22.クレイジーレイジ
「エマコは、アイツは死んだのか⁉」
鬼気迫る表情で尋ねるレイジ。
その問いに、女は少し間をおいて、
「いいえ。残念だけど仕留め損ねたわ」
「くっ……」
レイジのせいだ。
レイジがあらかじめ、相手をもっと削っていれば倒せたかもしれない。
「だけど、次は絶対に逃さない」
と言って、女は表情を鋭くさせた。
彼女の目からその決意の堅さがうかがえる。
「お前一人でなんとなるのか?」
任せてもいいのか、一度失敗している。
「正直に言うが、アレを単独で殺せるとは到底思えない」
「あなた、誰にモノを言ってるのかしら? 甘く見ないで。この前のようにはいかないわ」
「ソイツは頼もしい限りだ。けどな、お前、【暗殺者】だろ」
女の顔がピクついた。
様子からして合ってるのだろう。
レイジは目隠しされた状態で、相手のスキルを見事に言い当てた。
こういうのは基本的に、【鑑定】というスキルが無ければ確認できないのだが、【天性解除】にはソレを透視する力が備わっている。
これはスキルをパクる際に、相手がどんなブツを持っているのか確認するためである。
事前にどんな能力なのかを把握できなくては、おめおめと外れスキルを掴まされるかもしれない。
そんな悲しい事態にならないように、【鑑定】という機能がオートで備わっているのだ。
これも含めて【天性解除】の歴とした能力。
流石EXスキル。普通に便利。
気が利いている。中々できる事じゃない。
やはりそこら辺の凡庸とはわけが違う。
それで前回、意識を失う直前に、女のスキルをちゃっかり見ていた。
というわけで、彼女のスキルは【暗殺者】
「勝手に覗いてたなんて……変態」
女は身体を一つ分引く素振りをした。
その蔑むようにこちらを睨みつける目。
たまらないモノがある。
レイジ自身、目隠しをされていなければ喜びに打ち震えていただろう。
「【暗殺者】のお前でもダメだったんだ。普通には倒せないだろ」
それはさておき、レイジは言う。
【暗殺者】とは文字通り対象を暗殺するスキル。
ある特殊な条件下のみ力を発揮し、それは満たすと絶大な効果を得る。
対象を一方的にボッコボッコにできてしまう、絶対空間へと変わる。
滅多にお目にかかれない超レアスキル。
なんだったら名誉EXスキルにしてあげてもいい。
エマコの時は様子から見て、条件とやらは満たされていた。
つまり、あの場では間違いなく【暗殺者】が発動していた。
にもかかわらず逃げられた。
「しかもあんなスキだらけの状況、たぶん二度と来ない」
あの時、エマコは精神攻撃でかなりグラついていた。
なんとか戦意喪失状態に持ち込めたが、おそらくあれは一度きり、次はない。
そのタイミングでの【暗殺者】だ。
またとないチャンスだったはず。
「無用な心配ね。自分で言うのもなんだけど、戦闘だってそれなりにできるわ」
タイマンならそれなりに自信がある。
ちょっとやそっとのことで負けたりはしない。
スキルに頼らなくても戦えるよう、しっかり訓練と経験を積んでいる。
能力頼りの三流と一緒にして貰っては困るそうだ。
「俺だってBランクの中じゃ結構やれる方だ。それにお前が強いってのは何となくだが理解できる。でもな……」
レイジは異議を唱える。
自分だってBランク冒険者の中では戦闘能力は高い方だ。
しかし、それでもあのエマコには全く歯が立たなかった。
Bランクの使い手が束になっても無理ゲーだろう。
「あの強さ、おそらくAランク相当だ」
「っ……Aランクですって? アレが勇者さまと同格だって言いたいの? そんなことあるはずがないわ」
絶対にあり得ない。
単にお前が弱いだけだと女は超否定する。
Aランクと言えば、”勇者”や”賢者”、それに”聖女”といった世界に選ばれた者。
またはそれに準ずる才を持つ強者のみに与えられる特別な称号だ。
普通の人間には縁がない。
到底たどり着くことのできない領域である。
「いくらお前が強いって言っても、Aランクの相手は無理だ。そうだろ?」
「…………」
女は無言。今度は否定しないようだ。
「加えてアイツのEXスキル、【奇死怪生】……アレはたぶん無敵だ」
エマコと交戦したレイジが言うに、あの能力がある限り、彼女を倒すことは永遠に叶わない。
負傷させてもそこから無限に再生する。
しかも、即死の致命傷を与えたところで、なぜか死なないというおまけ付き。
どう考えても盛られ過ぎだ。
「アイツは元々【回復士】だった。それが関係したのかあんな化け物みたいな能力に……」
自分の外れスキルとは大違い。差が酷すぎる。
「でもって戦闘力は桁違い、おまけに不死身と来たもんだ。たとえ俺ら2人で掛かっても勝機はゼロだろうな」
だから何か手段を探すべきだとレイジは言う。
「確かにあなたの言い分は一理ある。けれど、それであなたを生かす理由にはならないわ」
手段なら別に一人でも探せる。
別にレイジなんか必要ない。
何ならネコの手を借りた方がまだマシなレベル。
「変異者なんかと協力しろって言うの? 馬鹿馬鹿しい、冗談はそのスキルだけになさい」
「いや、お前には託せない」
「フンッ、また随分と安く見てくれるじゃない。あなた生意気よ」
「こっちのセリフだ。アイツはもう怪物だ、暗殺者一人でどうにかなる相手じゃない」
「人のこと言えるのかしら? あなただっていつああなるか分からない。本来こうやって話をしてることすらおかしいのよ」
不安定で危険な存在。
今はまともそうに見えるが、今後はどうなるか分からない。
平常を装っているだけの可能性も拭えない。
いつ暴発するかも分からない爆弾なんかと、行動を共にはしたくない。
「そう思うならすぐに殺してくれても構わない。だがな、それはお前がアイツをぶっ殺せる。そう確信した後だ」
この件を託せると思える相手を見つけるまでは、もしくはエマコの最後を見届けるまでは、死んでも死にきれない。
レイジは表情をより険しくさせた。
「…………」
女はまたもや眼帯を横にずらし、その黄金の瞳で目の前の半裸を見た。
彼の身体からゾワゾワと浮かびあがる禍々しいオーラ。
復讐者の放つ一転に向けれた憎しみ。
形こそ違えど、まさしく変異者の出すソレであった
「……狂ってる。クレイジーだわ」
「チッ」
「でもまあ、あなたの案には乗ってあげようかしら」
この男の言う通り、もし相手がAランク相当ならば、一人で挑むのはあまり得策ではない。
自分には荷が重すぎるし、何より危険すぎる。
それに彼とは何だかんだで利害が一致している。
気に入らないがここは手を組んであげるべき、女はそう考えた。
「……っ!」
アプローチは上手くいったみたいだ。
レイジのトークスキルが+3上がった↑↑
「じゃあ、よろしく。レイジ=アルバードさん」
「ああ、よろしく。ならとっととコイツを外してくれ」
早くその美貌を拝みた──いや、窮屈な拘束から解放して欲しい。
レイジには分かる。
この女はそのボイスからして相当な美人であると。
期待して損はないだろう。
なので、この男は内心とてもソワソワする。
が、
女はレイジの元まで行くと、ゴソゴソゴソ。
バッグから鍵ではなく、何やら黒いチョーカーのようなモノを取りだした。
それを、
ガチャッ!
レイジの首に引っ掛けた。
「これで安心ね」
女は少し満足そう。
「……へっ、なんだよこれ?」
急にひんやりとしたモノが首周りに固定された。
レイジは不思議に思う。
「フフフッ、私からのプレゼントよ」
「プ、プレゼント……?」
「ええ、そうよ。勘違いしないでちょうだい、まだあなたを信用したわけじゃないから」
「ど、どういう意味だよ」
震えるレイジに、女が説明してあげた。
このチョーカーは特殊な代物で、遠隔操作を行い、任意で対象の首を絞めることができる。
つまりこれは掛けられた者は、所有者の言いなりとなるしかない。
まさに、死にたくなければ、というヤツである。
服従の首輪。
奴隷とか変異者に使うとより効果的だ。
「これであなたは私に一生逆らえない。私のために精一杯働いてもらうわよ」
「…………」
そう言って、女は、
「フフッ」
笑みを浮かべた。




