32.対人経験値
「スキル発動、【業火】」
煙から姿を現したレイジ。
生きていた。
彼はまだ生き残っていた。
「くっ……」
だが、痛そうに顔を歪めた。
身体の至るところが真っ黒で、その一部はプスプスと音が鳴っている。
超弾が当たる直前に、業火を無理やり振るったのだ。
おかげで死は回避できた。
しかし、その爆風を生身で受けてしまった。
ダメージはそれなりにある。
「ほう、それは【業火】のスキルですか。大層なモノをお持ちなんですね」
見かけによらずガチめな戦闘スキル。
実際に遭遇したのは初めてなので、ドジェイルは珍しがっている。
「ですが、その負傷ではもう全力では戦えないでしょう。無理は禁物でしたね」
まだ自分の方が依然として優勢なことに変わりはない。
確かに強力なスキルではある。
だが、所詮それは常識内でのお話。
【暗殺者】と言い、今のドジェイルにとっては何ら脅威ではない。
怖くないのだ。
「……お前、意外とよく喋るんだな。てっきり独り言が多いだけの奴だと思っていたよ」
いや、むしろこういう時だけ饒舌になるタイプか。
少し有利になったくらいで調子に乗るな。
いいから黙って戦え。
レイジがそう苦言を弄した。
「……フッ、あなたこそ、見た目の割には大したことないのですね」
こういう人間は所詮見た目だけだ。
中身──いや、内面が伴っていない。
教室でイキがっている不良なんて、案外やってみると全然。
ドジェイルは深くそう思う。
「いいでしょう、ではもう終わりにしましょう。先ほど宣告した通りに」
ぶっ殺す。
今の自分は依頼で忙しい身。
早急に例の珍獣を捕獲しなければならない。
なので、ドジェイルは再び杖にMPを収束させた。
「こっちのセリフだ。その汚いツラを綺麗に焼いてやるよ」
対して、レイジも、ぶっ殺す。
左手に持つ炎の勢いをあげた。
また周りの空気が殺伐となってくる。
「死になさい! 放弾!」
戦いは再開。
ドジェイルが術で先手を撃つ。
「焼き払え! 【業火】!」
レイジの発動した炎の壁により、それが目前でかき消された。
「──衝撃!」
流石にそう何度も超弾は撃てないだろう。
次のが来る前に早めに始末する。
そう考え、レイジは短剣に光を纏い、一気に距離を詰めてくる。
敵の光弾を巧みにかわしているが、時には業火でごり返す。
そうやって、相手との間合いを強引に詰めていく。
「ほう、流石に放弾では厳しいようですね!」
やはり【業火】は強力なスキルだ。
自分の攻撃がカスみたいに灰にされてしまう。
ドジェイルは術を発動しつつ、後ろの方へ下がり、徐々に失くなっていく距離をカバーする。
「効くかよそんなの! オラッ!」
しかし、それでもレイジの方が勢いで勝っている。
オラついた感じで炎の壁面を前方に張り、相手の術を打ち消しながら接近。
やがて、あと20メートルという所まで迫ってきた。
ストッ
レイジはそこで一度足を止め、
「オラッ!」
手に持つ炎を素早く薙ぎ払う。
「むむっ⁉」
ドジェイルの視界がたちまち燃え上がる。
困った。これでは前が見えない。
ボワッ
炎はすぐに塵となって消えるも、そこにレイジの姿はない。
すでに移動している。
──シュンッ
右だ。
炎で目くらましをし、そのスキに右側に回り込んでいた。
「──衝撃!」
終わりだ。
ガラ空きのところに短剣を振り上げた。
「っ!」
その一瞬、ドジェイルの目の端に揺れる炎の欠片が
「──結盾!」
すかさず杖から光の輪を出し、ガキンッ!
辺りに不快な金属音、少量の火花が発生する。
両者の武器を持つ腕が、またもグググと競り合う。
「チッ、どうして反応できる……」
今のは間に合わなかったはずだ。
この男は奇襲した時もそうだが、振り返るスピードだけが異常に速い。
レイジは眉間にしわ寄せた。
「ええ。こういうのは何度も体験しています。俗にいう”経験値”という奴ですかね?」
ドジェイルは得意げにそう答えた。
この男、大分対人慣れしている模様。
「そうかよ。だがここまで来れさえすれば、もうこっちのモノだ!」
接近さえできれば十分。
経験なんて関係ない。ゴミである。
レイジは短剣を振り上げ、再度相手に追撃する。
ギンッ、ギンッ、ギンッ!
光を纏った短剣で、ガードの上からでもお構いなし。
強引に切り付けようとする。
「──衝撃!」
この術が身体の部位に当たりさえすれば、動きを止めることができる。
なので盾など知ったことではない。
と言った感じで攻め続けた。
「結盾! 結盾! ウォウォウォウォールッ!」
対して、ドジェイルは盾を張った杖で、相手の猛攻を防御。
特に術などで反撃したりはしない。
ひたすら守りに徹していた。
というより、それしか出来ない。
戦いはレイジの一方的なターンへと移行。
こうなるのは致し方ないと言える。
何せ、ドジェイルの武器は接近戦に適したモノではないからだ。
頑張ればやれないこともない。
現に歴戦の冒険者の中には、杖でもある程度戦える、という者も多い。
だが、彼の持つ杖というのは、本来近づいて戦うように想定されてはいない。
おそらく本人もそうなのだろう。
遠距離から一方的に制圧する戦闘スタイルなため、こうやって接近されるともうどうしようもないのだ。
さらに対人戦になるとなお更それが顕著に出てくる
つまり、接近戦は苦手。
こうやって盾を張って耐えるしかない。
いつかやられるまで、そのMPが空になるまで、永遠に凌ぎ続けるしかない。
が、
「──と、思っていませんか!」
どこかで見た光景。
だが先ほどと様子が違う。
ドジェイルの顔面が少々ピキついている。
怒りの形相で相手を睨んでいる。
「ッ⁉」
どうしていきなりそんな顔に⁉
軽く恐怖を覚えるレイジ。
おかげで攻撃の手が緩んでしまう。
当然、自称歴戦のドジェイルは、この機を逃さない
「っ! 今ですッ!」
まず素早く盾を解除。
そしてMPを、シュルシュルシュルシュル!
「ぬるいですねえ! 何もかもがぬるいッ!」
放弾!
至近距離からぶっ放した。
「うおッ⁉ コイツ⁉」
2人は爆発、
パンッ!
弾け飛んだ。




