42.幹部の報復
──EXスキル:【限点回帰】
時は逆行する。
「……はっ!」
レイジは未来から帰還した。
彼ほどになってくると、もはや辺りを見渡す必要はない。
匂いとか地の感触とかで状況を把握できてしまう。
「ハア……ハア……」
よくご存じの通り、ここは例のエロ防具があるお店。
今回で、実に10回目の回帰となる。
「ハア……やっぱりアイツ……あの場所に」
ドジェイルのEXが発動した。
それは、あの場所にエマコがいたことを如実に現わしている。
彼女が彼を殺害したおかげで戻って来れたというわけだ。
「……チッ」
初めからある程度の目星はつけていた。
その予想は見事的中、案の定、エマコはあの付近に潜んでいた。
あそこに隠れて様子を伺っていたのか。
本当はすぐにでもぶっ殺しに行きたいところだが、今はアイナの仇が先決。
「うっ……ぐっ……くそッ」
前回の余韻がまだ残っている。
通常の人間ならば一生に一度で最後となる体験。
レイジはその死というモノを初めて経験した。
意外にあっけなく逝けるとか、安らかな眠りとはほど遠い。
身体が強制的に冷たくなる感覚。
深い眠りにつくとか、決して生易しいモノではない。
まるで薬品を投与されたみたいに意識が遠のいていく。
最後の辺りはもう痛みはなかった。
意志や気力なんかではとても抗えない。
あの感覚は忘れることはできないし、あんな死に方は二度とごめんだ。
それがレイジの抱いた初感であった。
「ッ! まだ残ってやがるのか」
ひどく息が荒れる中、レイジは自分の手の平を見ながら、内側にあるスキル一覧を確認する。
そこには大量のスキルで溢れかえっていた。
前回、街中の暗殺者たちから根こそぎパクったモノ
もちろん大事な【農作者】だってちゃんと残っている。
もう返さない。
全部レイジのモノだ。
EXスキル【天性解除】の前に、時間回帰の法則は当てはまらない。
例え時が逆行しようともそれは変わらない。
どうやらEXの優先権はこちらにあるようだ。
力が強いのは、レイジの方だ。
「……とっ散らかってるな。だが、まあいい」
とりあえず【農作者】が無事ならそれでいい。
あとで一通り整理したいところ。
そう思い、レイジはお店を出ようとしたが、
「うぅっ⁉」
突然、グラッ、床に手をついてしまう。
「な、なんだよ……こんな時に、めまいかよ……」
それだけではない。
気分もすこぶる悪い。
症状がエマコや幹部に会った時よりもずっと酷い。
「く、クソッ……」
目まで霞んでくる。やがて、
バタッ
エロ屋のど真ん中で意識を失った。
──一方その頃、場所は変わって。
ここはレイジたちのいる街とは違う、少しだけ離れた遠いところ。
まだ比較的新しめの外観。
書斎のような高尚感が漂う、とある部屋の一室。
中にいるのは、全身を黒でバッチリキメたオールバックの男。
それと、似たような恰好のシルバーヘヤーの男の2人だけ。
オールバックの方は突っ立っており、シルバーヘヤーの方は机椅子にゆったりしている。
お互いに机を挟んで向き合っているという構図だ。
部屋の空気がなんだか重苦しい。
この緊張感、雰囲気からして闇世界の住人かもしれない。
少なくとも一般の者ではなさそうだ。
「で、こんな昼間っから一体何のようだ? わざわざこっちから出向いてやったんだ、半端な話なら容赦はしねえ」
オールバックが髪を後ろのやりつつ問いかける。
「先日、あちらにある同組織が壊滅した。いくら無頓着なお前でもそれくらいは耳にしているだろう」
対して、シルバーヘヤーは落ちついた物言いでそう答えた。
「ああ、聞いてる。街の名前は……よく覚えちゃいないが、とにかくそこを拠点とする幹部が何者かにやられた。そう言いてぇんだろ?」
相手の問いかけに、シルバーヘヤーは無言で返す。
それで合っている。
「で、どっちがやられたんだ? デブの方か? それとも髭の方か?」
ママか、それともダンディか。
その問いに、シルバーヘヤーは少し間をおいて、
「……両方だ」
「な、なんだと⁉」
ガタッ
驚きを隠せないオールバック。
「幹部を2人も失っちまったってことか⁉」
「その通りだ。さらに報告によると、彼らはほぼ同時刻に襲撃を受けたらしい」
「チッ、アイツら幹部のくせして店舗経営なんてするからそうなるんだ。本業が疎かになっちまうのは目に見えてんだろうが」
だから足元をすくわれるハメになる。
「その点俺たち、特にあんたは違う。日頃から足がつかないよう質素な暮らしを心掛けている」
ひっそりと目立たずに、痕跡は一切残さない。
誰も自分たちが闇組織の幹部だとは思わないだろう
「それでもだ。慢心は危険だぞ。オールバック」
「ああ、言われなくともそこんとこはよーく分かってる。じゃなければこの地位には立っていられない。だろ? シルバーヘヤー」
「ならいい。で、彼らを襲撃した奴らについてだが、とりあえずこれを見てくれ」
と言って、シルバーヘヤーが二枚の写真を机に広げた。
「なんだよ、今回はやけに話が早えじゃねえか」
オールバックはグチグチ言いつつも写真を手に取り、そこに映っている人物を確認する。
「ほう、コイツらの名はなんて言うんだ?」
「男の方がレイジ=アルバード、女の方はエマコ=エマージェンス。どちらもBランクの冒険者だ」
「年齢は、18? はん、まだガキじゃねえか。こんな奴らに潰されるんじゃ、俺たち幹部もいよいよ終わりだな」
シルバーヘヤーはまたも無言。
「相手が分かってるなら、なんでまだ報復してねえんだ? いつの間にそんなぬるい組織に成り下がったんだ、俺たちはよ」
「油断するなと言っただろう。たった2人の冒険者相手に組織が全滅したんだぞ。ここは慎重に対処すべきだ」
加えて不可解なことがある。
それは彼らの所属するパーティが、突然何の前触れもなく解散したことだ。
「さらにはそのリーダー、バーネット=ブレイブルが行方不明だということだ。何かトラブルがあったのか。俺が思うに、揉め事とか。例えば男女関係がそうだ」
そういうのはパーティ間では良くあるお話。
今回の事と少なからず関係しているかもしれない。
シルバーヘヤーはそう推測する。
「おいおい、パズルのやりすぎも大概にしろってんだ。何でも関連付けようとすんのがお前の悪いクセだぜ」
「いや、コイツらには何か裏がある。俺の勘がそう言っているんだ。お前も気をつけろ、オールバック」
いずれにしても警戒しておいた方が良い。
自分の命、立場を守るためにも。
「あー。で、まさか忠告のためにわざわざ俺を呼んだんじゃないよな?」
最初に言ったはずだ。
つまらない話をすればどうなるか。
「当然だ。今回お前には折り合って頼みたいことがある。まずはコレを見てくれ」
と言って、シルバーヘヤーはフイッと目を横に向けた。
そこには人間がたくさん入りそうな木製の箱が3つほど置いてある。
「この匂い……火薬か。どうりでクセえ部屋だと思ったよ」
「ああ、先日に得意先から大量に入手したモノだ」
「資源が何かと不足しているこのご時世、また随分と気前がいいな。例の裏ルートって奴か?」
シルバーヘヤーは色々と顔が広い。特に闇市場において。
「なるほど、コイツで派手にやっちまおう。そういうワケだな」
ドカンと。
「ああ、奴らは喧嘩を売る相手を間違えた。一度ハッキリと後悔してもらおう。ありもしない新大陸を目指して、航海することを決めた冒険家のようにな」
その身を持って体感してもらう。
男は即始末。女は容赦なく○○○にする。
それが組織の常識。自分たちにたてつく者への制裁
「男の方はお前に任せるぞ。厄介な方はこっちで始末する」
とりあえずクソガキの方はオールバックが、そして生意気で言うことを聞かないメスガキはシルバーヘヤーが。
なに、世の中の厳しさというモノを存分に分からせて──
「──おいおいおい、なにシレッと女を横取りしようとしてんだ? ヤキが回ったな、シルバーヘヤー」
「勘違いするな。危険な方は俺が対処してやる言っているんだ。少しは口を慎しめ、オールバック」
別にロリ趣味などない。
そう言って、シルバーヘヤーは鋭い眼光で威圧する
「チッ」
「それに爆弾はお前の専売特許のはずだ。この方が適任だろう」
「人を爆弾魔みたいに言うのはやめろ。まあ否定はしないが」
まんざらではないと言った感じのオールバック。
そのまま隙あらばとばかりに語りだす。
「いいか? 爆弾っていうのは俺にとっちゃあ一種の女みたいなモノだ。繊細で扱いづらいがその分──」
「──長くなるか? 悪いがその話はまた今度聞いてやる。さっそくだが、お前はあの街に向かってくれ。俺も後から向かう」
「チッ、相変わらず気に食わねえ野郎だ。だがまあ、久々のあんたからの仕事だ。有り難く引き受けさせてもらおう」
昔、部下だった頃を思い出す。
「ああ。だがくれぐれも用心しろ」
懐かしくなる。
それは、シルバーヘヤーも同じみたいだ。
要件はもう伝えた。
なのでこれからは別行動になる。
暗殺と捕縛、幹部ショーの始まりだ。
と、その前に……、
チッ、チッ、チッチッチッ
「おい、俺の部屋で薬はやめろ。何度も言ったはずだぞ」
匂いが充満して嫌になる。しかも中々取れない。
やるなら外か、自分の部屋でやれ。
シルバーヘヤーがそう注意する。
「つれねえこと言うなよ、俺たちの仲だ。第一、おめえだってヤッてるだろ」
「俺のは合法だ。だがお前はそうじゃない」
「いいや、俺たちの世界じゃコイツも合法だ。それによ、俺は別に気にしねえ」
オールバックは構わず親指と人差し指をこすり、火を出そうとしている。
その仕草を見て、シルバーヘヤーの眉が少し吊り上がる。
「たまには良いじゃねえか。それに我慢するのは返って身体に毒ってもんだ」
それに外だと、万が一憲兵にでも見つかったらどうなるか。
牢屋にぶち込まれてショーどころではなくなってしまう。
間抜けすぎるではないか。
チッ、チッ、チッ
オールバックは指の擦りをやめようとしない。
「…………」
シルバーヘヤーは無言。
顔に影ができて確認できない。
「つきが悪いな、最近めっきり使ってなかったからな。頼むぜ~、俺のスキルさんよ~」
自分のスキルに焦らされてる。
だがソレもたまらない。
薬をキメる時の、一種の醍醐味という奴だ。
「おっ! やっとつきやがった。よーしよし」
そして、ようやくついたらしい。
オールバックは口にくわえた巻紙を、親指に近づけようとしたが、
「──やめろと言っているんだッ! この薬物中毒者がッ!」
激高したシルバーヘヤー。
火のついたソレを素早く払い飛ばす。
しかし、ソレが大量の火薬箱に、ポトリ。
「あっ」
次の瞬間、
≫≫バンッ!≪≪
全て吹き飛んだ。
──一方その頃、場所は元に戻り。
ここは街中、民家の屋根の上。
シューン
小さな木枯らしの過ぎ去る音。
「…………」
レイジがいる。
屋根の上で、無言で突っ立つレイジがいる。
「ヒッヒッヒッ……探しましたよ、レイジさん」
それと、ドジェイル。
相変わらず薄気味悪い笑みを浮かべている。
「…………」
そんな彼の背後には、全身黒フードの男たちが。
もれなく大量にいる。
言うまでもなく全員暗殺者だ。
「見ての通りです。ええ、はい。今回は初めからお願いしておきました。この街にいる全ての暗殺者に、ね」
さらに近隣の街にも依頼を要請しておいた。
これからどんどん、続々とやって来る。
「もちろん、あなたの情報もちゃんと伝えてあります。他人のスキルを奪う非道な能力だと」
こういうのは事前の情報の有無で、結構違ってくる。
なにせ、初見殺しされることが無くなるのだから。
ザッ
暗殺者たちも一人一人が最大限に警戒を高めている
「フッフッフッ、どうします? 困りましたねえ、これで完全に立ち行かなくなってしまったのですから」
「…………」
レイジは無言。
前回あれだけ悲惨な目にあった。
恐怖しないほうがおかしいくらいだ。
おそらく目の前の状況に、為すすべがなく絶望しているのだろう。
その表情には一切の変化が見られない。
「先ほどは邪魔が入ってしまいましたが、今回は距離的にそれもあり得ません」
ここならあのメスガキフィアンセが現れることはない、はず。
もう同じ鉄を踏むことはしない。
今度こそ大金を手にしてやる。
その先にあるのは、もちろん……
「スロライハーレム生活ですッ! さあ、暗殺者の皆さん! ヤッてしまいなさい!」
これはひどい。
依頼主の合図で、暗殺者たちが一斉に襲い掛かる。
「…………」
しかし、バチッ
瞳を流れる蒼い光電。
「──雷王」
耳が張り裂けるようなスパーク音。
それは、レイジの右腕から突如出現した、巨大なMPの集合体。
周囲に漏電するほどの、高出力のエネルギーの塊。
「波動」
物静かな言動。
それとは違い、前方に向け盛大に薙ぎ払う。
「なッ⁉ ひいっ⁉」
広範囲でド派手な一撃。
見かけ倒しではない。
暗殺者たちは皆消し飛ばされ、不規則な光の柱が、ドジェイルの頭上をかすめる
バチッ……バチバチッ……バチッ
「…………」
一掃した。




