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明美をぶっ殺す  作者: 麻青
第一部
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15歳・2

 明美をぶっ殺すにあたり、私はまず肉体的な強さを求めた。


 明美はバスケ部に入っているため、手芸部の私よりかは明らかに身体能力が上だ。身長だってこちらより三、四センチは大きい。これでは、取っ組み合いになった場合に不利にならざるを得ない。

 もちろん、そんな野蛮な争いを経ずとも殺す手段は幾らでもあるだろう。が、選択肢が多いに越したことはないはず。


 そんなわけで、計画始動と同時に実戦空手と総合格闘技を習い始めた。

 ジムにいたのはむさくるしい男ばかりだったが、彼らのほとんどは私に親身に接してくれた。指導員の人たちには、強い肉体を作るための筋トレや食事の方法から教わり、指導の枠を超えた実戦的なスパーリングもしてもらった。



「ちぃっす」


 適当な挨拶をしながらジムに入ると、先輩方も「おーう」、「うーい」などと返事を返してくれる。すでに常連だから、彼らとは気軽に声を掛け合う関係だ。

 制服から体育着に着替えるべく更衣室に向かおうとすると、その途中で細マッチョな男に声をかけられた。


「二条さん、今日は俺とスパーしようか。互いにヘッドギアなしで」


「ヘッドギアなし? いいんですか?」


 頭を守る防具は、練習の打ち合い――スパーリングでは装着が強く推奨されている。実力や体格に差がある相手同士なら、なおさらだ。


「知ってのとおり、よくない。けど、強くなりたいんだろう? 当然、俺のほうは手加減するから」


 すると、別の男たちが横から口を出してくる。


「当たり前だけど、実戦じゃ防具はなしだからな。二条の度胸は大したもんだが、練習と環境が違っちゃあ、びびるかもしれん」


「そう、だから僕らで話して、これからはヘッドギアやグローブなしでのスパーもちょいちょいやってく方針にしたんだ。ぶっつけ本番で知らない相手とガチの喧嘩するより、よっぽど安全でしょ?」


「もちろん、君が嫌なら無理強いはしない。どうする?」


 強くなるのに必要だと言うのなら、私に断る選択肢はない。気合を込め、右の拳を左の手の平に強く打ち付ける。


「やります。お願いします」


 私が断言口調で返事をすると、男たちは満足気に頷いた。



 ――こんな感じに、私はジムの男たちに妙に気に入られていた。


 指導員や先輩たちの名誉のために言うが、彼らの親切さは下心からくるものではない。ジムにエクササイズ目的でなく、純粋に強くなることを求めてくる女はめったにいないらしく、どうもそのへんが彼らの心の琴線に触れたようなのだ。

 私にセクハラ紛いのことをした高校生が秒で他の先輩たちにボコボコにされたり、変に私の体に触れないよう互いで監視し合ってた感じだから、その推測は間違ってないはず。

 あるいは、嵐だろうと三十八度の熱があろうと、毎日ジムに通い続けた私の熱意が伝わったのかもしれない。


 ……伝わりすぎたのか、路上でチンピラと喧嘩させられたり、山で拳銃を撃つ練習をさせられたりと、指導が危険な方向に進んだことは少々きつかったが。



 無論、体を鍛えることばかりに専念せず、勉強もしっかりやった。明美を殺すための手間は惜しまないが、そのために受験に失敗してしまっては、本末転倒だからだ。

 まず、私の人生の安定と成功。次に明美の死だ。逆であってはならない。


 幸運にも、空手の道場に国立大学の教育学部所属の大学生がいて、その人に格安で家庭教師をしてもらった。進学塾で講師のバイトもしているだけあって、その教え方はとてもうまく、学校での成績は平均ちょい下だった私は、気づけば学期テストで学年トップを取れるほどになっていた。

 うちの学校ではテスト順位の三十位以内の名前が壁に張り出されるのだが、その一番に自分の名前があるのはかなりの快感だった。それを苦々しい目で明美が見ているのに気付いたときは、もう気持ち良さで脳がスパークしたほどだ。



 さて、進路についてだが、私はあえて明美と同じ高校に入った。偏差値50台のパッとしない学校だったが、致し方ない。さすがに学校が別ともなると、ヤツの情報収集に支障が出てしまうからだ。

 弁解するが、明美のために高校のランクを大幅に落としたとはいえ、自分の人生を犠牲にしたつもりはない。世話になってる家庭教師は、『就職においては大学の学歴が重要で、高校はどこだろうとさほど影響はない』、と言っていた。だから、高校なんぞどこだっていいのだ。

 もちろん、それは学校に頼らず大学受験を成功させるという前提が必要ではある。だが、私はそれが自分にできると信じた。


 自分の幸福が第一で、明美を殺すのは二の次とは言った。しかし、後者を実現させなければ前者も実現しないのも事実なのだ。二つは極力両輪で進める必要がある。

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