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24企画参加作品

卒業式では泣かないけれど

作者: 御田文人

第六回なろうラジオ大賞参加作品

「年内に絶対に健康診断を受けてください!」

 人事にそう急かされて、やむなく休みを取った。

 例年サボリの常習なので、とうとう個別に目を付けられてしまったようだ。


(ならば、仕事量も調整してくださいな。。)

 どうにも終わらない仕事があるので、取ったのは午前半休。受診後は在宅勤務の予定だ。

 家にいる分、掃除をしたり、子供の夕食にカレーを作る等、やることはかえって多い。


 電車に揺られると、バリウムが胃もたれをおこす。それを抑える為、時々水を飲みながら、この後のスケジュールを考えていると、3人の男子高校生らしき面々が乗り込んで来た。


 平日の昼前だよな?と一瞬思ったが、今は12月。おそらくはテスト期間なのだろう。

 しかし、彼らの会話に勉強の話題は一切無い。あまり勉学に積極的でないグループのようだ。


 それどころか、しばらくすると、彼らは宴会ゲームを始めた。

 いや、高校生だと「宴会ゲーム」とは言わないのかな?

 ともかく彼らがやっていたのは、何かお題を出して、せーので連想する答えを言うというもの。

 例えば

「子供の憬れの職業。せーの!」

「芸能人」

「youtuber」

「公務員」

 等で、全員揃えば成功という感じ。


(なんでワザワザ電車でやるかね)

 私は内心、舌打ちした。

 空いている電車では、迷惑というほどではない。

 しかし、部活もやらず、彼女もおらず、特別何もない高校生活を送った私は、充実してそうな若者に多少やっかみを覚えるのだ。


 私は、適当に携帯をいじりながらやりすごし、最寄り駅にたどり着いた。


 長いホームを歩き、長いエスカレーターに乗って、再び携帯を取り出すと、後ろから声がした。

「楽しかったな」

 聞き覚えのある声。おそらく、さっきの高校生達の一人だ。


「オレ、高校生活で一番楽しかった思い出って、帰り道だよ」

「わかる。オレ、卒業式では絶対泣かないけど、今日が一番切ないかも」


 そうか。彼らが高校3年生だとすると、3学期は受験に備えて変則的な登校になる学校もある。みんなで一緒に帰るタイミングは、これが最後なのかも。

 そう考えると、一切勉強の話をしなかったのも、生き急ぐようにゲームをしていたのも、別の見え方がしてきた。


(大丈夫。大人も案外楽しいから)

 私は、誰に聞かせるわけでもない言葉を心で呟いた。


 煩く健康診断に行けというようになった会社。夕食はカレーと伝えると『やったー』とはしゃぐ子供。

 それらを思い出して、再度呟いた。


「案外、楽しいよ」



お読みいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
そう言えば私の高校も、高3の3学期の頃になりますと完全に受験体制に移行して通常授業が全く行われなくなりましたね。 「あの顔触れが教室に揃っているのを見るのも、次は卒業式の日なのか…」と考えますと、何と…
この作品、すごく好みです。 自分の高校時代を思い出して、勉強も恋愛も部活もなにもがんばれなかったけれど、友人との何気ない時間のために学校へ行っていました。 大人になるのも確かに悪くないですね。 いま高…
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