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3.すでに覚醒済み

 始まりは4年前、レイジが14の時であった。

 幼少期から冒険者になることを夢見ていたレイジは、ついに14歳となり、晴れてその資格を得た。


 そこで重要なってくるのがスキルの存在である。

 スキルとは天性的なモノで、自力習得はできない。

 生まれた時から、赤ちゃんの頃から備わっており、ない人には全く無い。

 もちろん、スキルが冒険者としての全てではないが、新人採用の基準には多大に関わってくる。


 スキルによってスタートが大きく左右されるのだ。

 なんだか不公平に感じてしまう。

 でもそれが冒険者の実情であった。


 幸運にもレイジが所有していたスキルは、【盗賊者】であり、これがあれば探索とか何やら色々と便利になる。

 依頼達成率が目に見えて上昇するため、パーティに一人は欲しいところだ。


 加えて彼自身、戦闘だってそれなりにできた。

 【盗賊者】の欠点がまるでない。

 さらにまだ若く、伸びしろや将来性だって期待できる。

 当然、周囲からは声を掛けられまくっていた。

 モテ期だった。

 

 だから入るパーティに困ることはなかった。

 そこでレイジは、勧誘を受けた中で最も有力な、Bランクのパーティへ入ることを決めた。


 ただ入っただけでメンバーから過剰な祝福を受けた。

 まだ何もしてないのに、怖いほどに賞賛された。

 それは、彼がこれから冒険者として名を馳せていくと、約束されたようなモノであった。

 

 しかし、道はいとも容易く折れ曲がってしまう。

 

 というのが、ちょうど同時期に新たに結成されたパーティの存在があり、それがバーネットたちのパーティだった。

 当時はまだ結成して間もなかったため、メンバーは彼女を含め、たった2人しか在籍していなかった。


 一応ギルドにメンバー募集の張り紙は出していたのだが、尋ねてくる者は誰もいない。

 それは当たり前だ。

 Cランク、しかもたった女性2人だけの超弱小パーティに参加する者なんて、よほどの物好きか変態か馬鹿くらいである。

 適当なパーティでやっていけるほど冒険者は甘くはない。


 レイジ自身も、その張り紙を目に入れることは度々あったのだが、気にも留めていなかった。

 エリートの自分には無関係、例え落ちこぼれであっても入らないだろう。

 当時は本気でそう思っていた。

  

 だが、実物の彼女に出会ったのが運の尽き。

 その日はギルドに用があり、そこで偶々、隣に並んでいたバーネットを直視してしまった。

 その時受けた衝動を、レイジは忘れない。

 

 紅蓮華を思わせるような真っ赤に染まる髪、それに引けを取らないほど美しい同色の瞳。

 清楚とは無縁の身なりで、扱いに苦労しそうな気の強い顔立ち。

 凛々しくも静かに佇むその姿、むさ苦しいギルドに咲く一輪の花──とかではないが、とにかく目が強制的に釘付けとなってしまう。

 

 当時18歳の彼女を見た瞬間、これまでの努力、冒険者になる夢、自分の人生、色々どうでもよくなった。

 全てが後ろへ吹き飛び、過去の遺物となっていく。

 つまるところ、彼女に一目惚れしてしまったのだ。


 そこからはあっという間である。

 彼女が例のパーティのリーダーだと分かったレイジは、光の速度で現在のパーティを脱退。

 誰よりも早く掲示板にある募集紙をはぎ取り、それをバーネットのところへと叩きつけた。

 その間僅か30分ほどだった。


 バーネットも快くレイジのことを受け入れ、パーティとして歓迎した。

 これからは自分が彼女をそばで守ってみせると、勝手に決意するレイジ。

 

 しかし、残念ながらそうはならなかった。


 なぜなら、強かった。

 バーネットは強かったのだ。

 その溢れんばかりの美貌から、別の目的で声を掛けてくる悪いおじさん冒険者たちも多くいたのだが、彼女はそれを一蹴してみせた。


 また、レイジよりも普通に戦闘能力が高く、見た目通りの好戦的な性格ゆえに、戦いでは無類の強さを誇っていた。

 身近にいる男よりも数段豪快な性格。

 守るはずが逆に助けられてばかり、とても頼りになるリーダーであった。


 さらにバーネットは男遊び、というより夜癖が非常に悪く、とんでもないビッチだった。

 自分と似た年頃の若い男か、同じく年下の男を捕まえては、一夜限りの行為を楽しんでいた。

 顔がまあまあなレイジも例外ではない。

 容赦なく彼女の性のはけ口にされた。


 それこそパーティに入ったその日、初めて出会った日に、夜の相手をさせられた。

 そこには愛など欠片もない、溜まった欲望のお片付け。

 中々に悲しい童〇卒業である。 

 

 おかげで修復不可能なところまで脳がぶっ壊された。

 純粋だった少年はもうどこにもいない。

 レイジはすっかり歪んでしまったのだ。


 やがて、初めは3人だったパーティーも一人増え、また一人と増えていき、Bランクへ昇格した。

 彼らは同ランク帯でも徐々に頭角を出していき、冒険者たちの中でそこそこ有名になっていた。


 そんなある日、レイジは自分が4年前に蹴ったパーティが、解散したという話を耳にする。

 どうやら彼の突発的な行動は、間違いではなかったらしい。

 なんだかんだで人生は上手く回っていた。

 あれから4年が経った、そろそろ彼女にこの想いを伝えてもいいはずだ。


 そう思っていた矢先、ある問題が嵐のように突然やってきた。

 ことの始まりは一週間前。

 パーティメンバーの同い年の女冒険者、エマコ=エマージェンス。

 彼女に告白されてしまったのだ。

 

 エマコは、レイジが入る前にいた結成当初からのメンバーで、何を隠そうバーネットの幼馴染である。

 2人で共に冒険者を始めるほど大の仲良し。

 小さい頃からずっと一緒に過ごしてきた。


 はたから見ると、よくいる仲睦まじい幼馴染だ。

 しかし、2人を長いこと見てきたレイジは、そうは感じなかった。


 と言うのがバーネット、彼女のエマコに対する言動がちょっとアレだった。

 過保護というか、束縛するというか、大事にし過ぎている印象。

 まるでエマコは自分だけのモノだと言っているかのように。


 彼女に言い寄ろうとする者は、例え女だろうと金持ちだろうと徹底的に叩き潰す。

 どんな手を使っても必ず排除する。

 それは普段の豪快なバーネットとは似ても似つかない、陰湿な行動の数々だった


 時折エマコだけに見せる、赤みを帯びた表情。

 明らかに過剰なスキンシップ。

 近すぎる距離感。

 そういうことだった。

 バーネットは初めから、彼女以外、眼中になかったのだ。

 レイジのことなど、ただの欲求処理の道具としか思っていなかった。

 用があるのはレイジのスキルと”身体”だけ、気持ちはずっとエマコにあった。


 その妬ましい存在のエマコに、前々から好きだったと、レイジは告白された。

 まさかの三角関係。

 当然、バーネットにすぐかぎつけられてしまう。


 激昂した彼女からパーティを抜けるように言われ、レイジはその日のうちに去っていった。

 彼女に捧げたこの4年間は全て無意味だったのだ。

 4年前と同じく全てがどうでもよくなったレイジは、半分自暴自棄になり、見ての通り今回の暴挙に出た。


 そして今に至っていた。


「──てめえだけはゼッテー許さねえ! ぶっ殺さないとアタシの気が済まねえ!」


 この世で何よりも大切な存在、エマコを危うく奪われてしまうところだった。

 バーネットは荒ぶる感情を抑えることができない。


「はあ……ここでやり合う気かよ、止めておいた方がいいぞ」

「っるせえ!」


 相手の忠告をかき消すかのように、バーネットが手から球状の光を出す。


「エマはアタシだけいればいいんだ。それ意外何も必要ないんだ、二度とエマには近づかせねえ」


 それが強く光を発し、逆巻く炎へと変わる。

 彼女の底なしの怒りが、全て手の平へ込められていく。


「こうなったらてめえは用済みだ、もう生かしちゃおけねえんだよ!」


 キュイイイィィィン! そして、


「消し飛ばせ! 炎花の壁フレイムガーデン!」


 相手に向け、至近距離から炎を幕をぶっ放す。

 

 燃えあがる光の斬撃へと姿を変え、レイジに襲い掛かる。


 が、次の瞬間、


 レイジは右手を前に出し、


「──EXスキル:【天性解除スキルダウト】」


 そのまま振り上げ、


 ボワッシュ!


 容易くかきけした。


「なっ⁉」


 炎の残骸が虚しく空へと昇っていく。

 その焔がバーネットの赤い瞳に映り込む。


「……んだよ……それ……」


 

 絶句した。

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