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32/54

32.対人経験値

「スキル発動、【業火】」


 煙から姿を現したレイジ。

 生きていた。

 彼はまだ生き残っていた。


「くっ……」


 だが、痛そうに顔を歪めた。

 身体の至るところが真っ黒で、その一部はプスプスと音が鳴っている。


 超弾フォースが当たる直前に、業火を無理やり振るったのだ。

 おかげで死は回避できた。

 しかし、その爆風を生身で受けてしまった。

 ダメージはそれなりにある。


「ほう、それは【業火】のスキルですか。大層なモノをお持ちなんですね」


 見かけによらずガチめな戦闘スキル。

 実際に遭遇したのは初めてなので、ドジェイルは珍しがっている。

 

「ですが、その負傷ではもう全力では戦えないでしょう。無理は禁物でしたね」


 まだ自分の方が依然として優勢なことに変わりはない。

 確かに強力なスキルではある。

 だが、所詮それは常識内でのお話。

 【暗殺者】と言い、今のドジェイルにとっては何ら脅威ではない。

 怖くないのだ。


「……お前、意外とよく喋るんだな。てっきり独り言が多いだけの奴だと思っていたよ」


 いや、むしろこういう時だけ饒舌になるタイプか。

 少し有利になったくらいで調子に乗るな。

 いいから黙って戦え。

 レイジがそう苦言を弄した。


「……フッ、あなたこそ、見た目の割には大したことないのですね」


 こういう人間は所詮見た目だけだ。

 中身──いや、内面が伴っていない。

 教室でイキがっている不良なんて、案外やってみると全然。

 ドジェイルは深くそう思う。


「いいでしょう、ではもう終わりにしましょう。先ほど宣告した通りに」

 

 ぶっ殺す。

 今の自分は依頼で忙しい身。

 早急に例の珍獣を捕獲しなければならない。

 なので、ドジェイルは再び杖にMPを収束させた。


「こっちのセリフだ。その汚いツラを綺麗に焼いてやるよ」


 対して、レイジも、ぶっ殺す。

 左手に持つ炎の勢いをあげた。


 また周りの空気が殺伐となってくる。


「死になさい! 放弾ショット!」


 戦いは再開。

 ドジェイルが術で先手を撃つ。


「焼き払え! 【業火】!」


 レイジの発動した炎の壁により、それが目前でかき消された。


「──衝撃ショック!」


 流石にそう何度も超弾フォースは撃てないだろう。

 次のが来る前に早めに始末する。

 そう考え、レイジは短剣に光を纏い、一気に距離を詰めてくる。


 敵の光弾を巧みにかわしているが、時には業火でごり返す。


 そうやって、相手との間合いを強引に詰めていく。


「ほう、流石に放弾ショットでは厳しいようですね!」


 やはり【業火】は強力なスキルだ。

 自分の攻撃がカスみたいに灰にされてしまう。


 ドジェイルは術を発動しつつ、後ろの方へ下がり、徐々に失くなっていく距離をカバーする。


「効くかよそんなの! オラッ!」


 しかし、それでもレイジの方が勢いで勝っている。


 オラついた感じで炎の壁面を前方に張り、相手の術を打ち消しながら接近。


 やがて、あと20メートルという所まで迫ってきた。


 ストッ


 レイジはそこで一度足を止め、


「オラッ!」


 手に持つ炎を素早く薙ぎ払う。


「むむっ⁉」


 ドジェイルの視界がたちまち燃え上がる。

 困った。これでは前が見えない。


 ボワッ


 炎はすぐに塵となって消えるも、そこにレイジの姿はない。

 すでに移動している。


 ──シュンッ


 右だ。

 炎で目くらましをし、そのスキに右側に回り込んでいた。


「──衝撃ショック!」


 終わりだ。

 ガラ空きのところに短剣を振り上げた。


「っ!」


 その一瞬、ドジェイルの目の端に揺れる炎の欠片が


「──結盾ウォール!」


 すかさず杖から光の輪を出し、ガキンッ!


 辺りに不快な金属音、少量の火花が発生する。


 両者の武器を持つ腕が、またもグググと競り合う。


「チッ、どうして反応できる……」

 

 今のは間に合わなかったはずだ。

 この男は奇襲した時もそうだが、振り返るスピードだけが異常に速い。

 レイジは眉間にしわ寄せた。


「ええ。こういうのは何度も体験しています。俗にいう”経験値”という奴ですかね?」


 ドジェイルは得意げにそう答えた。

 この男、大分対人慣れしている模様。


「そうかよ。だがここまで来れさえすれば、もうこっちのモノだ!」


 接近さえできれば十分。

 経験なんて関係ない。ゴミである。

 レイジは短剣を振り上げ、再度相手に追撃する。


 ギンッ、ギンッ、ギンッ!


 光を纏った短剣で、ガードの上からでもお構いなし。

 強引に切り付けようとする。


「──衝撃ショック!」


 この術が身体の部位に当たりさえすれば、動きを止めることができる。

 なので盾など知ったことではない。

 と言った感じで攻め続けた。


結盾ウォール! 結盾ウォール! ウォウォウォウォールッ!」


 対して、ドジェイルは盾を張った杖で、相手の猛攻を防御。

 特に術などで反撃したりはしない。

 ひたすら守りに徹していた。 

 というより、それしか出来ない。


 戦いはレイジの一方的なターンへと移行。

 こうなるのは致し方ないと言える。

 何せ、ドジェイルの武器は接近戦に適したモノではないからだ。


 頑張ればやれないこともない。

 現に歴戦の冒険者の中には、杖でもある程度戦える、という者も多い。

 だが、彼の持つ杖というのは、本来近づいて戦うように想定されてはいない。

 

 おそらく本人もそうなのだろう。

 遠距離から一方的に制圧する戦闘スタイルなため、こうやって接近されるともうどうしようもないのだ。

 さらに対人戦になるとなお更それが顕著に出てくる


 つまり、接近戦は苦手。

 こうやって盾を張って耐えるしかない。

 いつかやられるまで、そのMPが空になるまで、永遠に凌ぎ続けるしかない。


 が、


「──と、思っていませんか!」


 どこかで見た光景。

 だが先ほどと様子が違う。

 ドジェイルの顔面が少々ピキついている。

 怒りの形相で相手を睨んでいる。

 

「ッ⁉」


 どうしていきなりそんな顔に⁉

 軽く恐怖を覚えるレイジ。

 おかげで攻撃の手が緩んでしまう。


 当然、自称歴戦のドジェイルは、この機を逃さない


「っ! 今ですッ!」


 まず素早く盾を解除。


 そしてMPを、シュルシュルシュルシュル!


「ぬるいですねえ! 何もかもがぬるいッ!」


 放弾ショット


 至近距離からぶっ放した。


「うおッ⁉ コイツ⁉」


 2人は爆発、


 パンッ!


 

 弾け飛んだ。

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