40.エピローグ
依頼主のドジェイルが降りてきた。
「おっと、ダメです。まだ殺さないでください。トドメは私が……って、ほう?」
おびただしい量の血が地面に広がる。
すでに依頼にかけた人物は死亡していた。
「少し遅かったですか。まあいいでしょう、始末したのならそれでいいです。はい」
最後は自分の手で終わらせたかったが、そんなのはほんの些細なこだわりに過ぎない。
とりあえず目の前の結果に満足する。
少しの間ナマの死体を鑑賞したあと、不意に周りをチラチラ。
彼の目には、無残に横たわる暗殺者たちの死体が映っていた。
「ここに来るまでもそうでしたが、少々やられすぎでは?……おや? もしかして、ひょっとしてあなた以外全員……?」
殺されてしまったのか?
依頼主のその問いに、暗殺者はコクッと返事をする
「……妙ですね。私と戦った時は、それほど強くはなかったはずですが……」
ドジェイルはある疑問を浮かべた。
あの時、レイジと戦った時、最後に不意打ちで負けはしたが、正直なところ内容的には自分が勝っていた。
そう断言していい。
決して負け惜しみとかそういうのではない。
その自分より弱いはずの男が、複数の、さらに数十人の暗殺者を相手にこれほど善戦できるモノなのだろうか。
少なくとも自分には絶対無理。
1分持つかも怪しいレベルだ。
「えっ? なんです? 相手のスキルを奪う能力?」
しかし、深まる謎はすぐに解明された。
暗殺者がヒソヒソと耳打ちし、ことの経緯を端的に分かりやすく説明。
親切に教えてもらい、ドジェイルは、ニヤリ。
「他人の才能を奪う力ですか……なんと恐ろしい能力なのでしょう。聞いただけでゾッとしますよ」
一体どう過ごしたらそんな能力が発現するのか。
これは彼の人間性を疑ってしまう。
「ですが……なるほど、そうでしたか。レイジさん、あなたもでしたか」
どうやら自分たちは似た類の能力を持っていたようだ。
性質が近い、同レベルの力。
だから干渉された。
「私の【限点回帰】を奪えないのを見るにそうことでしょう。まあ、今となってはどうでもいい話ですがね」
死んでしまっては意味がない。
2人で組めばもっと面白いことが出来たかも。
考えると惜しくなるような、残念な気が湧いてくる
……いや、やっぱりそんなことはない。
彼とは基本的に反りが合わない。
性質は陰と陽、自分とは対極に位置する存在。
私生活では絶対に関わることはない。
仮にも関わってしまった場合、必ずと言っていいほど嫌な思いをさせられる、忌まわしき存在だ。
ドジェイルは何度もうなずき、しみじみとそう思う
隻腕の暗殺者
──ザザッ
片足で頭を踏みつけ固定、そのまま、ブシュッ!
「それをどうするつもりなのですか?」
標的の首から上を切り取り、髪を雑に掴んで持っている。
彼の行動を不思議に思ったドジェイルが質問した。
「…………」
これからこの薄汚い首を裏ギルドに持っていく。
報酬はそこで正式に受け取ることにする。
その方が後でお互いに揉めなくて済む。
面倒ごとやトラブルは極力避けた方がいいだろう。
暗殺者は手の動きでそう説明した。
「なるほど、それもそうですね。では先に行っててください。私は少しやることがあるので」
ドジェイルが先に行くよう指示。
「……?」
暗殺者はそれを疑問に思う。
しかしすぐに向きを直し、その場からシュンッと去って行った。
「……さて、始めますか」
その背中が見えなくなったのを確認。
すると、フイッ。
ドジェイルは真下に目を向けた。
彼はこれから、この首なしの持ち物をガサゴソするつもりだ。
暗殺者を雇ったまでは良い。
だが問題なことに、このままでは料金が支払えない
闇の住人相手に踏み倒すのは不味い。
そんなことをすれば裏ギルドのブラックリストに載り、誰かさんのように生首を回収されてしまうかもしれない。
これ以上敵を作るのは勘弁。
そこで落ちている死体を物色して、何か金目のモノがないか探ろうとしている。
目の前のBランク冒険者なら、きっと何かあるはずだ。
「っ! これはもしや……通帳では⁉」
そして、どうやら見つけたようだ。
ドジェイルは黒い手帳を怪しげに摘みあげた。
どれどれ。
さっそく開いて、中に記載されている額を確認すると、
「なっ⁉ なんですかこれは⁉︎」
その数字に驚愕。
一瞬パスワードか何かと疑うほどの、桁違いの額が通帳に刻まれていた。
多少散財しても屁でもない。
一生遊んで暮らせるだけの、見たことのないキラキラが広がっていた。
「まさかこれほどとは……フフ、フフフ……」
勝手に笑いが込みあげてしまう。
生涯の長い労働から解放されたのだ。
もうあの珍獣を追いかけなくて済む。
そう思うと、涙と笑いが止まらない。
「やった! やりました! この私! ドジェイルはついに成し遂げたのですッ!」
両手を天に上げ、ガッツポーズ!
全力で喜びに打ち震える。
夢にまでみた超大金持ち。
天にも昇る良い気分。人生のゴールデンポイント。
全てを手に入れたかのような全能感。
ドジェイルは1人勝手に噛み締めている。
「はい! これからは自分のためだけに生きます! そうです! 憧れのスローライフを──」
いきなり大金を掴んだ男の考えなど、たかが知れている。
彼も例外ではないようだ。
所詮はこの程度。
──カランコロン
と、突然。
少し後ろから何かが落ちる。
「…………」
何やら赤い液体のついた木製のペン。
それが上から数本ほど落下してきた。
ドジェイルは少し固まるも、
「……そうです! 憧れのスローライフを──」
──ドサッ
急に背後から何か丸いモノが。
ドグシャッ!
さらに大きなモノまで落ちてきた。
「んん? さっきからなんですか? 今いいところなのですが」
気分を害されたではないか。
ドジェイルは振り返り、落下物を確認すると、
「ッ⁉」
ギョッ⁉
落ちてきたのは人間の死体。
まだ出来上がったばかりであろう血だらけの死体。
なぜか穴だらけ。
胴体と首を切断され二つとなった死体が、ドジェイルの後ろを落下したのだ。
「あなたは……暗殺者さん⁉」
さらに顔の方をよく見てみると、それは先ほど会話していた暗殺者。
無理やり首を引きちぎられたのか、恐怖と痛みで絶叫したかのような表情。
1分前とは想像もつかない変貌っぷりだ。
「どういうことですか⁉ 上で一体なにがあったのですか⁉」
返事がない。
その変わり果てた姿に、ドジェイルはただゾッとするしかない。
そして、
コツ、コツ、
「──うん、やっぱり。もう一人いたんだ」
奥から小さな影が。
コツ、コツ、
もう一つの生首を、両手で奉るかの如く抱きかかえる、小柄な少女。
コツ。
それは、
「……見つけた」
エマコだ。




