49.衝突のEX
EXスキル:【限点回帰】
「ッ!」
レイジは帰還した。
ここはエロ防具が数点コレクションされているお店。
レイジはそのど真ん中でただ突っ立っている。
彼の目線の先には例のメイド服があり、それとひたすらにらめっこ、というより睨んでいる。
「…………っ」
何もしていない。
まだ術者を殺していないというのに、いきなり時間が回帰した。
また屋根から滑って落っこちたのか、それともエマコの仕業か、あるいはまた下らないことでも思いついたのか。
「…………」
分からない。
とりあえず、いつもみたくドジェイルを探してみよう。
そう思い、レイジはエロ屋を出ることにした。
そして、すぐに見つけたようだ。
今回は比較的あっさりと発見。
「うぅ……ううぅ……」
地面に寝そべったままうずくまる、何かがいた。
これはドジェイル、猫背で冴えない男。
泣いている。
なぜか顔は隠して尻を向けたまま、ブルブルと震えている。
──ここはドジェイルが時間回帰した際に出てくる場所。
アイナ=ジークリンデの死体が常に転がっている、何とも不吉なエリアだ。
リスタートポイント。
もはや彼の路地裏と言っても何の遜色もない。
つまり、このドジェイルがここにいるということは、彼は回帰してから一歩たりとも動いてない。
ずっとうずくまって泣いていたことになる。
「…………」
一体どうした? 何があった?
レイジが一定の距離を置いて問いかけた。
その手には光を纏わせた短剣を構えている。
コイツは罠かもしれない。
ケツを出して誘っている可能性だって十分にある。
なので一応は警戒しておこう。そういう考えだ。
「ひぐっ……い、いいえ……何でもない、ですよ……っ」
一方、ドジェイルはむせび泣く中でも、頑張って声をひねり出す。
言ったところでどうせ伝わらない。
自分の体験したこの恐怖は誰にも理解できないだろう。
だから教えてあげない。
「ですがそのお気遣いには感謝します……ありがとうござい──ぶびええええええええんッ!」
ドジェイルのガチ泣きが路地を拡散する。
あの鮮烈な眼光を思い出しただけでまた……。
恐怖がぶり返してしまった。
もうしばらくネコを真面に見ることはできない。
そんなの情けない様子に、レイジは、
「…………」
同情を誘っている? 慰めて欲しいのか?
そういう路線に切り替えてきた?
そんなのが今さら通じるとでも?
みたいな感じで状況に少々困惑。
「…………」
考えるのが面倒になってきた。
とりあえず一回殺しておこう。
どのみち殺すのだから変わりない。
ただ処刑し続けるのみ、例え相手が壊れていようが関係ない。
もうそれ以外は何も考える必要はない。
そう、ただ徹するのみ。
そう思い直し、手に持つ短剣を振り下ろそうとした
……しかし
『──あなた、生きてて恥ずかしくないの?』
どこからともなく、女の声が。
「……?」
レイジには何も聞こえない。
「は、はずか……しい……?」
ドジェイルにはハッキリと聞こえる。
横にある死体から出た、届くはずのない声。
彼にだけ聞き取ることのできる不可解な幻聴。
それがアイナ=ジークリンデの死体から発せられた
「ああ……ああ……あああッ⁉」
──これはドジェイルが学園にいた頃の話。
当時ドジェイルは、趣味の一環で小説なるモノを書いていた。
内容をかい摘んで言うと、現実にいる好きな女の子との純愛モノ。
いわゆる夢日記?というヤツである。
何もかも自分の思い通りに事を進めることができる。
現実では絶対振り向かない彼女が、小説の中でなら笑顔を見せてくれる。
それが楽しくて仕方なかった。
本命の子だけでなく、二番手の子、隣の美人な担任、親戚の綺麗なお姉さん、挙句の果てには近所の人妻まで。
題材に困ることはほどんどなかった。
思春期の少年なら小説とはいかなくとも、そういった妄想の一つくらいするだろう。
そこまでなら特に問題はない。
しかし、そうはならないのがドジェイル少年だ。
ある日致命的なミスを犯してしまう。
というのが、宿題を丸写しするために借りていた友達のノート。
それを返す時になぜか間違って、夢ノートも一緒に渡してしまったのだ。
まさか重なっていたとは……。
親友なら見なかったことにして、そっと閉じてくれてもいいだろうに。
だが、無慈悲。
当のお友達からすると、これは超大スクープ。
瞬く間に学園中へと拡散されてしまった。
次の日学園に行くと、男子の皆からは笑いの的にされ、散々ネタにされ、女子たちからドン引きされた。
あの時の恥ずかしさは今でも鮮明に覚えている。
うつむいた顔が上げれない。
あの子の苦笑いがずっと頭をはなれ──
「──あああああああ! 見ないでええええ!!!」
本を思いっきり、バンッ! 閉じたくなる。
「ああああああ! 死にたい死にたい死にたい死にたいいいいい!!!」
破滅衝動が急加速。
ガンガンガンッ! ガンガンガンッ!
「殺して! 殺して! 誰か殺してえええええ!!!!」
顔を両手で隠しながら、硬い地面をクルクルと転げまわる。
精神が弱った所にさらなる追い打ちをかけてくる。
いつも突然やってくる。
主に夜中、ベッドの中とか。
別に暗殺者とかに襲撃されたワケでもないのに、二階の窓を突き破って飛び降りたくなってしまう。
目の前に崖があれば躊躇はない。
叫びながら即ジャンプすることだろう。
おそらく人間だけにしか備わっていない機能。
高すぎる知能を持つがゆえにそうなってしまう、生物として悲惨な進化の末路。
バグってる。
それが今のドジェイルだ。
「…………」
その様子を、茫然と見ているレイジ。
先ほどから意味が分からず、全くついて行けない。
だが、何か嫌な予感がするのもまた確か。
これは前回と同じ。
言いようのない不安、辺りを包み込むような感覚。
空気の流れが途端に悪くなる。
──ガラガラガラガラ
やがて、
「ああああああああ! こ・ろ・し・てえええええ!!!」
それは、
──バシッ! ヒヒイイイイインッ!
忽然とやって来た。
突如として、狭い路地に暴れ馬が出現。
「ッ!」
ギャン☆ ゴオオオオオッ!
今回は闇騎士専用の黒馬が二匹。
ギラついた瞳の奥から覗かせる暗い炎。
暗黒石でできた強靭な重装備を身に纏う。
その怒り狂う姿はまさに冥界からの迎え、そう呼ぶに相応しい。
2匹の死神が、2人に向かって突っ込んできた。
「ッ!」
が、しかし、
その時レイジは、
「──EXスキル:【天性解除】」
手を伸ばす。
──この時、彼に何か策があったワケではない。
ただの勘。
いや、身体が勝手に動いたというべきか。
暗殺者としてではなく、変異者としてのモノ。
それが彼の意志を強制的に稼働させた。
だが、これは……
≪≪EXの衝突≫≫
「ッ⁉」
次の瞬間、2人の中心に烈風が発生。
そこから空間を無理やり捻じ曲げるように小さな穴が出現。
中に大量の空気が流れ込み、不気味な唸り声のような音がする。
奥の方がどうなっているのか見当もつかない。
まるで全てを吸い込む黒い重力。
──ある特定の座標、時間軸、素材。
それらがぶつかり合う時、あるいは奇跡的に嚙み合った時、とある事象の歪みが発生する。
別空間なる存在、それが変異者たちを、
「うわああああああ!!!──────」
「ッ⁉──────」
飲み込んだ。




