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26.第三の変異者

 ドジェイルを尾行していた相手、それはアイナ。

 教会暗部からの使者。

 暗殺者のアイナ=ジークリンデだった。


「んなっ……ッ!」


 とんでもない美少女である。

 そのあまりの美貌に、ドジェイルは喉が詰まりそうになる。


「気づいてたのね。でもおかげで誘い込む手間が省けたわ」


 誘い込む? 一体どこに? 〇〇〇?

 

「私を探していた? こんな美人な女性が、私を?」


 これはひょっとして運命というヤツなのではないのか。

 異性と少しお話しただけですぐ気になってしまう。

 このようにドジェイルは色々と勘違いしやすい。

 そういう男だ。


「さっきから何を一人で言ってるのかしら?」


 がしかし、この温度差。

 シュッ、アイナは暗殺者専用特殊ナイフを取り出す


「小声でブツブツと、気持ち悪い」


 吐き気がする。

 顔がブサイク過ぎて気分が悪くなる。


「これで3人目……一体全体、この街はどうなってるのよ」


 まるで変異者の巣窟だ。

 もう本当に嫌になる。


 標的は目前、早く暗殺してしまおう。

 そのために自分は今ここにいる。

 そう思い、アイナは武器を前に突き出す。構える。

 

 対して、ドジェイルは、


「はあ……またあなたたちですか。本当に懲りないですねえ」


 と、ため息交じりの声を漏らす。


「ええ、別に期待なんて初めからしていませんでしたし。ええ、本当ですよ」


 もう色々ガッカリだ。


「どうして私を執拗に狙ってくるのか。恨まれる覚えはないのですが」


 教会から命を狙われていることをご存じな様子。


「独り言がうるさいこと。あなたがどんな能力だろうと関係ない。すぐにその首を地面につけてあげる」

「それは恐ろしい。ですが、私としてもこれ以上命を狙われるのはゴメンです。あなたもこの場で始末します」


 と言ってドジェイルは、魔法使いが持つような木製の杖を、自信ありげに取り出す。


「消えるのはあなたの方よ……変異者」

「その変異者? とは一体? あなたのお仲間さんも度々口にしていましたが、初対面の相手に失礼ですねえ。いえいえ、見ての通り私は正常ですよ」

「嘘をおっしゃい。あなた、さっき人を殺したばかりじゃない」

「……ほう」


 アイナは眼帯を取り外し、その黄金に輝く瞳で、敵を映し出す。


 EXスキル:【限点回帰ダーク・リ・ターン


 そこには黒く不気味に映る四文字。

 目の前の男の頭上に禍々しく浮かびあがっていた。


 標的を確認したアイナ、


「──条件は出揃った。これより執行する」


 その言葉と共に、ナイフを平らな面を前へ。


 すると、彼女の手から黒く光る、小さな陣が出現。


「──【暗殺者】」


 それが膨れ上がっていき、周囲に広がっていく。


 そして、瞬く間に路地裏全域を覆い尽くした。


「これは……【暗殺者】、ですか」


 空気が冷えあがるほど殺気が立つ。

 その割にどこか幻視チックな不思議空間。

 まるで疲れている時にみる夢のような、なんともおかしな世界へと切り替わる。


「なるほど。滅多にお目にかかれないレアスキル、というわけですね」


 その対象は自分だと言うのに、ドジェイルは呑気に珍しがっている。


「……行くわよ、覚悟なさい」


 アイナはナイフを構え、その場から、


 ──シュンッ


 影となり、一瞬で消えた。


 速い。

 灰色の影が相手の周囲を、目視できない速度で移動する。

 目まぐるしく壁と壁を飛び交っている。


「っ⁉」


 目をパチクリ。

 ドジェイルは全く追えていない。

 彼自身も一応はBランクではある。

 だが、それでもついて来れらないほどに、アイナの移動速度が凄まじい。


「こ、これが【暗殺者】のスキルですか……っ⁉」


 面食らうドジェイル。

 【暗殺者】とは、噂に聞くただの雰囲気スキルではなかったのか。

 だとしたら話が違うではないか。

 よって困惑の色を隠せない。

 

 アイナは相手を十分にかく乱すると、


「──放弾ショット!」


 背後から青の光弾を放つ。


「っ⁉ 結盾ウォール!」


 危ない!

 ドジェイルは間一髪、杖から真四角の盾を張ってガード。

 

 ボンッ、小規模の煙が発生。


「……少しはやるようね。本当に少し、だけど」


 ディフェンス能力はまあまあ。

 そう判断したアイナは、周囲を高速移動。

 再び術による弾丸を連射する。


結盾ウォール! 結盾ウォール! ウォウォウォウォール!!!」


 対して、ドジェイルも目まぐるしく術を行使。

 相手の攻撃を一弾残らず防御する。


「ハハハッ! どうしました! 近づいて来ないのですか!」


 ドジェイルに余裕が生まれた。

 確かに素早いが、この程度なら何とかなる範疇。


 相手は近づいてこない。

 ただ遠距離から撃ってくるだけ。

 おそらくこちらを警戒している。

 まずは遠くから様子見と言ったところだろう。


 ……と、ドジェイルは思っていたが、


 ──シュンッ


 背後からいきなりアイナが。


「なっ⁉」


 手に持つ短刀を構え、暗殺者の紅眼。


「──刀波ブレイド

 

 一閃 ズバッ!


 左腕を根元から瞬時に切り落した。


「っ⁉ アギャアアアアアア!!!」


 ドジェイルの絶叫。

 切り離された軽い腕が壁にふっ飛ばされる。

 切断部位から大量の血しぶきが溢れ出す。


 アイナの表情は固い。

 外したか。

 本当は武器を持つ利き腕の方を狙った。

 だが、ギリギリのところで避けられてしまった。


「あああああ! 痛い! 痛い! い・た・いいいいいいい!!!」

「終わりよ!」


 絶叫している暇などない。 

 アイナはナイフに光を纏い、すぐさま追撃。


「くっ! 結盾ウォール!」


 ガキンッ!


 間一髪! ドジェイルガード!


 周囲に鈍い音が響き渡る。

 両者の術がぶつかり、中間に火花が飛び交う。


 パキッ、盾にひびが。


「うぐぐぐ……放弾ショットは囮でしたか。これはしてやられましたねえ……」


 術で相手の視界を奪い、スキが出来たら即座に背後を取る。

 様子見などしていない。

 アイナは最初から殺意マックスである。


「……その割にはまだ余裕そうね」


 早くも片腕を損失したと言うのに、ドジェイルは薄気味悪い笑みを浮かべている。

 流石は変異者。

 その痛みに耐える汗の滲ませた表情。

 誰かさんと同じく気持ちが悪い。


 競り合ったままではラチがあかない。


 ──シュンッ


 アイナは一度距離を取り、再び影と一体化。


 そして またも壁を飛び回り、相手をかく乱する。


「左腕のお返しです! 放弾ショット! 放弾ショット! はいそこですッ! 放弾ショットォ!」


 今度は自分の番と言わんばかり。

 ドジェイルは杖で標準をさだめ、術による光弾を連発する。


「っ!」


 アイナはその速力をさらにあげた。


 こうなってくると速すぎてどうしようもない。

 外した術が周りの建物に虚しく直撃するのみ。

 移動する影を追うだけでやっとであった。


放弾ショット! 放弾ショット! はあああああ! ショショショショッオオオオオ!!!」


 狙って当てるの無理。

 そう判断したドジェイルは、次にやたら滅多らに撃ちだした。


 彼の放つエネルギーが無差別に拡散される。


 しかし、それでも当たらない。

 直撃したと思っても、それは影で作られた残像。

 暗殺者には決して届かない。


 一方、アイナはアイナで、反撃しようはしない。

 同じく術で撃ち返そうとはしない。


 光弾を躱しながら相手のスキをうかがっている。

 また先ほどのように奇襲をかけるつもりだ。


 そして、


 ──シュンッ


 容易い。

 一瞬で懐へと潜り込んできた。


「うッ⁉」


 一度ドジェイルの目前に現れたかと思うと、


 アイナ、シュンッ


 再度姿をくらまし、素早く背後に回る。


「っ! 分かっていましたよ!」


 しかし、ドジェイルはその音にすぐ反応。

 例え相手が何度消えようとも、背中を取ることは知っていた。


 所詮、暗殺者とはそういうモノ。

 職業柄すぐ後ろを取りたがる。


「今です! 刀波ブレイド!」


 待っていたかのように、杖の鋭利なところに光を集中させ、振り向きざまに突きを放つ。


 が、


 スカッ、空気のスカった音。


「なっ⁉」


 刺さった感触が、あの気持ちの良い音がない。

 対象の、アイナの身体が蜃気楼のように歪んでいる


 そう、それはただの残像。

 残念なことに読まれていた。

 これは悲しい。


「い、いない……ッ⁉」

「──放弾ショット!」

「はっ⁉」

 

 上空からアイナのかけ声。

 ドジェイルがすぐに上を向くと、空から数発の光弾が。


「くっ⁉ 結盾ウォール!」


 ドジェイルは慌てて杖を頭に掲げ、降り注いでくる弾丸を防御。


 いくつかが地面に着弾し、辺りに煙が立ち上る。


 と、


 ──シュンッ


 暗殺者は後ろを取りたがる。その通りだ。


 頭上からの攻撃で、背後のガラ空きとなったところに、煙で視界が見えにくくなったところに、アイナが出現。


「はっ⁉ しまっ──」


 ドジェイルは目のはしで彼女を、


「──刀波ブレイド


 遅い。

 そのまま短刀を鮮やかに振るい、


 ブシュッ!


 もう片方の腕を切断した。


「っ⁉ ああああああああああ!!!」


 杖を握ったままのドジェイルの腕がストンと落ちた。

 武器が無ければ術は使えない。

 よって、あとはスキルに頼るしかないのだが、 


「フンッ!」


 アイナは短刀の向きを変え、慣れた手つきで追撃。


 予告通り、ズシュッ!


 ドジェイルの首から上を跳ね飛ばした。


「あっ……」

 

 生首がクルクルと宙を舞い、綺麗に着地。

 口をポッカリと開けたまま、何とも言えない表情をしている。


 ザシュッ! ザシュザシュッ! ザシュッ!


 縦に真っ二つ、横に四つ切り、斜めに……。


 前回の例がある。

 アイナは攻撃の手を止めず、相手の身体を次々と切断していく。


 周囲の壁にナイフのついた血が、絵の具のように飛びかかる。


 人だった頃の原型が、身体の部位が、見る見るうちに分からなくなる。


 最後に、細かく輪切り。

 光を纏う鋭利なナイフで、容赦なく切り刻む。


 やがて、終わったようだ。

 そこには最後、アイナと肉塊らしき何かだけとなった。


「…………」


 対象の肉は動かない。

 そう見えるのは、彼の流れ出る赤い液体だけ。


「ふぅー」

 

 倒したみたいだ。

 今回は無事に仕留めることができた。

 オーバーキル。

 とりあえずはこれで一安心だ。


 スーン……。


 アイナは一度息を整え、【暗殺者】を解除する。

 徐々に不思議空間が薄れていき、戦闘前の薄暗い感じへ戻っていく。


「…………」


 スッ


 向きを変え、その場を立ち去ろうとした。


 ……が、


 EXスキル:【限点回帰ダーク・リ・ターン


 黒いモヤ、鐘の響く音。

 背後から得体の知れぬ何か。


 次の瞬間、


「うぐっ⁉」


 大きく揺れるアイナ、腹部から杖が、


「……かはっ⁉」


 

 突き出した。

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