もう乳なんて揺らさない
ここは白樺学園。女子校である。今日は転入してきた教師の着任式のため、講堂で全校集会が開かれることになっている。講堂に集まった生徒たちが静かに見つめる中、校長先生の紹介で転入してきた女性教師が壇上に上がって行く。まだ若いその女性教師は緊張する様子もなく、颯爽と歩きマイクを握る。
「今日、着任した胸揺止子です。私が来たからには、この学校内で乳を揺らすことを禁じます!」
生徒たちがざわめき出す。そして一人の生徒が叫ぶ。
「禁止って言われても、揺らしたくて揺らしてるんじゃありません! どうしろって言うんですか!」
止子が微笑んで言う。
「安心しなさい。私がいる限りあなたたちの胸は一ミリも揺れることはないわ。試しにジャンプしてみなさい」
声を上げた生徒が軽くジャンプする。揺れない。確かめるようにもう一度ジャンプする。やっぱり揺れない。生徒の胸はマネキンのように固まっていた。
「どういうこと?」
生徒たちは次々にジャンプし始める。その様子を止子は静かに、しかし誇らしげに見守っていた。すると、また別の生徒が声を上げる。
「私たちの身体に何したのよ!」
「あなたたちを守るためよ。大丈夫。身体に負荷はないわ」
「何から守ってるのよ」
「未成年者を性的対象で見ようとする者たちからよ」
「どうして私が制限されなきゃいけないの⁉」
止子は少し考えてから話し出す。
「そんなに乳揺らしたいの?」
生徒は戸惑いながらも言う。
「そ、そういうわけじゃ……。だって不自然じゃない」
それを聞いた止子はまた語り始める。
「そうかしら? 私から見たら揺れる方が不自然だわ。二の腕も、太腿も、頬も揺れないのにどうして胸と尻だけ揺れるの? それにね、あなたたちは気づいているかしら? 男の尻は揺れないってこと」
生徒たちははっとした表情を浮かべる。
「そう。あなたたちは日常的に不自然なエロを見せ続けられることで、それが自然だと植え付けられてしまったのよ! だから私はここで宣言する。この学校では……いえ、この物語の中では絶対に乳は揺らさないと!」
止子の力強い宣言に周囲の教師たちが立ち上がって拍手する。しかし、また一人の生徒が声を上げる。
「でも今どき、どの物語にも巨乳が必ず一人はいて、これ見よがしにゆっさゆっささせてるわ。そうしないと誰も見ないのよ!」
周囲の生徒たちも同意するように声を上げる。
「そうよ、そうよ。ここは女子校よ? 武器を使わないでどうするのよ。胸揺らさなかったら誰も見ないわよ」
止子は大きなため息をついて言う。
「あなたたちの乳はあなたたちだけのものじゃないのよ。もっと大切にしなきゃいけないわ」
生徒たちは不思議そうな顔をしてざわめき出し、教師たちも少し戸惑いを見せる。止子は話を続ける。
「あなたたちが安易に乳を揺らすことで、女子高生が性被害に遭ったらどうする? 視聴率のために被害者を出しても平気なの? 自分さえ良ければそれでいいの? あなたたちはそういう子なの?」
生徒たちは戸惑いの表情を浮かべている。そして止子はたたみかけるように話を続ける。
「そもそも乳を揺らして得た視聴率など一瞬の輝きに過ぎない。そんな物語は長生きしないわ。みんな思い出してみて、名作と語り継がれる作品を。どの作品も揺れていないはずよ。本当に素晴らしい作品はそんなものに頼らない。いいえ、揺らさないの! それは色々な人に見てほしいからよ」
あれほど意見していた生徒たちも静かに止子の話を聞くようになっていた。そして止子はマイクを強く握って言う。
「人気作品になりたい。名作と語られたい。そう願うなら誓うのよ。私たちは何があろうと決して乳を揺らさないと!」
生徒たちは大きな声で宣言する。
「私たち白樺学園の生徒は何があろうと決して乳を揺らさないと誓います!」
教師たちは生徒たちに向かって大きな拍手を送った。その様子を見て止子は満足気に微笑むのだった。