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34.不意打ち×3

 引いた煙からレイジが出てきた。


「ハア……ハア……」


 ボロッボロッ……。

 まだ倒れてはいないし息だってある。

 だが、大変痛ましい姿で今にもくたばりそうな勢い。

 もう戦えないことはお猿さんの頭でも明らかだ。


 同ランク相手にここまでとは情けない。

 やはり彼は敗北者なのか。

 結構な大差でやられていた。


「ハア……ハア……ク、クソが……」


 直撃を受ける寸前、盾を張りつつ、斜めの角度に飛んで避けていた。

 とっさの判断。

 前上からの同時攻撃を最小限に抑えていたのだ。


 だがそれでも、彼の受けたダメージは決して軽いモノではない。

 爆風をモロに浴びた。

 煙とかドジェイルのMPとか、身体に悪いモノもたくさん吸い込んでしまった。

 苦しい、上手く呼吸ができない。


「まだ生きているのですか。やれやれ、本当にしぶとい方だ」


 ドジェイルの視点。

 彼は自分の超弾フォースを2度も浴びてまだ立っている。

 どうなっている。

 全然死なないではないか。


 相手のアンデット並みの生命力に、生にしがみつこうとする哀れな姿に、ドジェイルは首を振って呆れる素振りをする。


「それはそうと、おかしいですね。あなたのそのスキル、お世辞にも扱えてるようには見えないのですが……」


 と言って、レイジから出る微量の炎に目を向けた。

 ボ……ワッ……。


「スキルと言うのは通常、戦闘能力と比例するはずなのですが……奇妙ですね。この違和感、一体何なのでしょう?」

 

 熟練度がちょっと低い気がする。

 まるで、ついこの間習得したばかりのような、まだ操作に慣れていない様子がチラホラ見受けられた。


 ひょっとして初心者の方とか?

 いや、ありえない。

 レイジがBランク相当ならば考えにくい話。


「ただ正面から撃ってくるだけ。そうです。戦略と言うモノがまるでなっていない」


 子供、はたまた赤ちゃんでもできる。宝の持ち腐れ。

 【業火】とはもっとこう、テクニカルな感じ。

 レパートリーに飛ぶ、何かあるではないか。

 そう思い、ドジェイルは一人勝手に不思議がっている。


「まあいいです。どの道そのダメージではもう戦えないでしょう。そろそろ楽にしてあげます」


 無駄話をしても何も進まない。

 よって、ドジェイルがトドメを差すべく、ゆっくりと近づいてくる。


「……ッ」


 レイジは立てない。

 迫って来る相手に対して、ただ地面に膝をついたまま、片目を開けることしかできない。


「おっと、そうでした」


 ピタッ。

 ドジェイルがふと5メートル付近で止まった。


「そういえばまだ名乗っていませんでしたね」

「な、名乗る……だと?」

「はい。名乗ります」


 最後に自分を殺す者の名前くらい教えてもいいだろう。

 それがせめてもの情け。

 ……とかではなく、なぜか無性に名乗りたくなった


「これから殺すというのにおかしな話ですが、あなたとは長い付き合いになる。不思議とそんな気持ちにさせられます」


 まだ終わっていないような、このままグダグダと行きそうな。

 レイジを見ていると、ついそう思ってしまう。

 

「アレでしょうか、『もし違う場所で会っていたら』とかいうヤツでしょうか……いえ、それも違う気がします」

「…………」


 うっとおしく感じたレイジが睨みつけている。

 どうせ大した名前ではないだろう。

 名乗りたいなら勝ってにすればいい。


「そうさせて頂きます。よろしいですかね? 一度しか言いませんから」


 そして、


「私はドジェイル、ドジェイル=マキシメイソン。以後、お見知り置きを」


 頭を丁寧に下げて自己紹介した。

 今さら過ぎるため、何の気持ちも高まらない。


「では死んでください」


 ニヤッ、杖を真上に。


 手際よくMPを収縮させ、


「お別れです。ショッ──」

「ッ!」


 しかし、ピカンッ! レイジの瞳に光一閃!


 次の瞬間、相手より速く、


「──閃波イレイム!」


 刃先から伸びた鋭利な光。


「ッ⁉ ウブッ」


 それがドジェイルの胸を一突き、一瞬で貫通した。


「カ……カッ、カハッ!」

 

 たまらず吐血。


「な、なッ⁉ こ、これは……⁉」

「ああ、俺の最強の術だ。隠し玉は最後まで取っておくモノ、そうだろ」


 レイジは相手をぶっ刺したままニヤリ。


「バ、バカな……そんな力は、もう……」


 術を発動することはおろか、動くことすらできなかったはず。

 それがなぜ……ッ⁉


「さあ、なんでだろうな」

 

 なぜだろう、どうしてかは分からない。

 自分の心に聞いてみるのが一番良いかもしれない。


 だが、戦いというのは勝利を確信した時、それは同時に最も危険な場面でもある。

 さきほどのドジェイルは物の見事に油断しており、まさしく隙だらけであった。

 レイジはそこを狙ったのだ。

 そして成功した。


 ザンッ、ブシュウウウ!


 光の刀身を引き抜く。

 ドジェイルの身体から大量の血が噴き出る。


「そ、そんな……こ、ここに来て、ふりだし……」


 2歩くらいフラつき、バタンッ。

 そのまま地面に倒れてしまった。


「…………」


 ドジェイルは無言でピクリともしない。

 彼の生汚い血が円状に広がっていく。

 彼らしい実にあっけない最後。


「うぐっ……」


 終わったようだ。

 レイジは何とか立ち上がると、相手の死体を見下ろした。


「…………」


 ただ見ている。

 別に処理したり、死体蹴りをするわけでもなく、その哀れな姿を上から眺めている。

 まるで観察でもしているかのように。


 ──先述した通り、人は勝ち確だと思った瞬間が、最も危ない時である。

 またもう一つ、それに匹敵するくらい危険な場面がある。

 それは戦いに勝利した時。

 戦闘が終わり、張り巡らせていた緊張と警戒を解いた時。

 目の前の勝ちに安堵し、ホッと一息ついた、その瞬間だ。


 ──EXスキル:【限点回帰ダーク・リ・ターン


 突然、レイジの背後から黒いモヤが。


 空間が一瞬歪む。


 ブオンッ!


 モヤを払い、中からドジェイルが、ニヤリッ


「──刀波ブレイド!」


 杖の柄に光を纏い、背後からの襲撃!


 ──しかし、レイジは、


 シュンッ


 素早く振り返り、


「──閃波イレイム!」


 伸縮した光で、ドジェイルの心臓を再度貫いた。


「なッ⁉ カハッ⁉」



 吐血した。

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