまたすぐに薄暗い山道に入り、展望の利かぬ道をずっと登り、展望が開けたと思ったらまた熊笹の波に囲まれの繰り返し。まだかまだかと思った頃に山頂の尖った峰が見えてきた。

「でも、眺めよかったよね。」

「ああ。」

自分の目前に広がる山並みを見て、そうか、こんな所まで人の足でこれるんだってひどく感激した。

目の前を360度のパノラマが広がり、遠くかすんだ空に山の稜線が連なる様を見て、広いなあ、自分が知らない景色、自分が知らない領域、自分が思いもしない世界がいっぱいあるんだなって。

「あのボルシチはうまかった。」

「確かに。」

一緒に登った長屋さんの友人の山野さんがボルシチを作ってくれた。材料と水、鍋とバーナーを分担して担いで登った。頂上で食べる食事はまた格別だ。

「あの山で印象深かったのは、ボルシチとそう、あの木だ。」

功は足元の地面を蹴った。


「木?」

俺は聞き返した。

山に入れば木なんて一杯あるし、何か特別なものがあったのか覚えがなかったからだ。

「ほら、降りる途中で見つけただろ。こんな大きな木。」

功は自分の腕を一杯に横へ伸ばした。

「そんなでかい木?」

かなり下の方まで下っていくと、川を流れる小さなせせらぎの音が聞こえ始める。すると、すぐに沢伝いに降りる道へ入る。その分岐点に大人が3人ほど腕を伸ばして繋いでも木の周りを取り囲むことも出来ないくらいの大きな木が存在していた。

何十年、いや何百年ものあいだその位置にどっしりと根を下ろし、山へ入る人々や山に住む動植物をずっと見ていた山の主のような木だった。


「根元のほうがばっさりと裂けててさ。」

雷が落ちた跡のようだった。根元がばっさりと裂けていた。その裂けた躯の間には小さな子供だったらひとりくらい入れそうな穴が開いていた。

(だけど、この木生きてるんだよね。こんなん裂けててもさ。すごいね。)

あの時、功はそう言ったっけ。

「あの木をこうやって抱きかかえるようにして、音を聞いたよね。」

「だって、長屋さんが聞こえるって言うんだもん。」

そう、長屋さんが木の音が聞こえるっていって、大きな腕で木を抱くようにして耳をつけていた。その年輪に。

「宗司、聞こえるぞ。」

って。

気持ちよさそうにずっと木を抱いていた彼の表情を思い出す。


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