表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/54

4.EXスキル【天性解除】

「な、なんだよ……それ……」

 

 スキルの一撃が弾かれた。

 しかも素手のみで、簡単に。

 バーネットは目を丸くしたまま言葉を失った。


「また随分と間抜け面だな。ああ、コイツは俺のスキルだ」


 レイジは何ともない様子で答える。


「は? 何バカ言ってんだ、てめえは【盗賊者】だろうが」


 たかが【盗賊者】如きで自分のスキル、【業火】を打ち消すなんてあり得ない。

 そのスキルに戦闘機能は備わっていないはずだ。

 バーネットは笑えないと言った顔をする。


「いや笑うも何も、ただ”覚醒”した。それだけだ」

「あん、覚醒だと? んなの聞いたことねえよ」


 スキルは一人一つのはず。

 稀に2つ以上持つ者はいるにはいるのだが、そんなのせいぜい”勇者”や”賢者”、”聖女”といった世界に選ばれた者、Aランクになれる資格を有する者くらいだ。

 一端の冒険者、まして【盗賊者】でBランクのレイジが持てるわけがない。


「だから覚醒したって言ってるだろ、今の俺に【盗賊者】のスキルはない」


 もう泥棒ではないそうだ。


「スキルが変化したっていうのか? てめえ、一体なに食いやがったらそうなるんだ」

「知らん、気づいたらこうなってだけだ。俺だって不思議だよ」


 昨夜レイジは、何やら悪夢にうなされた。

 内容はほとんど覚えていないが、とにかく酷い夢だった。

 心当たりがあるとすればそれくらい。

 別に変なモノなんて食べてない。


「おそらく突然変異だろう。そう、俺は進化したんだ!」


 自分は一つ上の領域に立った。

 世界ではない別のすごい何かに選ばれた。

 厨二チックがまだ抜けてない青年は勝手にそう推測する。

 ただ単純に、壮大な失恋によるショックで頭がおかしくなった、という可能性も拭えなくはない。


「実際に使ってみるのは初めてだが、なるほど。EXだけあって確かに悪くねえな」


 と言って、レイジは右手を表裏にして交互に見る。

 どうやら新たな力を気に入ったらしい。


「……んなことはどうでもいいんだよ」

「あ?」


 勝手に盛り上がるレイジに、バーネットが震え声で言う。


「EXかなんだか知らねえが、てめえがアタシより弱いことに変わりねえんだ」

 

 確かにさっきは驚いた。

 でも所詮はただの一発芸スキル。

 例え覚醒しようとも、自分のガチ戦闘スキル、【業火】には敵わない。

 自分に勝てるはずがない。


 バーネットは手のひらに力を込めた。


「目障りなんだよ! 焼き払え! 幻炎バーン──」


 再びバーネットの攻撃、しかし、


 シーン……。


 何も出ない、炎が全く出ない。静寂のみ。


「っ⁉」


 バーネットはギョッとした。

 スキルが一切発動しないのだ。

 抜け殻になったみたいに反応がまるでない。


「──あー、そうだ、言い忘れてたな。お前の大事なスキルならここ・・にあるぞ」


 何度も出そうと試みるバーネットも前方から声が。


「なッ⁉」


 そこには衝撃的な光景が広がっていた。


 ボワッ!


 レイジの右手には真っ赤に燃える炎が宿っていた。

 浮かび上がる高温のエネルギーに、手の周りの空気が歪んでいる。

 それは、バーネットが持っていたモノに酷似していた。


「【天性解除スキルダウト】、これが俺の新しい能力だ」


 相手のスキルを奪い、自分のモノに変える。

 それがEX、レイジの覚醒した力である。


「アタシのスキルを取った、だと……んなの反則だろ……」


 単純ながら非常に凶悪なスキル。

 いや、もはやスキルという概念、その領域をゆうに超えていた。

 バーネットはこのタイミングでようやく事のヤバさに気づく。

 目の前の男は異常、それこそ怪物に見えていた。

 

「さて。スキルがないんじゃあ、流石のお前でもどうしようもないだろ」


 レイジはニヤリと笑って見せた。

 これで相手の核となるスキルは潰した。

 立場は完全逆転、もう本当に怖くも何ともない。


「チッ、スキルがなんてなくたってな、てめえ程度ぶち殺すのにわけねえんだ!」

 

 しかし、バーネットはまだ折れない。

 冒険者というのは、スキル以外にも戦うがあるのだ。


 彼女はおもむろに懐に手を入れ、中から特殊なデザインの短刀を取り出した。


「──衝撃ショック


 刃の部分から中心にかけて丸い光が集中する。


「やめておけ、ソイツは少し浅はかだぞ。バーネット」

「っるせえ。まずはてめえの動きを止める、そんで後でズタズタに切り刻んでやっからよ」

「本当にいいのか? 俺を殺したらお前の大事なスキルがどうなるか分からんぞ」

「は? 何言ってやがんだ」

「はあ……やれやれ」


 察しの悪い元リーダーに、レイジが説明してあげた


 スキルをパクったのはいいのだが、実のところその返し方までは、自分にはさっぱり分からない。

 試しにヤッてみるのもいいかも知れない。

 だが、そうなってもスキルまで返ってくる保証はどこにもない。

 さらに言わせて貰えば、一度奪ったモノはもう二度と返却できない可能性だってある。

 

「俺ごと一緒に消えるかもな、だから手を出さない方が身のためだ」

「くっ……てめえ……」


 なんということだ。

 この男はあろうことか、冒険者の肉体の次に大切なスキルを人質に取っている。

 早くも間違った方向性で使いこなしていた。


 それに……、


 ボワッ!


「コイツがある今の俺に勝てるとは到底思えないが」


 再びレイジの右手に業火が宿る。


「あー、あともう一つ。一度パクったスキルは俺の意志で自由に消去できる……この意味、分かるよな?」


 ボワアアアア!!!


「くっ……」


 バーネットは光を引っ込め、手に持つ短剣を下ろす


「よしよし、良い子だ」


 自分の置かれた立場というのをようやく理解してくれてみたいだ。

 悔しそうにこちらを睨みつける相手の姿には、何かそそるモノがある。

 そうやって歯を食いしばって黙っていればいいのだ。

 レイジはさも満足げな笑みを浮かべた。


「ところでバーネット、聞いたぞ。お前いま金に困ってるらしいな」

「……誰のせいだよ」

「おっと、口答えは良くないな」


 ボワッ!


「……っ」

「そこでだ。今夜俺がお前を買ってやろうじゃないか」

「なッ⁉ アタシに娼婦になれってか⁉」

「ああ、俺からの直々の指名だ。光栄に思え」


 仲間もいないスキルもない今のバーネットでは、まともな依頼も受けられない。

 おまけにほとんど無一文。

 今夜の宿代だって払うのが厳しい状態だ。

 そこで、優しいレイジが夜のご奉仕を提案してあげた。


「お前は見てくれだけは悪くないからな。内容次第じゃ額だってそれなりに弾んでやるよ」


 と言って、レイジは失礼にも女性の髪をなでるように触りだす。

 相手が抵抗できないのいいことにやりたい放題である。

 完全に化けの皮が剥がれていた。


「てめえ……どこまでアタシを侮辱すれば気が済むんだ……」


 ギロッ、バーネットが睨みつける。


「まっ、別に俺はいいけどな。相手ならそこら辺に腐るほどいるしよ」


 チラッ、路地裏の方にある怪しいピンクのお店に目を向ける。


「前はよくヤッてただろ。なに、お互い身体のことはよく分かってる、お前としてもヤりやすいはずだ」

「…………」

「エマコを食わしてやる金だって必要、そうだろ」

「……チッ」


 バーネットは唇をかみしめ、


「……好きにしろよ」


 ついには承諾してしまった。

 身体の震えをどうにか抑えている。


 しかし、


「ああ? なんだそのお客様に対する態度は? 『この度はご購入いただき、ありがとうございます。ご主人様』だろ。ったく、なってないな。これだから世間知らずのお嬢様はイヤになる」


 レイジにはこういう所がある。

 正直、あまり褒められたモノではない。


 バーネットは言いたくなさそうに、


「……っ……あ、ありがとうございます、ご主人、さま……」


 ゾ、ゾクッ……、レイジの内側の音。


「ふむ、まあ良いだろう。せいぜい楽しませてくれよ、娼婦さん」

「くっ……」


 

 夜街に消えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ