ガルム君の7日目(動乱)⑭
…ズル、…ズル!
足が痺れる。
地面を擦りながら進む。
足が、止まる。
あれ?
痛みが消えた?
眠い。
少しだけ目を閉じよう。
「ここにも生き残りがいたぞ!!」
「な、なんだコイツ?!」
消えかけた意識が覚醒する。
はぁ、ついてない。
鎧か…。
敵だな、どうしよう。
腕も痺れて、走れもしない。
かっこわりぃな。
「ねぇ?助けてくれない?」
腕に納まるこの子にお願いする始末。
見上げていたその瞳と目が合う。
すぐに目を逸らされ、正面を向かれる。
……そっか。
頼る資格、なかったか。
僕が勝手にやった事だもんな。
コイツからしたら……いい迷惑か。
……なんだったんだよ。
おじさんに助けられ――
フリージアに助けられ――
セイに助けられ――
アストレアに助けられ――
守られてばかりじゃないか……。
守ったつもりが守られて。
1人じゃ……
何も……
最後は勝手な僕の考えをこの子に押し付けて。
ヤバくなったら頼るって……
カッコ悪すぎるだろ。
「おい、こいつ泣いてるぜ?」
「あはは!ホントだお腹の傷が痛いのかな?それとも死ぬのが怖いのかな?」
「悪趣味だなお前らは、子供でこんな傷泣くだろ普通」
仮面の下で、涙が落ちる。
いいさ、笑ってくれ。
今の僕にはそっちの方がいい。
「どうすんだコイツ?連れてくのか?」
「この傷じゃあ死ぬだろ、殺した方が早いんじゃね?」
「子供を切るのは俺は嫌だからな」
ズル…ズル…。
モース村に向けて足を動かす。
「お?」
「へへ」
足に何かが引っかかった。
次の瞬間、視界がぐらりと傾く。
「――っ!?」
体勢を立て直す暇もなく、地面が目前に迫り――
右手で支えていた木の幹が落ちる。
膝が地面に着き、
咄嗟に右手を突き出し、左手で胸の獣を強く抱きしめる。
「お前なぁ」
「勝手に動き出すこのガキが悪いんだよ」
「土下座して許しを請ってるぞ?ギャハハハ」
落ちた幹を掴み立ち上がり、
また歩き出す。
笑っていた声が消える。
土を踏みしめる音が近づく。
「もういいだろ、一思いに殺そう」
「ならお前がやれよ」
「……分かったよ、悪いな恨まないでくれよ?」
涙が腕の獣に落ち続ける。
ただ村へ向けて歩き続ける。
死ぬのが怖いんじゃない―――
ただここで死にたくない―――
どうせ死ぬなら―――
見つけてもらいたい―――
大事な人たちの中で―――
「1人は……苦しいもんな」
僕は知らない。
その言葉に胸の獣が目を見開いたのを。
ヒュ!
風切る音が鳴る。
その瞬間周りから音が消えた。
ドサ!
ドサ!
ドサ!
音が重なるが僕は振り向かずに歩き続ける。
ふわり、と柔らかな感触が頭に乗る。
次の瞬間、一本、また一本と尾が伸びてきて――
気づけば、五本の尻尾が静かに体を包み込んでいた。
逃げ場を塞ぐようでいて、不思議と息苦しさはない。
むしろ、温もりに守られているような感覚。
まるで外界から切り離された、小さな安息の中にいるみたいだった。
「はは、眠くなっちゃうよ、これ」
――――――
ああ、着いた。
村の入り口に皆いる。
こちらに駆け出す姿を見て膝を着く。
「ガルム大丈夫か!コイツ!」
ウィリアムさんの声と剣を抜き放つ音。
「……やめて、この子は悪くない」
向けられる剣を掴み止める。
手から血が流れる。
ウィリアムさんが慌てて剣を離すのを見て、僕も剣を落とす。
「はぁ、なんでお前はいつも想像以上の状態で戻ってくるんだ」
(アストレア…ごめん)
声がでない。
「エリザベス、頼む」
「は、はい!!」
体が寝かされエリザベスさんがお腹に両手を当てるのを最後に意識が途絶えた。




