38.続、暗殺者との戦い
──ここは薄暗い路地裏。
そう、無駄に入り組んだ、迷路のような路地裏。
ここでは現在、2人の暗殺者が、見失った標的の捜索を行っていた。
「…………」
まだ完全に逃げてはいない。
近くにいる。
やや不安げな片割れとは違い、デキる方はあの悪質な気配をしっかりと感じ取っていた。
どうやら新スキル、【隠密】を使ってどこかに潜んでいるようだ。
なんだか遊ばれてる感が否めない。
だが気にしない。
暗殺者たちは獲物を探しを続行した。
と、
シュバッ!
突然、どこからかともなく斬撃が。
「ッ!」
デキる方が即座に反応。
手に持つ短剣を素早く振るい、当たる直前で二つに分断させた。
「…………」
飛んできた方向をジッと睨むが、
シュバッ! 違う方向からまた、シュバッ!
「──スキル! 【風力操作】!」
「ッ⁉」
続いてあらゆる角度から、シュバババッ! 真空波が飛び出してきた。
暗殺者たちは再び防御一辺倒。
狭い空間なため避けづらい。
「ハッ! 簡単にかかりやがった! これだから無能力者は嫌になるッ!」
姿を見せずに攻撃するせこい能力者。
口の悪いレイジ。
隠れていたのではなく、誘導したのだ。
MPが回復するまで待機して、ある程度戻ったので攻撃を再開した。
数多の時間回帰のおかげで、ここの構造は熟知している。
今の彼らはまさしく袋のネズミ状態。
そういうわけだ。
「──予知する」
さらに、これから起こることだってバッチリと把握済み。
そうだ、待望の預言者タイムの時間だ。
「まずはすっとろい方! お前は落ちてきた瓦礫の下敷きになる、だ!」
レイジの宣言通り、すぐに弱い暗殺者に向かって、レンガやら屋根の木材やらが真上からガラガラガラ。
降ってくる。
「ッ⁉」
こんなの予想できるわけがない。
ドンガラガッシャンッ!
弱いのは対応に遅れ、そのまま巻き添えとなってしまった。
「──次にお前! しつこい方! アンタは神隠しで片腕が持っていかれる、だ!」
「ッ⁉」
暗殺者はビクッとした。
そんな馬鹿なことがあるか。
適当を言うのもいい加減にして欲しい。
しかし、先ほどの例だってある。
また最近ここいらではよく、人が消えるという噂も聞いている。
もしかすると本当に……。
そう考えたのか、デキる方は辺りをくまなく警戒。
クルクルクル
が、次の瞬間、
真上から短剣を構えたレイジが、3つの斬撃をたずさえ、
「オラッ!」
ザシュッ! ブシュッ!
エセ予言者の一撃。
片腕を根本近くで切断。
「ッ⁉︎ 〜〜〜〜ッ!」
直視したくないほどの出血量。
暗殺者はたまらず悲痛な声をあげた。
「ッ!」
が、それはほんの数秒のお話。シャキンッ!
彼はデキる暗殺者。
なので瞬時に切り替えて標的に向かっていく。
姿を出した今がチャンス。
腕の痛みに構ってあげるほど暇ではないのだ。
「うおッ⁉︎ なんだコイツ⁉︎」
腕をもぎ取ってやったのにすぐ反撃してきた。
レイジは相手の殺意に、精神力にたじろいでしまう
そのまま接近戦。
暗殺者の猛攻は続く。
一つ一つが鋭く、また急所を意識し、短剣を光のように振ってくる。
レイジは攻撃を凌ぐので手一杯。
反撃はおろか相手を振り切れず、距離を取ることすらままならない。
おまけに切断した腕から鮮血が飛び散ってくるため、バッチいことこの上ない。
「チッ! しつこいんだよ! どけッ!」
「ッ⁉︎」
接近戦は分が悪い。
レイジはスキル【風力操作】を発動。
相手を無理やりに引き剥がした。
そのまま壁と壁を蹴って進み、上の方へと離脱。
「──放弾」
去り際に術を真下に放屁。
辺りはホコリを含んだ白っぽいモヤに包まれていく
「…………ッ」
ガ、ガラッ……。
暗殺者のダメダメな方が瓦礫から出てきた。
中々に幸運。
あの落下物の山から奇跡の生還を果たしていた。
「ッ⁉︎」
しかし、突然周りを見て驚愕。
何も見えない、何が起こっているのか分からない。
視界が煙で覆われているため、軽い錯乱状態に陥ってしまう。
「…………!!!」
恐れをなして、逃亡!
すでに暗殺者としての誇りは失われたようだ。
何ともみっともない姿で尻尾を巻いて、この場から逃げようとした。
「ッ⁉」
いま迂闊に動くと……っ!
そう思い、優秀な方がとっさに引き留めようとしたが、
「──閃波!」
ガツッ! 物陰から光の槍。
それが逃げる暗殺者の腹部ど真ん中を貫いた。
スキル【隠密】を使用したレイジによる奇襲だ。
「ッ⁉」
たまらず吐血。
地面にソースのように付着する。
フードで顔が隠されているため表情はよく確認できないが、きっと恐怖と痛みで顔を歪めていることだろう。
これが彼の暗殺者としての──いや、人生の最後であった。
物陰に潜むレイジが、術で生成した槍を派手に引っこ抜く。
暗殺者は血しぶきと共に倒れた。
最初は身体をブルブルさせていたが、少しすると完全に機能が停止。
赤黒いモノだけが円状に広がっていく。
スタッ
「……ああそうだよ。あの時、仲間が一人やられた時点で、お前らは引き返すべきだったんだ」
風使いがやられた時、スキルをパクられた時点で、すでに勝敗は決していた。
物陰から姿を出したレイジ。
「あとはお前だけだ。元【農作者】」
元【風力操作】と元【隠密】はこの通り返り討ちにしてやった。
「相手が悪かったな。それにここまで来たんだ、逃がしてやるつもりはない」
変異者がゆっくり、ゆっくりと迫ってくる。
「……ッ」
生き残った最後の暗殺者。
こうなると流石に恐怖を覚えてしまう。
身体の震えをどうにも抑えることができない。
だが、引き下がろうとはしない。
その場から退こうとはしなかった。
無情にもスキルは奪われ、片腕も捥がれてしまった。
このまま戦ってとして勝てる可能性は、限りなくゼロに近いだろう。
しかし、それでも彼は短剣を持つ手を下げない。
自身のこれまで培ってきた信念、暗殺者としてのプライドがそうさせなかった。
「……チッ、そうかよ」
だがそのせいでこれから死ぬことになる。
まだ助かるかもしれない己の命を、自ら進んで失うハメになる。
何ともくだらない。
こんな間抜けな話があるモノか。
「……馬鹿が」
レイジが短剣に静かな光を宿す。そして、
「覚悟は決まったようだな! 望みどおりにしてやるッ!」
襲い掛かろうとした。
「ッ!」
暗殺者も武器を構え相対する。
──が、次の瞬間、
シンシンシンシンシン!
突如として無数のナイフが、2人の頭上にずら〜っと出現。
「ッ⁉ なッ⁉」
刃先が磁石のようにグイッと変わったかと思うと、一気に急降下。
2人めがけ全てが降りかかる。
「ッ!」
暗殺者は素早く後ろに退き、その場から距離を取る
しかし、レイジにそのような余裕はなかった。
突然視界に入った強烈な光景に、判断能力が鈍ってしまう。
「く、クソッ! うおおおおおおッ!!!」
逃げ遅れた。
雨あられに落下してくるナイフを、一人短剣を振るって死に物狂いで対処する。
「うおおおおおおお!!!」
キキキキキンッ! キキキキキンッ! キンッ!
多すぎる、全部はムリ。
「くっ……う、うがぁ!」
やがて、隙を見て決死の離脱。
なんとか生き延びた。
「はあ……はあ……チッ、一体なんだって言うんだ」
突然の奇襲。
何が起こったというのか。
しかし考えてる時間はなかった。
息が切れ切れのレイジが顔をあげると、
シュンッ、シュンッ、シュンッ、シュシュシュシュシュシュッ!
黒いローブの者が一人、また一人と姿を現していく
やがて全て出揃ったらしい。
ザッと見ただけで30人はいる。
そのどれもが今まで戦っていた敵と似たような恰好、雰囲気、たたずまい。
「んな……っ」
目の前に広がる絶望。
レイジは言葉を失った。
──そう、彼らは全員闇に生きる者たち。
この街に潜む全ての暗殺者たちが、今ここに集結していた。
一人の男の命、ただそれだけを狙って。
彼らの目的は一つ、レイジの生首。
それを裏ギルドに持っていくこと。
他は一切無用、全くもって必要ない。
中央にいるリーダー格であろう人物が挙げた手をスッとおろす。
その合図を受け、暗殺者たちが、一斉に、
「ッ⁉ あ、ありえねえだろッ⁉ クソがああああッ!!!」
襲い掛かる。




