インデラトポポ様の瞼裏 3/ガラ
……
あの直後。コロの死の後、唯一の親友ガラは、遺言通り近くの川へ逃げた。
ごった返した人の群れの中から抜けるのは簡単だった。
ガラは、夜のせいで真っ黒に見える川の水で、涙を洗い流した。
(遠くで人々の騒ぎ声が聞こえた。コロの突然の死に戸惑う報道関係者たち、コロをその手で殺めそこねた聖職者たち、この夜何が起こったかを理解していない普通の教徒や国民たち。)
ライターが草むらの中に見えた。宗教はタバコを禁止していなかったが、ポイ捨ては立派な聖法典違反だ、……ったけど、ガラにはもうどうでもよかった。ガラは、夜の闇の中でも目立つピンク色のライターを拾った。
べきべきと、若い枝をそこらの木から折り、また、落ちていた新聞紙をくしゃくしゃとしたものの上にくべた。
ぼう。
火はすぐに付き、すぐに大きくなった。それは無心に近い状態にあったガラの、なんの気もない行動だったが、燃え盛る炎を見つめているうち、ガラはなんとなくこれから自分がしようとしていることを自覚した。
炎に近づけるほど、顔はひりひりと熱くなっていった。
じゅっ
じゅうぅうううぅぅ
ガラは、親友が死んだその日、左目だけを残して自分の顔を焼いた。
……
…………
あれから、この国にも、ガラにも、この世界にも、様々なことがあった。あの日から、十年ほどが経った。2013年になった。
この国の宗教における指導者的立ち位置である、第一教徒に、歴代最年少の者が就いた。
彼は、顔の大半が爛れた跡で、元の顔など誰も知らなかった。
目は右目が見えないらしく、左目をぎょろぎょろと素早く動かして外の世界を見た。
また、口の中でよく、かろかろと音が鳴った。それは、いつも口の中に、2粒のトパーズを転がしているからだった。これも本人以外は誰も知らないことだ。
彼はどうやら、十年前に親友を死に追いやったこの宗教を内側から破壊するために、長い年月をかけこの宗教のトップになったようだ。しかしそのことを知る者は、やはり彼自身以外、どこにもいない。