24.アイナ=ジークリンデ
眼帯をつけた女。
彼女の名前は、アイナ=ジークリンデ。
その素性は、教会暗部という謎組織に所属する、特殊な経歴を持つ女性。
見た目通りまだ若く、レイジと同い年の18歳だ。
「チッ……悪かったよ。だからその物騒なモノは下ろしてくれ」
レイジはあっさり謝罪。
己の立場をしっかり理解。
「……そっ。でも次はないから」
今度ああいう態度を取った場合、問答無用でその首を掻っ切る。
アイナはそう忠告し、ナイフを懐にしまう。
「それじゃ、ついてこないで」
そしてレイジに背を向けて、再びプライベートな時間に戻る。
「あっ、おい、待てよ。そうは言われてもなあ」
初めて来た街だと地図とか色々分からないだろう。
危険な路地裏とかに女性一人で入ってしまうかもしれない。
これは誰かのエスコートが必要。
よって、レイジは勝手に後ろをついていく。
「…………」
アイナは気にも留めず、無言で前をつき進む。
「しっかしアイナ。お前よく変異者なんかとヤれるよな」
自分で言うのもアレだが、危険な人間とそういった行為に及ぶのを、何とも思わないのだろうか。
レイジは頭の後ろに手を組みながら呑気に呟く。
「別に何だっていいの。ちゃんとついてさえいれば」
アイナはそう答えた。
男なら何でもいい、レイジである必要は特にない。雑食だ。
「チッ、可愛げのない女」
本当に、ベッドの時とは大違い。
「じゃあ、俺と会うまではどうしてたんだ? たしか教会所属なんだろ?」
レイジは次なる質問をした。
話を聞くに相当なビッチなようだが、何かと規律の厳しい教会では、〇欲を発散するタイミングがないはず。
それは暗部となればなお更だ。
「そうね。そういうのは固く禁じられていたから、夜中にコッソリと抜け出してってとこかしら」
なんということだ。
神聖な教会の言いつけを破り、外で男共とヤリまくっていたそうだ。
別に自分以外にもそういう者は多くいる。
結構あるあるなことだとアイナは言う。
「えぇ……聞かない方が良かったな……」
レイジの修道女に対しての、清楚なイメージが決壊する。
聞いたことを激しく後悔した。
「いいのよ。どこかでハメを外さなきゃこんな仕事やってられないわ。それに私、元々孤児だったし。生きるために必要だったってだけで、別に教えになんてはなっから興味ないから」
アイナが所属する教会。
その中でも最深部に位置する暗部。
時には教会の不祥事を隠蔽したり、時には暗殺などの汚れ仕事だってする。
教会にあがなす不届き者。
存在するだけで厄介な、腹の肥えた豚さん貴族ども。
障害になる者は全て排除するのが、教会の裏の顔である。
アイナ自身、上の命令で何度もその手を汚してきた。
闇に紛れて、グサッ
入浴や就寝中に、グサッ
行為中に、グサッ
様々な手段を用いて暗殺してきた。
「だから何って話だけど」
「へえ~……」
レイジはあまり興味なさそう。
この変異者にはもう、性欲と支配欲と食欲くらいしか残っていないのだ。
「ちなみに、オークともヤッたことがあるわ」
「えっ、マジで⁉」
食いついた。と言うより驚いている。
無理もない、オークと〇兄弟だと知らされたのだから。
「す、すげえな……あのオークとヤッたのか?」
「ええ、そうよ」
なぜか誇らしげなアイナ。
「あれは私が任務に失敗して捕まった時だったかしら。悪趣味な男たちに一通り〇された後、オークの居住地に──」
おっと、これは危ない。
ここからは少しレベルの高い話になってくる。
上級者向けだ。
しばらく若い男女2人は、そんな下ネタ話に花を咲かせた。
「ところでアイナ。いつまでここにいるつもりなんだ?」
レイジが尋ねた。
教会の命令とやらでここに来たのは分かる。
だけどあれからもう5日が経つ。
その間自分たちは特に何もしていない。
毎日こうやって街中をフラフラと歩くだけ。
観光も良いが、流石にサボり過ぎではないか。
「仕方ないじゃない。連絡が来ないんだもの。何をしようにも動けないわ」
本部からの交信が途絶えている。
情報が来るまでは基本的に動かない方がいい。
「神父の話だと本来、ここに現れる変異者は一人だったはず」
だけど実際には2体いた。
さらにうちの1体は逃がしてしまった。
控えめに言って異常事態。
すでに教会には報告しているため、あとは向こうからの指示待ち状態である。
「まあ、あの神父の言うことは当てにならないから。ったく、少しは出張らされる私たちの身にもなって欲しいわね」
上司の陰口を言うアイナ。
全国に発生した変異者を捜索すべく、各地に人員を送っている。
また、これは教会暗部が極秘裏でやってることで、その情報はほとんど隠されたまま。
つまりトップシークレットだ。
「へえ~。ところで気になっちゃいたんだが、なんで教会は俺たち変異者のことを知ってるんだ?」
もうすっかり変異者が馴染んだレイジ。
なぜ上記の存在をご存知なのか。
どうして教会はそんなことやっているのか。
より詳しいところを聞こうとしたが、
「そこまでは教えない。あなたは一応当事者だから。それに話すのがめんどうだし」
「ふーん、まあ別にいいけどよ」
言いたくないなら、いい。
レイジは適当に相槌を打つ。
アイナは続けた。
変異者は確かに危険な存在ではある。
だが、普通に殺害してしまえばただの肉塊同然。
大体はスキルが厄介なだけで、人気のない所でサクッと暗殺すれば基本的に問題ない。
「いや、エマコは暗殺できなかっただろ。嘘はやめろよ」
「知らないわよ、私だって実戦はアレが初めてだったし。第一そんなにポンポンと湧いてくるモノじゃないのよ」
通常、滅多にお目にかかることはない。
それが2体もいた。まさに異例の事態。
つまりアイナ的にはただの外れクジを引かされた。
それ以外の何モノでもない。
なので、とにかく今は連絡が来るまで、この街で待機するしかない。
「それに、ここの街並みも少し見てみたかったし、ちょうど良い機会ね」
アイナはふと足止めて、周りの建物を見渡した。
「街がどうしたんだ? ピンクの店が多い以外は普通な感じだが」
「いいえ、皆の表情を見てみなさい。心から澄みきってる」
先日、この街にはびこる闇組織が壊滅した。
おかげで街は平和になり、往来する人々には笑顔が戻っていた。
街を元気に駆け回る子どもたち。
商店街で溢れかえる活気のある声。
路上で殴り合う酔っ払い冒険者たち。
いつもと何ら変わり映えのない日常に見えるかもしれない。
だがそれは、もうあの頃のように怯える日々は来ない。
そう思う人々の、心からの笑顔であった。
「勇者さまは立ち寄った街をお救いになる。って話を聞いたことがあるけれど、彼以外にもまだそんな人たちがいたなんて。この世界もまだまだ捨てたモノじゃないわね」
アイナは何やら感心した様子。
その瞳はどこかキラキラと輝いているようにも見えた。
「ええ、とても素晴らしいことだわ」
「ふう~ん。特に変わったようには見えないけどな」
一方、レイジはレイジで、周りをキョロキョロキョロ。
その興味なさげ感が余計に間抜けを引き立てている
「さてと、街も十分見回ったことだし、そろそろ戻ろうかしら」
やがてお散歩も終わり、アイナは自分の宿舎に帰ることに。
「おっ! やっとその気になったか。いいぜ、これでもかってくらい喘がせてやるよ」
朝っぱらから足腰立たなくさせてやる。
今日は一日中フィーバー。
レイジはヤる気満々である。
考えだけで〇〇が疼いてくる。
「…………」
横でソワソワするキモい男に、アイナは、
ナイフを、カチャリッ
「嫌だと喚いても……うおっ⁉」
振りかざした。




