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「オタクに優しいギャル」と「ギャルに優しくされるオタク」のバレンタインデー

作者: 宮里蒔灯

2023年のバレンタインデーに、ちょっぴり甘い短編をどうぞ!

 放課後の委員会の仕事が終わり、忘れ物を教室に取りに戻ってから玄関へ行ったので、そこにはもう誰もいないと思っていた。


 一人の派手なギャルに唐突に声をかけられるまでは。


「ねえねえ、そこのオタクくんっ!」

「ひえっ」


 靴箱の後ろからヒョコっと顔を出したのは、うちの学校で美少女ギャルとして有名な、深本澪ふかもとみおだ。

 明るい茶髪のストレートヘア、キラキラのネイル、化粧はバッチリで、目にはカラコン?みたいのを入れている。制服はゆるっと着こなし、スカートは短い。学校指定のカバンとは別に、大きなトートバックを肩から下げていた。

 黒髪メガネで地味な外見の俺、神尾琢磨かみおたくまとは正反対だ。


 何で声をかけられたかわからず、驚いてしまった俺は思わず変な声を出してしまった。

 俺の戸惑いを知ってか知らずか、深本はニヤニヤ笑いながら話を続ける。


「あは、もしかして、あたしみたいなギャルに声かけられて、ビックリしちゃった?! えーオタクくんかわいいんですけどー!」

「ま、まあ驚いたけど、そういうことではなく……」

「ところでぇ、何でこんなに遅い時間まで学校にいるのー? もしかして、今日がバレンタインデーだから、女の子にチョコがもらえると思ってて残ってたとかぁ?」

「いやいやいや、委員会の仕事が長引いただけで……」

「もー、そんな切ないオタクくんには、これをあげよう! あたしったら、『オタクに優しいギャル』だからさぁ」


 人の話、全然聞かねぇな。「オタクに優しいギャル」なら、オタクの話を聞けよ……って、え?


 深本から手渡されたのは、かわいいリボンのラッピングをした小さな袋で。


「じゃーん! あたしの手作りチョコカップケーキでーす!」

「な、なんで」

「あれあれぇ、オタクくん勘違いしちゃってるー? まいちゃやなおちぃたちに作ってきた友チョコの余りだよぉ? 美味しいから、絶対食べてよねっ」

「ああ、もちろんだ。ありがとな、澪。友チョコでもすごく嬉しいよ」

「ひゃん?! な、名前、澪って……!」


 ニヤニヤ笑っていた深本は、俺が思わず口にした彼女の名前にビクリと体を震わせた。顔だけでなく首筋まで真っ赤になっている。


 やべっ。つい昔みたいに女子に慣れたチャラい態度を取ってしまった……。

 学校ではお互い幼なじみであることを隠して、「オタクに優しいギャル」と「ギャルに優しくされるオタク」をするって、決めたのに。


 これは去年、同じ高校に入学することが決まったとき、俺たちは約束したのだ。


 中学生の頃、俺はそれなりに整った容姿と明るい性格から、男女問わず友達が多かった。誰にでもいい顔してチャラい、なんてよく言われてたっけ。

 反対に幼なじみの澪は、コミュ障で大人しい性格。乙女ゲー厶にドハマりして、同好のオタク友達数人とクラスの端の方で密やかに盛り上がっていたらしい。


 しかし、俺は高校入学前の春休みに、とある深夜アニメにハマりまくってしまった。時間があるのをいいことに、夜な夜なアニメの原作やキャラクターの声優さんに入れ込み、果てはアニメの監督の他の作品まで遡って見まくった結果、立派なオタクに。それまでの友達とは全然話が合わず、俺は孤独感に苛まれた。


 澪は澪で、オタク仲間たちが高校デビューして彼氏を作る!と意気込んでいる熱に当てられたらしい。更に言えば、乙女ゲームのような青春を過ごしてみたいと願うようになったようだ。


 俺は同じオタク仲間を見つけ語らうために。

 澪は大勢の友達と明るい青春を過ごすために。


 チャラ男からオタクへ。オタクからギャルへ。

 それぞれイメチェンを図ったのだ。


 その際、澪から「男子が苦手過ぎるので、慣れるまでは『オタクに優しいギャル』にするつもり。だから琢磨は『ギャルに優しくされるオタク』になって。そうしたら、琢磨以外とそこまで話さなくてもいいし」と頼まれた。

 俺も俺で、ギャルに絡まれているオタクに見えるだろうから、同情されてオタク仲間ができそうだと、二つ返事で了承した。


 そして約一年経って、それぞれ充実した生活を送っているところだった。


「もう、もう、琢磨ったら根がチャラ男なんだからぁ……根チャラ男……! バレンタインデーの放課後にこうやって渡すのも、青春ぽいなぁって、ずっと琢磨のこと待ってたのに……!」

「うおぁ、ご、ごめん……!」


 うぐっ……そうやって照れている澪、めちゃくちゃ可愛いな……。俺の最推しのアニメキャラに激似だからか、余計にドキドキしてしまう。

 澪は澪で、俺のチャラさに反応してしまったようで、二人して顔を真っ赤にさせた。


「と、とりあえず、帰るか」

「う、うん……ふう……もー、オタクくんったら、一人で帰るのが寂しいのぉ? しょうがないなぁ、あたしが一緒に帰ってあげようっ!」

「やれやれ、まったく……」


 澪……深本は、「オタクに優しいギャル」だから、ボッチのオタクに絡んで。

 俺は、「ギャルに優しくされるオタク」として仕方なく有名人なギャルに付き合ってあげている。


 そういう体で、二人並んで夕暮れの校門をくぐり抜けた。








バレンタインデーに間に合ったー!

またこの二人で短編書きたいなぁ。

琢磨も澪もまだ高校一年生だけど、イベント的に卒業式かなぁ。

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