45.本質
EXスキル:【限点回帰】
「──【炎魔】」
「のわああああああ! 熱い! 熱い! あ、つ、いいいいいッ!!!」
ボワアアアア! 焼死。
【限点回帰】
「──【水源操作】」
「ゴボッ⁉ ゴボゴボゴボゴボゴッ!!!」
肺の中に水を入れられ、溺死。
【限点】
「──【土竜壁】」
「あぎゃああああああ! 潰れる! ドジェイル潰れちゃうううう!!!」
地面に挟まれてめり込んでいく、圧迫死。
【回帰】
「──【幻楼魔】」
「どじぇええええい!!!」
幻覚による、発狂死。
EXスキル:【限点回帰】
──2人の時空を超えた戦いは未だ続いていた。
と言っても、片方の一方的なモノではあるが。
現在──いや、もはやいつなのか分からない。
とりあえず今は、レイジがひたすらにドジェイルを処刑しまくっている。
夏休みの自由研究。
様々なスキルを駆使しながら、何とかEXの突破を試みている場面だ。
EXスキル:【限点回帰】
「──雷王波動」
「ひょっ⁉︎」
ブォンッ!
塵一つ残さない、ショック死。
回帰するたびに光の速度で、それこそ逃げる間もなくやって来る。
あのエロ屋から最短で殺しに来るのだ。
殺せば殺すだけどんどん効率化されていく。
まさにドジェイルタイムアタック、DTA。
何をしていようが、どこに行こうとも、ソレは必ずやって来る。
例え過去に逃げようとも、そんなのは関係ない。
ただ見ただけなのに、関わりを持っただけで即終了の呪怨の如く。
避けることのできない、死をも超越したホラーすぎる恐怖。
ドジェイルの断末魔が止まらない。
EXスキル:【限点回帰】
やがて、止まったようだ。
EXレイジが処刑を中断した。
「…………」
ダメだ。
これ以上はどうやってもタイムが縮まりそうにない。
記録は3分35秒で自己ベスト。
これでも一応は世界最速である。
レイジは諦めた。
どうやらEXがある限り、この男を殺すことは本当に無理みたいだ。
そろそろ別の方法にシフトした方が良さそう。
「ハア……ハア……」
一方、ドジェイルは息を切らしながら地面に膝をついている。
今回はまだ無傷。
だが酷く疲労しており、汗もダラダラ、すでにボロボロな感じである。
「ハア……わ、私は……ハア……い、一体どうすれば……」
彼の立場になってよく想像して欲しい。
休む暇もなく幾度も殺されるのだ。
何度も何度も何度も。
変異者でも流石に擦り減ってくるモノがある。
もう何度目の回帰なのか。
一々カウントするのが面倒になってきた。
「こ、このドジェイルが……まさかこんな目に……」
ここまで差があってはどうしようもない。
対抗する手段がまるでない。
突破口が全然見つからないのだ。
まさに八方塞がり。
このまま無暗にやられ続けるのはよろしくない。
死というのは脳に大きく負担をかける。
慣れてはいるが、それを何度も受け続けると、いずれ精神が持たなくなる。
「……おや?」
そして、どうやらその時はやって来たらしい。
「ドジェ、イル……?」
変な名前、はたして誰であったか?
よく思い出せない。
徐々に内側から穴が空いていく感覚、薄れゆく自身の存在。
ドジェイルはただ深い絶望の中に苛まれていくだけであった。
「ああっ……あなたは一体………?」
そして、目の前にいる相手すらも。
自分を何度も殺した者の存在すらも曖昧なモノとなり、記憶の片隅へと遠ざかっていく。
「な、なんです? なんなんです? なんで見てるんですかッ⁉︎」
これは俗に言う、現実逃避。
人はたえ難い現実に直面した時、あるいは自分の力では覆しようのない困難に晒された時、自身を守るために自我を安全なところに避難させる。
そういう機能がデフォルトで備わっている。
「おや? わたしは一体なにを……?」
今のドジェイルの状態がまさにそれだ。
エマコのようにぶっ壊れたのではなく、あくまで正常に動いている。
ちゃんと脳が機能している証拠であった。
「ドジェ、イル……? ド、ドジェ?」
が、しかし、
「…………」
こっちを見るな。
チラチラ、チラチラと、気持ち悪い。
「は……?」
レイジの瞳から発せられた、ような気がする。
それはドジェイルにしか聞こえない声。
彼の冷たい言葉を受け、
「……あ……ああっ………ああああッ⁉」
異常は今、発生した。
──これはドジェイルがまだ学園にいた頃のお話。
当時のドジェイルは、というか今もそうだが、とある癖を持っていた。
その癖というのが、それを癖と呼んでいいのかは分からないが、何かと『チラ見』をするといった傾向があった。
これに俗称があるのかは些か不明。
あえて言うのなら、いわゆる”チラ見癖”というモノである。
これが中々に厄介。
クラスにいる可愛い同級生をつい何度も見てしまう。
街に綺麗なお姉さんがいたのなら、それを目でずつと追ってしまう。
好みな服装のうしろ姿を見ただけで「おっ!」となってしまう。
思春期の男の子なら誰しも経験があると思う。
しかし、ドジェイルはその頻度が異常だった。
常軌を逸していたのだ。
元来それは、真っ当に成長していけば自然と治っていくモノ。
社会人の節度として身に付いていくモノだ。
だが彼の場合、大人になってから意識しても全然。
今でも本当に苦労している。
油断しているとつい見てしまう。
首が勝手にねじ回ってしまう。
ずっと見てしまう。
好きな子、もしくはそれに準ずるくらい可愛い子。
彼女たちと目があったら急いでそらし、別の方向を見ているフリをする。
そしてまた、チラッ、チラッ、チラッ
まだ女子とかならそれは許されるだろう。
好きな男子を見つめ、目が合ったらキャー♡
青春という言葉はあまり好きではないが、はたから見ても何だか微笑ましいではないか。
でもドジェイルは違う。
彼はただの陰気で冴えない男子。
生涯未婚確定の〇〇。
そういうのとは一生無縁の人種である。
大人になって今思い返してみると、結構キモい。
きっと女子たちの間で絶対ウワサに。
決して呼ばれない同窓会でも話題に──
「──うわあああああああ!!! あああああああ!!!」
急に地面をゴロゴロと転げまわる。
狂ったかのように悶えだす。
「もう無理ッ! 無理ッ! ムリイイイイッ!」
絶対開かないように封印していた忌まわしい記憶。
「ああああああ!!! 死にたい死にたい死にたい!」
どんなに頭をガンガン打ち付けても、決して忘れることはできない。
「殺してッ! 殺してッ! お願いッ! 誰か殺してえええええ!!!」
黒歴史。ダークメモリアル。
ドジェイルは破滅衝動に全身が支配される。
「…………」
相手の苦しむ姿に、レイジは疑問を浮かべた。
こんな時に何を悶えている?
そんな場合ではないだろう。
と、流石に少し戸惑いを見せている。
だからと言って、彼の取る行動は特に変わりはしない。
これから、この黒歴史だらけの恥ずかしい男をひっ捕らえる。
どうやって始末するかは、その後にゆっくり考えればいい。
なに、手段はまだいくらでも──
──バシッ! ヒヒイイイインッ!
が、次の瞬間、
運転手を失い、暴走した馬車。
ジャラジャラとした重装備の暴れ馬が、狭い路地に侵入。
「ッ⁉」
間に合わない。
レイジはとっさにその場から離脱。
「うわああああああ!! ああああああ!!!」
しかし、ドジェイルは悶えているため、
そのまま、
ヒヒイイイインッ! ドグシャッ!
あっけなく巻き込まれてしまった。
思いっきり潰れた音がして、辺りに血がビチャッと飛び散る。
重装の狂馬があっという間に過ぎ去っていく。
ドジェイルが死んだ。
と同時に、空間がグニャリと捻じ曲がる。
周りの景色が黒い霧に覆われ、渦のようにレイジごと飲み込んでいく。
「ッ⁉」
コイツは……ッ⁉
EXスキル:【限点回帰】
発動した。




