37.お目当てのスキル
今回ドジェイルの講じた策。
それは暗殺者の力を借りることであった。
その道の、闇のプロフェッショナル、彼らがレイジに牙を向け襲い掛かる。
「うおおおおッ!」
レイジが【業火】を発動。
燃え盛るエネルギーを薙ぎ払い、迫りくる暗殺者たちに、炎の壁を送り込む。
「──スキル【風力操作】」
しかし、うちの一人が手の平をバッと。
白と緑の二色の鮮やかな光をグルグルグル。
すかさずレイジ同様水平に振り払うと、炎が風の流れに捕まり、明後日の方角へ
斜め20メートルほど上空で残り火もろとも消え去ってしまった。
「なにッ⁉」
驚いている暇は一ミリもない。
暗殺者たちは一瞬で間合いを詰めてくる。
そして素早く3方向に分かれ、
バンッ!
レイジの立っていた屋根を粉々に吹き飛ばす。
「──クソッ!」
撒き散らされたホコリや木の破片。
それらで構成された煙から、レイジが飛び出した。
3対1……いや、依頼主も入れて4対1。
流石に無理ゲーが過ぎる。
こっちは一度でも死んだらゲームオーバー。
分が悪いってレベルではない。
「やってられるか!」
レイジは背を向け屋根間を移動し、逃亡!
「っ!」
しかし、暗殺者たちがそう易々と逃がしてくれるはずがない。
当然追いかけてくる。
「くっ……」
追跡の足は一切止めず、後ろからスキルやら術やら色々ぶっ放してくる。
そのまま一般市民のいる街中で、壮絶な逃走劇が始まった。
「──イヒヒヒ。大変そうですねえ、レイジさん」
一方、依頼主であるドジェイル。
彼は一切加勢しようとせず、その様子を移動しながら遠目で観察している。
暗殺者3人に狙われては助からないだろう。
直接手を下さずとも相手が勝手に殺される。
これほど愉快なことはない。
完全に傍観者の立場を決め込んでいた。
「うおっ⁉」
危ない。
逃亡者レイジは一瞬直撃しそうになる。
逃げるのは良いが、如何せん敵の弾幕が多すぎる。
何より、あの風を操るスキルが躱しづらくてとても厄介だ。
「ぐおっ⁉」
そんな思考のち、飛んできた風圧でバランスを崩してしまった。
怯んだところに他の2人が左右の両方向から襲撃。
レイジは後ろに下がって回避し、自身もすぐ反撃に出る。
そのまま2対1の乱闘が始まった。
「どけよ! オラッ!」
「ッ⁉」
レイジが隙を見てうちの一人、動きが遅い方に蹴りを入れた。
遠くへ蹴り飛ばし接近戦から退場させ、もう一人の動きがキレッキレな方との格闘に集中する。
「くっ……」
こちらは攻撃にほとんど無駄がない。
洗礼されかけの動き。
アイナほどではないが、暗殺者レベルはそれなりに高いようだ。
レイジがタイマンで少し押され気味であった。
シュンッ
突然、弱い方と強い方、2人の暗殺者が飛びあがり、その場から距離を取る。
「──スキル【風力操作】」
グルグルグル……シュバッ!
背後に陣取っていたもう一人、風使い。
彼がMPで生成した四角形の刃物を放つ。
「くっ、結盾!……ッ⁉ どわッ⁉」
レイジはギリギリ盾を張ってガード。
だが、風の余波によって強引に吹き飛ばされてしまう。
バランスを崩したところを、暗殺者たちは逃さない
3人一斉に襲い掛かる。
「チッ、めんどくせえ……こういう時は使ってもいいよな! アイナ!」
彼女の許可が下りた気がした。
レイジはズザザザー!
地面に着地し一度態勢を立て直す。
向かってくる敵に狙いをつけ、腕をバッと前に。
体内にある黒い力が敵意を感知、その範囲に入れた
「──EXスキル! 【天性解除】!」
発動、キュピーン!
背景が一瞬ダークな感じへ変わる。
ただそれだけ。
すぐ何事もなかったように元の空間に戻る。
「…………」
瞬きする間もない謎の変化。
今のは一体? 何が起きた?
暗殺者たちは警戒して一度を足を止めるも、
「っ!」
なんだ、ただの雰囲気スキルか。
ビビッて損した、よって再び動き出す。
「フッ」
レイジはそれを確認し、手から素早く炎を、ボワッ
「焼き尽くせ! 業火!」
そのまま高出力でぶっ放す。
炎が範囲的に広がりながら敵を襲う。
「──スキル【風力操作】」
風使いが手をバッと前に広げた。
無駄なこと、それはもう開幕に突破されたはず。
またあらぬ方向へと吹き飛ばしてくれる。
他の2人もそうなることを信じて疑わなかったが、
シーン……
出ない、鼻息ほども出てこない。
出るわけがない。
すでにレイジのEXによって所有権は鎖されている。
「……?」
他の2人は一瞬、真ん中にいる風使いをチラッ、
ボワアアアア!!!
「ッ⁉」
しかし、目前まで迫っていた炎の壁が。
2人は瞬時にその場から離脱。
一人取り残された元風使いは、無慈悲にも業火に呑まれてしまった。
「~~~~ッ!」
たまらず地面にドサッ。
酷いうめき声と共に骨の髄まで焼かれていく。
やがて、すぐに動かなくなり、パキパキと焚火のような音が鳴る。
「……よし、まずは一人だな」
暗殺者、一人撃破。
レイジは焼死体にしてやったりな目を向ける。
「……っ!」
じ、自分もこんな風に……ゴ、ゴクリ。
みたいな感じで一歩下がる暗殺者のうちの片割れ。
先ほどレイジに蹴り飛ばされた方、弱い方だ。
もう片方は同業の哀れな末路をただジッと見ている。
こちらは強い方。
「ふむふむ。スキルは【風力操作】と【隠密】、か」
レイジは獲得したスキルを興味深く確認。
「おっ? コイツは【農作者】じゃないか! ちょうど狙ってたんだよ」
【農作者】、文字通り畑を耕すスキル。
スローライフに必須スキルである。
まさかこんな場面で手に入るとは思わなんだ。
「こいつは予期せぬ収穫ってヤツか?」
これは途端に嬉しくなる。
ようやく自分のEXスキルが役に立った。
このスキルを維持するためには何としても、ここでドジェイルとケリをつけたいところ。
「で、まだ続けるのか? 無能力者さん方よ」
その言葉に、暗殺者の片割れはズズッと後ずさるも
「っ!」
次の瞬間、もう一人。
動きがキレッキレの方が仕掛けてきた。
まだ2対1であり、こちらが有利なことに変わりない。
そう考えなおしたのか、臆病な方も標的に突っ込んでいく。
サッ!
二手に分かれてから、2方向からの攻撃。
「スキル発動! 【風力操作】!」
レイジは両手を広げ、さっそく新スキルをお披露目
ブオオンッ!
「ッ⁉」
死んだ同業の技だ。
暗殺者2人はそれを食らい、後方へ押し流された。
「──【風力操作】」
レイジは見よう見まねでグルグルグル。
短剣に白と緑の光を込め、思いっきり振るう。
放たれた斬撃が真空派となって飛んでいく。
それを連続で使用し、いくつもの風の刃が出現。
シュンシュンッ、シュバババッ!
飛んでくる多量の斬撃。
暗殺者たちは各々躱すなり、術で相殺するなりして凌ぐ。
しかし、うちの弱い方はついていけてないのか、服の至るところに切り目が入っていく。
「なるほどな、こうやって使うのか」
レイジは手の平に浮かぶ風の塊を見る。ブオッ!
広範囲に風を吹かすこともできるし、鋭く圧縮させカッターのように飛ばすことも可能。
中々に便利な戦闘スキルだ。
使い勝手なら【業火】よりも良いかもしれない。
何より斬撃を飛ばすという行為……イケメンすぎる!
これは厨二心がくすぐられてしまう。
そして、キリッ! レイジは前を向いた。
片割れ、ビクッ! 戦意喪失は目前!
一般人相手には滅法強い。
それがレイジのEXスキル【天性解除】
ダメだ、これはイキってしまう。
レイジの顔面が瞬く間に悪に染まっていく。
「切り刻んでやる! スキル【風力操作】!」
再び短剣に風をまとわせ、得意げに斬撃を振り飛ばす。
「オラッオラッ! どうだオラッ!」
新しいおもちゃを手にした子供みたいに振り回している。
ただ厄介なことに、一回一回に真空波が刻まれるためかなり質が悪い。
「っ!」
暗殺者たちは風の対処に追われた。
強い方、弱い方、どちらも苦戦している。
これでは標的の始末はおろか、まともに接近することすらままならない。
しばらくレイジが一方的に攻めていたが、
「……おっと、そろそろMPがヤバいな」
慣れないスキルは消費が激しいモノ。
うっかりしていた。
レイジは短剣に宿る光を引っ込めた。
「そう言うわけだ。じゃっ!」
撃つだけ撃った後に逃亡を再開。
狭い路地の奥の方へと姿をくらませた。
「っ!」
MP切れとは情けない。
同時にまたとないチャンス。
暗殺者たちも追うように奥へと、
ザッ!
入っていく。




