41.エマコの世界
現れたのは、エマコ。
その正体、消息が一切不明の少女、エマコ=エマージェンスだった。
「またお仲間ですか。はあ、いい加減にしてください」
突然出てきた3人目の刺客に、ドジェイルはさも辟易した。
この街は敵が多すぎる。
もういっそのこと別の場所に移動しようか。
そうな考えがつい頭の中にチラついてしまう。
一方のエマコといえば、
「うーん……仲間っていうか、レイジ君の婚約者? 未来のお嫁さん、的な?」
フィアンセの頭を抱えたまま、比較的何ともない感じ。
様子からして相変わらず、全く懲りていないようだ
「そういうあなたは? ソレの共犯者?」
「共犯……少し違いますが、まあ似たようなモノでしょう」
「ふーん、やっぱりそうなんだ」
「そうです。彼の暗殺を依頼した張本人ですよ。私は」
早くも挑発モードのドジェイル。
リア充は絶対に許さない。
婚約者を殺してえらく勝ち誇った顔をしている。
「ふ~ん、すごいね」
「……なんですか? フィアンセが殺されたというのに、先ほどからその興味なさげな返事は?」
「うん、あなたの事なんてどうでもいいの。だって私、レイジ君のことしか頭にないから」
「ですから、その彼は今、この私が──」
ブ男が何か言っているが、エマコは無視。
眼中にないといった感じで、ふと周りを見渡した。
そこには辺り一面、彼女がヤッたモノ以外にも、数多くの死体が転がっている
それらを一通り眺め、
「かわいそうに。みんなで寄ってたかってレイジ君をイジメたんだね」
「フッフッフ、ご安心を。これからあなたも彼と同じところに──」
「でも安心して? 私が懲らしめてあげるから。二度とこんなことにならないように、ねっ?」
「…………」
エマコは腕に抱える頭を優しく撫でている。
反応が一切ない彼を存分に甘やかしている。
「とち狂ってますね……なるほど、目の前に現実を直視できないと言ったところですか。可愛そうに」
こうなってしまうのも無理はない。
何せ、永久の愛を誓いあった大切な相手が、突然いなくなってしまったのだから。
おそらくもう壊れてしまったのだろう。
「俗にいうヤンデレというヤツでしょうか?」
加えてロリ体系。
「まさかレイジさんにこんな彼女がいたなんて、少し羨ましいですよ」
ズルい、ズル過ぎる。
ドジェイルは素直に嫉妬心を覚えてしまう。
今まで異性との交際経験がない彼にとって、まさに夢ような話であった。
しかし、これからは違う。
なぜなら自分もすぐにそうなるから。
夢にまで見た夢のチートハレームスローライフ生活が待っている。
大金を手にしたドジェイルの内面は無敵だった。
加えて、先ほど雇った暗殺者が目の前のヤンデレによって殺害された。
これが何を意味するのか。
もう対象がいないのだから、バカ高い暗殺料を支払う必要がない。
つまり、通帳にある全ての額を、丸々使うことができるのだ。
バッ!
「見せてあげます! 我がMPの究極を!」
今なら誰にも負ける気がしない。
ドジェイルは杖に溜まるMPを一つに集約させる。
「すぐにレイジさんに会わせてあげます! この私、ドジェイルは慈悲深い!」
顔とか属性は好みだが、他の男のお古なんていらない。
高速回転する巨大なエネルギーの塊。
シュイイイインッ
そして、
「死になさい! 超弾!」
MPによって変換された無数の光弾を、一斉掃射。
「ッ! アハッ☆」
それら一つ一つに意思があるかのような軌道。
周囲を覆いつくすほどの、逃げ場のない光の集団が、エマコに向けて襲い掛かる
しかし、
ギラリとギラついた深い赤。
まず彼の頭を真上に放り投げる。
次に木ペンを取り出し、煌びやかな光を込め、周囲に散りばめ、身代わりの術。
あとは……デュンッ! 全無視!
一瞬でドジェイルの懐へ潜り込んだ。
先ほどの放った術は一体何だったのか。
囮に使用したペンの意味は?
少し遠いところから、狙いを見失った光弾たちの悲しい音がこだまする。
「なッ、ななッ⁉」
ドジェイルは驚愕。
術を使用した0.5秒後に目の前に少女いたのだ。
こんなの目を開かずにはいられない。
「ッ! が、しかしッ!」
速いのは某ネコでとっくに体験済み。
瞬時に切り替え、
「武器がなければ術は使えないッ! 常識ですッ!」
その薄い恰好のどこに隠しているのか。
否、おそらく持ち合わせていないのだろう。
武器もないのに戦おうなど、まさしく自殺に等しい行為。
もっとも、すでに出して応戦する暇などない!
「痺れなさい! 衝──」
「──フンッ!」
ドゴラッ!
エマコの豪快に振るう右腕が、杖を、纏う術ごと、濁流のように粉砕。
「……は?」
粉々になったMPやら木の破片。
それらの末端がドジェイルの瞳に映り込む。
エマコの払った右手がMPの残骸でバチッとなる。
「す、素手でッ⁉」
生身で術を破壊した。
人体のみでMPに干渉してきた。
そんなのあり得ない、悪い夢でも見ているのか。
目の前で起きた事象に、ドジェイルは凍り付きを余儀なくされた。
──そう、もっと早くに気付くべきだった。
この少女が、隻腕だったとはいえ、あの優秀な暗殺者を無傷で殺したこと。
「そ、その手に付いた血は一体……ッ⁉」
彼女が現れた時、武器の類は一切持っていなかったこと。
あろうことか彼を両手で抱えていたことに。
「ハッ! まさかあなた……特異体質──」
この少女だけには絶対、遭遇してはいけないことに
「──この落とし前、ちゃんと取ってよね?」
エマコ=エマージェンス、
「──刀波」
深紅の光を乗っけた手刀、一直線に振り下ろす。
それは空気をも切り裂く、恐ろしく鋭利な一撃。
「くッ⁉ 結盾!」
ドジェイルはとっさにサブの短剣を取り出し、攻撃の軌道上に構えるも、
……ストン
武器が真っ二つ。
余波で発生した真空の刃が、身体の間を通り抜けた。
盾が破られるような破壊音は特になかった。
地面スレスレでピタッと止まるその動き。
一流の剣士からしても見張るモノがある。
まるで最上級の剣で振るったかのような、惚れ惚れするほど静かで透き通った斬撃音。
いつぞやの奴隷っ子と同じ末路。
「あ……あがっ……」
ドジェイルの両目がズンムリと逆巻き、白目。
そのまま身体に縦線が入り、2つに倒れてしまった
綺麗に真っ二つ、ご開帳。
割れた短剣の音だけが路地裏に虚しく響き渡る。
カランコロ〜ン、カラン、と。
「はい、おっしま~い☆」
クルクルクル〜、パシッ!
さっき放り投げた彼の頭を見事キャッチ。
「……ふう」
片付いたみたいだ。
静寂の中、エマコは一息つく。
「これでやっと2人っきりだね! 久しぶり、レイジ君!」
返事のない彼に、一切曇りのない笑顔で話しける。
「レイジ君ってばこんな相手にも勝てないの? はあ、相変わらずダメダメなんだね~」
言葉の割にはなんだか嬉しそう。
「これでよ~く分かったでしょ? やっぱりレイジ君は私がいないとダメなんだよ! うん!」
頭わるわるのレイジでもちゃんと理解できたはず。
「褒めて? ねえ褒めて~。レイジ君、私ね、レイジ君にもっといっぱい褒めて欲しいの!」
エマコ今日頑張ったし、もう疲れたし、今夜は頭をナデナデしながら添い寝して欲しいところ。
「あっ、このままじゃ話せないか。ごめんね? 私だけ言いたいこと言っちゃって。待ってて、すぐに戻してあげるから」
エマコは辺りをウロウロし、
「う~ん、どれかな~?……あっ! これだ!」
見つけたみたいだ。
彼のうす汚れたボディに歩いて近寄った。
「ふふ~ん♪」
しゃがみ込み、頭を首の切断箇所まで持っていき、
「えいっ!」
グチュグチュ、グチュグチュグチュグチュ
グチュグチュ、グチュグチュグチュグチュ (自主音)
グチュグチュグチュ、グチュ
そして、
「はい! これでもっと通り~!」
ヒーラーもびっくりの荒治療。
雑に切断されたはずの生首が綺麗にくっついた。
まるで時間が戻ったかのような再生っぷりだ。
「……あれ? 起きない。なんでだろ?」
しかし、愛しの彼は目覚めない。
起そうとユサユサしても、試しに数発引っ叩いてみても、先ほど同じように反応が全くない。
まだ何か足りないというのか。
「あっ、そっか! おはようのチューがまだだったね! すっかり忘れてたよ!」
悪い魔女の呪いによって深い眠りに落ちたお姫様は、王子様のキスで呪いが解け目を覚ます。
という古くから伝わるおとぎ話がある。
昔よく本で読んだモノだ。
今回はソレの逆版。
「ちょっと恥ずかしいかも……だけど……」
チラッ
「ん~~」
お姫様は目を閉じながら顔を近づけ、愛の力で王子様を起こそうとした。
「…………」
が、彼の口元からツーッと流れ出る赤い液体。
「えっ……なん、で……?」
意味が分からない。
「どうして……どうして起きないの?」
傷は完治させた、もうとっくに目を覚してるはずだ
「えっ、えっ? こんなの変だよ……だってこれ、私ちゃんとレイジの身体を……っ」
違う、単にエマコの能力ではこれが限界なだけだ。
当の本人もとっくに気づいている。
「嫌だよ、返事してよ……レイジ君、ねえ、ねえ!」
今まで知らないフリをしていた。
ずっと目を背けていた。
「寝てるだけだよね? いつものお寝坊さんなだけだよね? そう言ってよ! ねえ!」
どんなに傷を治せたとしても、元の状態に戻せたとしても、
「……い、いや……いやぁ……」
消えた命までは還らない。
彼の魂はすでに別の場所へ。
上か下か、もうここにはいない。
耐え難い現実に直面し、エマコの、
「いやああああああああ!!!」
世界が、再び崩壊した。
少女の壮絶な叫び、深い悲しみ。
置いて行かれた者の悲痛な感情が路地へ響き渡る。
「うぅ……えぐっ……レイジ君……レイジ君……」
名前をいくら呼んでも返事はない。
少女のすすり泣く声しか聞こえない。
「わからないよ……ねえレイジ君、私はこの物語のヒロインで、レイジ君は白馬の王子様で、いつか私のことを迎えに来てくれる……そういうお話じゃなかったの?」
必ず2人で幸せなハッピーエンドを迎えよう。
そう約束してくれたのに。
あれは嘘だったのか。
全部口からの出まかせだったのか。
「私のやってきたことは間違ってたの? じゃあどうすれば良かったの? エマコ、もう何にもわからないよ……レイジくんお願い、お願いだから何か言ってよぉ!」
しばらくの間は大人しくしていたが、
「ああああああ!!! もうッ! どうして私だけこうなるの! いっつも! いっつも! いっつもこうだよッ!」
つい感情的になってしまい、グシャア! 抱える死体を力いっぱい地面に叩きつけた。
せっかく直したというのにまた首が取れてしまう。
いくらグチャグチャになろうがもう関係ない。
何度も繰り返す。
その根源は絶望からやって来るモノ。
どんなに頑張っても上手くいかない、世の中の全てに対する絶望。
エマコの歪んだ顔が返り血に染まっていく。
「もういい! もういいよ! 全部いらないッ! お金も! お洋服も! 指輪だって! レイジ君がいないんじゃ何にも意味ないよッ!」
ヤケクソエマコが発現。
深い悲しみが激しい怒りへ変わった時、
どこにも向けられない憎しみへ変わった時、
「こんな世界、何もかも無くなっちゃえばいいんだ」
なぜか周囲に向いた時、
「うん、それが良いよ……お空にいるレイジ君もきっと喜んでくれる……そうだよ……私は一人じゃない……うん……うん」
胸を抑える少女の身体から、突如としてドス黒いオーラが。
これまでとは違う。
より禍々しく金色の膜が纏わりついた漆黒の狂気。
……スッ
「最後まで見ててね、レイジ君」
エンドレスエマコが、
「〜〜ッ! 行くよッ!」
始動した。
──この日、一人の怪物の誕生に、世界は震撼した。
どんなに願ったところで、愛する彼に会うことは決して叶わない。
ならせめて届けよう、これは彼へ捧げる愛の歌。
死ねない少女の壮大なとばっちり、八つ当たり、理不尽が世界に牙を向ける。
その先にあるのは破滅か、あるいは……
衝突のEX ~完~
⭐︎あとがき⭐︎
明日から朝の8時前くらいに投下します。
あと皆さんのおかげで総ポが初の3桁台に突入しました。
本当にありがとうございます!




