ガルム君の7日目(動乱)⑩
「皆様、今日はこの村が誕生してちょうど10年目の日です」
一拍、間が空く。
「……本来なら、何も考えずに祝える日だったのでしょう」
誰も、声を上げない。
「ですが――それでも、祝います」
トーマスさんが、笑う。
「ここで生きていること自体が、奇跡なのですから」
その声だけが、やけに遠くまで届いた。
パチパチパチ!
村長が手を叩きそれが周りに広がる。
そのまま村長が壇上へ歩み出る。
村長が手を上げる。
音が、止まった。
「儂と妻が始めたこの村が10年の時を経てこんな光景が拝めるとは夢にも思わなかった。トーマスが言うようにわし等は死人のようなものじゃ、わし等の命がいつ奪われようとそれは王国を逃げ出した日から覚悟していたはずじゃな?」
喉が、鳴る。
……目が離せない。
「なら笑おう!たとえ後ろに”死”が迫ろうともな!!それがわし等の選んだ道じゃ!!」
静寂そして――
「おおおおおお!!!!」
雄たけびが広場や森に響く。
僕もそれに続く。
「宴を始めよう!!」
村長の言葉と共に光の玉が村にいくつも出現する。
アストレアの魔法が村全体を彩る。
テーブルに並ぶ豪華な料理や飲み物。
目の前の光景を僕は忘れないように目に焼きつける。
皆がここで生きた証を魂に刻み付ける。
マーガレットさんの楽器の演奏に合わせクララの躍りに目を奪われ―――
エドワードさんの曲芸に皆が驚き―――
ウィリアムさんとアンナさんの剣を使った炎舞に感嘆し―――
ヘンリーが短剣を喉に入れる芸でドン引きさせ――
ラインの太鼓で心を鼓舞され――
トーマスさんとエリザベスさんの演劇に涙を流す――
そして
アストレアの幻想的な魔法に皆が放心する――
この村の人たちは僕が守る―――
何を犠牲にしても―――
焦げ臭い臭いに森を見る。
「え?」
皆も気づいてそちらを見る。
黒い煙が、夜空を食い破っていた。
皆気づいたのに宴を続け笑っている。
月狼団――
それが不意に頭をよぎる。
「違う、大丈夫だ、もう7日も立ってる……遠くに行ってるはずだ」
それを自分に言い聞かせ宴に戻る。
不意に足が止まる―――
守る――
森――
あの時の光景が、焼き付いて離れない。
動かない獣。
その奥に、何かを隠すように――
足が止まる。
――行かなきゃ。
離れてこちらを見ていたアストレアに走り寄る。
「これ、ありがと」
アストレアの頭に無理やり帽子をかぶせる。
急がなきゃ!
「待て!」
「何!急いでるんだけど!?」
「どこに行くつもりだ?」
「森に行かなきゃ」
「理由を言え」
「分からない……けど動けない獣がいるかもしれないんだ!」
「獣?」
時間が惜しく感じるがその時のことをアストレアに説明する。




