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47.もう一つの代償

 そして、


「あぎゃああああああ!!!」


 醜い断末魔が路地裏を反響する。

 そして周囲へ広がっていく。


 EXスキル……【以下省略】


 黒いモヤが現れ回帰したかと思うと、早いときは5分、遅くても10分くらいにはまた似たような演出がやってくる。

 そしてまたも汚声が轟いてくる。


「オゴッ⁉」


 これは、ドジェイル。

 そう、猫背で陰気臭い男。

 そのドジェイルが対戦相手のレイジと、文字通りの死闘を繰り広げている。


 何度も見せられた光景。

 親の顔よりも多いかもしれない。

 相変わらずのDTAは続いていた。


 ──しかし、今回は少し様子が違う。


「ぎゃああああああ!!!……フッ」


 息絶える直前、ドジェイルはニヤリ。

 自分を殺した相手に対し、何とも不気味な笑みを見せる。

 素早い表情の切り替え。

 これは何度も死んだ彼にしかできない芸当である。

 

 前回とは違う。

 為すすべなくやられるだけの前回とは明らかに違うのだ。


 『どんなに殺されようとも、いつかは勝てる』


 と言ったふうに、今回は希望がある。

 いつになるかも分からない気が遠くなる希望。

 たったそれだけでここままで変わるモノなのか。

 ドジェイルは死ぬ間際に何回も煽ってくる。


 彼からしてみれば、これはメンタルを摘まれる戦い。

 つまり開き直ると、こちらの精神さえ破壊されなければどうにでもなると言うことだ。


 ただ耐えるだけ。

 何も難しく考えることはない。

 たったそれだけでいい。

 それだけで自分は勝利できるのだ。

 心に余裕が生まれ、ドジェイルの内面はより強固なモノとなっていた。


「…………」


 一方のレイジといえば、


「──雷王波動レイジングブレイド


 瞳にバチッと宿る、ムラのある閃光。

 強烈なスパークを纏わせた、王の一撃。

 前方へ広範囲に薙ぎ払う。


 焦る様子は見られない。

 ただ粛然として相手を粛正する。

 その表情には一切の変化、迷いは感じられない。

 

 もう長くはない、近いうちに死ぬのが確定している。

 避けることは絶対不可な未来。

 それが分かっているのに、どうせもう助からないのに、この男は淡々と相手を始末し続ける。


 これはまだ諦めてないとか、自身の定められた運命を前に、必死に抗ってるとかではない。

 ならば一体どこから来るモノなのか。


 それは、死んでも対象を殺す。

 自身に与えらた任務を最後まで全うする意思。

 ただそれだけで動いている。


 いわば半分本能に近い行動である。

 全く別の原動力。 

 理性や知性を超えた何かが、今の彼を突き動かしていた。


 だが、悲しいことにそれは本来の、彼の持っているモノではない。

 EXによって汚染させられた精神は、時に所有者の取る行動までも歪ませることがある。

 やがて選択権どころか存在ごと抹消される。

 それが今の状態。

 すでに主人格はどこにもいない。


「…………」


 彼ではない別の何か。

 背中には多くの亡霊が見える。

 これまでレイジが葬ってきた、様々な時間軸の死者たちが浮かんでいる。

 彼らの精神の全てを、一身に纏うその姿。

 まさに一流の暗殺者そのモノであった。


 やがて、


「……ッ」


 決したようだ。

 レイジはその場にガタッと崩れ落ちる。


「──やはり、徐々に短くなってますね。レイジさん」


 ドジェイルがゆっくりと近づいてくる。


 【天性解除スキルダウト】に時間回帰の法則は当てはまらない。

 よって、命のタイムリミットは次第に早まっており、すでに5分も持たないところまで来ている。

 常に風前の灯火。

 生はあるが、もはや一時的なモノに過ぎない。

 

「つまりあなたが動けるのはもうここまで、というワケです。はい」


 ここまで来てしまえば、あとは息絶えるのを待つだけだ。

 今度こそ本当に幕引き。

 ドジェイルはそう言って、自重すらも支えられなくなった相手を、さも勝ち誇った顔で見下ろした。


「……ッ」


 最後にレイジが何か言いたそう。


「ん? 何です? いま何か言いました?」


 ドジェイルは試しに耳を近づけてみると、


「……!」


 ──予知する。

 お前は突然現れたオークにプレスされ、悲惨な死を遂げる。


 それを聞いて、ドジェイルは……プルプルプル、


「~~~~ッ⁉ ぬかせえええええ!!!」


 怒りの限り杖を振り下ろす。


「──スキル【傀儡】」


 しかし、濃いめの赤を放つ、レイジの鋭い瞳。


「……ハッ⁉」


 突然、2人のいる地面に大きな影が。

 ドジェイルがすぐに顔をあげると、そこには濁りケのある緑色を成した、巨大な割れ目が出現。


「──ブオオオオオオオ!!!」


 オークキングの生尻だ。

 レイジと同じく妖艶な瞳をした、魔物の王様。


 それが2人をめがけて急降下。


「……なっ⁉」


 ガシッ


 逃げようとしたドジェイルだったが、瀕死のレイジに腕を強く捕まれ、


「う、う、うわあああああああああ!!!」


 ドグシャッ!







 ──EXスキル:【限点回帰ダーク・リ・ターン


 時は逆行する。


「──ハッ」


 ドジェイルは未来から帰還した。


「……フッ、無駄なことを。いくら粘ろうともう手遅れですよ」


 すでに勝敗は決している。


「だと言うのに今さら未来予知など、使い古された小技も甚だしい」


 実に愚か極まりない行為である。


「流石に煩わしくなってきました。こうなったら一度距離を置くことに専念します」


 これまでも一応そうしてきたが、これからは違う。

 ガチで逃げる。

 本気で終わらせるためにガン逃げする。

 外野に何と言われようとも関係ない。

 どんな形であれ、最後に立っていた者が勝者なのだ


「こうしてる間にも……先を急ぎましょう」


 見つかる前にできるだけ距離を取ろう。

 なに、勝利は目前。  

 なので、ドジェイルは急ぎ足で去ろうとしたが、


「……おや? そういえば……ここは一体?」


 ふと周囲に違和感を覚える。

 

 辺りを見渡すと、そこはいつもと異なる景色。

 どうやら別の路地裏にいるみたいだ。


「……変、ですね」

 

 おかしい。

 回帰後には必ず同じ場所で再スタートされる。

 それも含めてこのEXの能力なはず。

 だというのに、今回は違う場所に着地している。

 いつもは転がっているであろう、あの女暗殺者の死体がどこにも見当たらない。


 ──ピーピー! ピーピー!


 少し上の方には鳥の巣がある。

 中ではピヨコたちがピヨピヨと鳴いている。

 寝起きで不機嫌なのか、お腹がペコペコなのか、ママがいなくて寂しいのか。


 どちらにせよ、この子たちの母親は現在お出かけ中で、どこかに行っているみたいだ。

 おそらく可愛い我が子の餌を探し求め、外を飛び回っているのだろう。


「……まあ、いいです。そういうこともあるのでしょう」


 機械とは違う、EXにも不具合だってある。

 そう思い直し、ドジェイルはピヨコたちにバイバイし、再び移動しようとした。


 ……グチャッ


 が、


 グチャッ……グチャッ……


 巣の方から何やら音がする。


 それは嫌に生々しい。

 この音はまるで……


 ドジェイルは恐る恐る振り返ってみると、


「ッ⁉」


 次の瞬間、言葉を失った。


 そこには一匹のネコがいた。

 紫がかった黒の毛並み、まだ小さいがトゲトゲしい翼、そして異様に長い先端がハートマークの尻尾。

 無駄のない引き締まったボディ。


 そう、カトリーヌちゃんだ。 

 マダムのペットであるカトリーヌちゃんが、ピヨコたちを直に食していた。


「カ、カトリーヌ……ちゃん……?」


 い、いつの間に……

 というか、なぜここにいる?

 ドジェイルは目を丸くしながら、彼女をただ唖然と見る。


「ビニャ~」


 当のカトリーヌちゃんと言えば、食後のくつろぎタイムへ。

 小さな前足でクシクシして毛並みを整えている。


 ──ピー! ピー!


 と、ここで、巣から脱出した最後の一匹。

 彼女の襲撃から命かながら逃げ延びた、唯一の生き残りだ。

 まだ慣れないピヨ足で頑張って逃げようとしている


「ビャ~?」


 しかし、無情にもカトリーヌちゃんの細まった目に映ってしまう。


 そのまま、シュンッ!


 ピヨ⁉ ピー! ピッ──グチャッ!


 ──自然界というの非常に残酷である。

 自身に向けられた容赦のない牙はいつも突然やってくる。

 理不尽な結末を受け入れなくてはならないのだから


 それは赤ちゃんだろうと、メスだろうと、手負いだろうと関係ない。

 強者が支配する絶対の世界。

 ある意味では皆平等であった。


「…………」


 可愛いそすぎる。

 子どもには決して見せられない。

 自然の厳しさを目の当たりにしてしまった。

 ドジェイルは茫然と立ちすくむ。

 人間で良かったとしみじみに思う。


「ビニャ~」


 取りこぼしもきちんと完食した良い子のカトリーヌちゃん。

 飼い主から与えられる餌だけでは物足りないのか。

 それとも生のお肉が食べたいのか。

 食べ盛り、そして意外と肉食系、そんなお年頃なのか、分からない。


「……ハッ! こんなことをしてる場合では!」

 

 チンタラしていると恐怖のEXレイジが来てしまう。

 それに彼女にはもうこれといって用がない。

 ドジェイルは我に返り、この場を離れようとしたが


「うっ⁉」


 背後から鋭い視線が。


 カトリーヌちゃん

 食後のカトリーヌちゃんが、ドジェイルのことをジッと見ている。

 

「…………」


 こちらを見たままずっと動かない。

 やはり彼女はネコなのか。

 ネコ特有の対象を見ながらたたずむその習性。

 いくら愛らしい見た目とはいえ、少し不気味に感じてしまう。


 ドジェイルも無言で目を向けている。

 いや、離せないと言うべきか。

 一人と一匹は互いに見合っていた。


 そして、


「そ、そんなに見つめて……私に興味をお持ちになったのですか? カトリーヌちゃん」


 なぜそうなる。

 だが、あり得ないことではない。

 時間軸を考えると、これがまだ初対面。

 追いかけっこをした過去は存在しないからだ。

 

「なるほど、出会いの違いでこうも変わるモノなのですね」


 人生とは歯車のわずかなズレで大きく変化するモノ。

 枕についた髪の毛の本数ですら、時に大きな分岐点となる。

 昔、禿げた偉い人の本でそう読んだ気がする。

 これもきっとそれだろう。


 自分はカトリーヌちゃんに気に入られてしまった。

 そう思い、ドジェイルは、フッフッフッ……


「さあ、共に参りましょう! カトリーヌちゃん! 私を未来へと導いてください!」


 彼女がいればこれほど心強いモノはない。

 レイジの追跡を振り切ることなど造作もない。

 勝った。

 元から確定していた勝利がさらなる勝ち確へと変わる。

 

 ドジェイルの下品な笑いが──

 

『──う~ん? さっきから一人でなに言ってるの?』


 しかし、どこからともなく声が。


「……ん?」

『そこのあなた、あなたのことよ。酷い顔の人間さん』


 違う、脳内に直接響いている。

 何者かの声が頭の中に、勝手に流れ込んでくる。


「こ、これは一体? どこにいるのですか? どこから声を……ハッ! も、もしや……」


 ドジェイルの目の先には、一匹のネコが。


『ウフフフッ、ちょうど誰もいないし、今回はあなたにしようかな』


 そして、


 目の前の生き物が、グニャリ。


「なッ⁉」


 形が歪んでいく。

 ネコだった何かがグニャグニャになりながら、次第に面積が広がっていく。


 建物に映る二つの影。

 その内の一つが、もう一つを模写するかの如く、似たような形へと近づていく。


 やがて、そこには、


「あ……ああ……あ……」


 紫がかった漆黒の髪色、吸い込まれそうな闇の瞳。


 一人の少女が、


「…………」



 立っていた。

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