44.EXレイジ
静寂に包まれるいつもの路地裏。
ただ違うのが、何事かと思うほどの大量の死体。
彼らの生々しい血の匂いが漂ってくる。
暗殺者たちが出てくる気配はない。
切らしてしまったか。
どうやらここら一帯の──いや、近隣の街にかけた全てのソレを葬り去ってしまったようだ。
「…………」
一人たたずむレイジ。
全身が軽く真っ赤に染まっているが、そのほとんどが返り血で、彼自身、これといった外傷は特に見られない。
もう誰にも敗北者なんて言わせない。
それは歴とした勝者の姿であった。
そ~っと、そ~っと、
誰か忘れてる気がする。
そ~っと、そ~っと、
そう、彼らを雇った依頼主の存在。
ドジェイルは腰を低くして地面にベッタリ。
そのまま匍匐前進で、背景と一体化して、この場から離れようとした。
「……ヒイッ⁉」
しかし、目の前の地面に短剣が突き刺さり、逃亡を阻まれてしまう。
ドジェイルは恐る恐る顔を見上げると、
そこにはレイジがいた。
バレていた、初めからバレバレだったのだ。
「あ、あなた……本当に、レイジさんなんですか?」
前まではそんな怖い感じではなかったはず。
醸し出す雰囲気があまりにも違い過ぎる。
これではもうほとんど別キャラ、裏レイジではないか。
「そ、その理不尽なほどの強さは、一体……」
どこから来るモノなのか。
ただスキルをパクっただけでなぜそれほどまで……
「こ、これではまるで、Aランクではありませんか!」
絶望的な力量差。
AとB、たった一つしか階級は違わない。
だが、2つの間にはかなり分厚い壁が隔たっている。
常人では到底登ることの叶わない、巨大な山がそびえ立っている。
並みBランクではどう考えても相手にならない。
ピヨコ対ネコ
というのをいち早く悟り、ドジェイルは心の奥底から震えあがる。
「……いえ、少し待ってください」
しかし、
「未だに信じられませんがあれほどをスキルを、しかも何発も使用したんです。MPの消費は尋常ではないはず」
何かブツブツと早口で言っている。
「それにアレだけの数の暗殺者を、彼らを相手にして何ともないはずがない」
まるで無理やり思い込もうとするように。
「つまり、これらの情報を正しく分析すると、今のあなたはMPが空だということ。どうです? 合ってますよね?」
MPが底をついている。
表面上は何とも無さそうに見える。
だが、実のところ結構満身創痍ではないのか。
でなければ自分はとっくに殺されて、時間が回帰しているはずだ。
その問いに、レイジはコクッとうなづいた。
余裕のつもりなのか、それとも善人モードなのか、はたまた相手に希望を持たせてあげてるのか。
性格が終わってる彼にしては、やけに素直な返事であった。
「なるほど……やはりそうでしたか……」
澄み切っている、嘘を吐く者のする目ではない。
ということは、今のレイジは本当に……。
「フッフッフッ……喋りすぎましたねッ!」
バッ!
突然、ドジェイルがバッと距離を取った。
「見せてあげます! 我がMPの──」
以下略。
すかさず術の発動準備に取り掛かる。
大きく掲げた杖に、大気中のMPが一つに収縮されていく。
次第に巨大化していき、辺りを一際照らす煌びやかな光となる。
そして、
「これが正真正銘、ラストですッ! 行きなさいッ! 超弾!」
奥義をぶっ放す。
それはドジェイルの持てる、全てのMPで作り上げた結晶。
躱すことは絶対不可の光弾が、レイジに向かって襲い掛かる。
「終わりですッ! レイジ=アルバード!」
だが、
「…………」
もういい、見飽きた。
あと、今の間で少しだけ回復した。
「──スキル【MP封印】」
レイジが右手を前にかざす。
するとそこに、色合いの歪むバリアのようなモノが出現。
「なッ⁉」
ドジェイルの放った光弾が、まるで吸い込まれるように、シュルシュルとその中へと消えていく。
バリアが徐々に広がっていく。
やがて、ピキッ
無効化できる限界を超えたようだ。
バリアにひびが入り、そのままガラスみたいに粉々に砕けてしまった。
ちょうど良い感じにドジェイルの奥義を相殺した。
「そ、そんな、馬鹿な……」
究極奥義を真正面から防がれた。
メスガキフィアンセの時みたく無視するならまだしも、あろうことかスキル単体のみで全てを防御した。
ドジェイルは開いた口が塞がらない。
「わ、私の超弾が……あ、あり得ません……」
圧倒的な力の差。
レイジは静かにたたずんでいる。
してやったりだとかドヤ顔を決める様子は全くない
「…………」
こういうこともできる。
レイジは次に腕を空高く上げ、手のひらを広げた。
「──スキル【MP補完】」
周りから小さな光がポツポツと浮き出し、それが彼の元へと集まっていく。
手の平から下に伝って、身体の方へ吸収されていく
戦闘により大気中に散らばったMP、
死体に残り香のように付着するMP、
植物に元来含まれるという食物性MP、
その他に様々なMPを少しずつ拝借する。
──いくつかの補強系スキルを同時並行で使用。
それらが相乗的に合わさることで、各スキルの性能が飛躍的に向上。
その効力は、並程度の属性系スキルでも一気に最強クラスへ変わるほど。
つまりスキルの限界を超えて、本来はあり得ない数段先の力まで使用できる。
それが今のレイジの、暗殺者たちからパクった総合的な力である。
借り物の力、その集大成。
やがて、全回復したようだ。
入りきらなくなり行き場を失った光たちが、レイジの周りをふわふわと漂っている。
せっかく呼ばれて来てあげたのに、酷い話である。
「こ、こんなことが、あっていいのですか……」
ドジェイルはただ唖然とするのみ。
クッキリとした絶望感が顔によく出ている。
──そう、餌だった。
彼の雇い入れた暗殺者たちは全員、レイジにとってはご飯同然。
【天性解除】の良いおやつ。
「夢、でしょうか? 私は今、夢でも見てるのですか?」
残念ながら全て現実である。
いま相対しているのは、あらゆるスキルを所持した万能。
人知を軽く超えかけの存在。
「…………」
仮にこの姿に名称があるとすれば、覚醒レイジ。
いや、超レイジ。違う、Aランクレイジ。
つまり、それらを総合して=EXレイジ。
そう定義するのが適切だろう。
スッ……
EXレイジの短剣が、光を生成。
「──真聖剣光撃」
再び空にかかげた。
それは前に見せた術よりもさらに巨大な光の柱。
空高く昇り、雲を突き破り、そして天を貫く。
まるで伝説の勇者が、伝説の聖剣で放つ最終奥義。
【炎魔】【雷王】【風天】【土剛】【闇壊】
この技は【光覇】以外の上記五属性で構成される。
彼の場合は雷が色濃く出てくるのか、それとも多属性を混ぜると皆こうなってしまうのか。
もはや良く分からない紫電の光が、弾けるような音と共に辺りに放出される。
「な、なんという……」
ドジェイルは衝撃を受ける。
もう逃げることはおろか、鼻呼吸すらも忘れてしまう。
不思議と恐怖はなかった。
これから自分に向けて放たれるというに、相手の奥義に見入っていた。
一生のうちに出会えるか分からない。
それこそ一生お目にかかれないかもしれない。
そんな力に魅了されていた。
「…………」
とりあえず一回殺しておこう。
その方が区切りが良いというモノ。
そう思い、レイジは腕に掲げる聖剣を、
「う、う、うわあああああ!!!!」
振り下ろした。




