21.変異者
眼帯を横にズラす女。
彼女はまるで憎き敵を見るかのごとくレイジを睨みつけた。
「【天性解除】……それがあなたのスキル。そうよね」
違う、EXだ。間違ってもらっては困る。
そこら辺の凡庸スキルと一緒にしてはいけない。
レイジは無意識にそう思う。
「天性、解除……名前からして相手のスキルを解除するのでしょうね」
違います。奪ってさらに自分のモノにも出来ます。
レイジは心の中でそう付け加えた。
「で、あなたはどうしてそんな能力を持ってるのかしら?」
知らない。朝起きたらこうなっていた。
あとは、
「たしか悪夢にうなされていた気がするな。何かに呼ばていたような……いや、内容は全く覚えちゃいないが」
とにかく、とんでもなく怖い夢を見た。
それだけは良く覚えている。
あの時かいた大量の汗と、バックバックの心臓音は今でも忘れない。
「ひどい悪夢、何かに呼ばれた……そういう事例もあるのね」
女はボソボソと呟きながら細目にメモを取る。
几帳面な性格だ。
「それで、もう実際に誰かに使ったりしたのかしら?」
さっそく確信を突いてきた。
レイジは内心ギクッとなる。
「…………」
ここは正直に答えた方が身のためだろう。
もう片方の肩までぶっ刺されてはたまらない。
「一人だ。まだ一人にしか使ってない」
バーネットとエマコ。
正確に言うと使ったのは2人だが。
「ふう~ん。使ったんだ」
女が見透かしたような目をして、被告の証言をメモメモする。
「い、いや、単に防衛のために使っただけだ。自分から率先して使ったわけじゃない」
基本的には障害になる時にだけ使う予定だった。
無差別に他人のスキルを奪うような、卑劣な真似は絶対にしないと、レイジは力説する。
この男、バーネットにやったことを全て忘れているようだ。
「人の才能を奪うだなんて、非道で下劣なスキル」
まさにこの悪人にピッタリ。
「一応言っておくけど、私のスキルを奪っても無駄よ。私のは直接戦闘には向かないから」
と言って、女は椅子から立ち上がり、レイジの肩に刺さったナイフを抜いた。
「ぐあっ⁉……くっ、待てよ、さっきから言ってる変異者って一体……」
「余計な口を挟むなと言ったはずよ」
女は殺気を込めたナイフを向ける。
「っ……どうせ殺すんだろ? だったらせめて教えてくれたっていいだろ」
「あなたには関係ない」
「いや、あるだろ。現に俺がその当事者なんだ、知る権利くらいあるはずだ」
変異者呼ばわりされたまま殺されるのは納得できない。
第一それが気になって仕方がない。
教えてくれないのなら一生恨む。
今夜化けて出るかも。
「……いいわ。最後に教えてあげる」
しつこい。
女は渋々説明することにした。
「一度しか言わないから」
そして、変異者なるモノの説明が始まった。
人の心では耐え難い苦しみ、死をも超える悲しみ。
時としてそれは人を狂気へと変えることがある。
それが変異者という存在だ。
「死んだ方がマシなくらい過酷な状況下にさらされた時、心が破滅へ追いやれた時、普通なら死を選ぶ」
だが、彼らは違う。
辛い現実に適応したり、乗り越えたりもしない。
「ただ深淵に堕ちていくだけ。そう、彼らは絶望した先に、一つの闇を見出すの」
その淀みない闇はやがてEXへと変貌し、スキルとして形に出てくる。
進化したとか覚醒したとか、そういった華々しいモノでは決してない。
「死をも超える悲しみ、か……あー、 失恋とかか?」
レイジの横やり。
「は? なにバカ言ってるのよ。失恋なんかでなるわけないじゃない。もしなるとしたらそれは元からのイレギュラー、それこそ異常者よ」
男女の色恋沙汰ぐらいで変異者は生まれない。
それを聞いて、変異者のレイジは複雑な思いになる
「スキルが変わるだけなら良いの。でも問題は別にある。あなたも見たはずよ、彼女の変わり果てた姿を」
「…………」
レイジはこれまでの事を思い出した。
エマコ=エマージェンス。
元々は何かと控えめで遠慮がちだった彼女だが、変異者となってからその面影はどこにも無かった。
あの狂気、あの変わりよう、明らかに常軌を逸していた。
「EXスキルの代償かもしれないわね。所有者の人格を捻じ曲げて、眠っていた自我を暴走させる」
無意識に抑えていた理性のタガを取り外す。
そこに増幅させた心の闇を無理やりねじ込む。
すると、それは本能よりもずっと質の悪いモノへと変わる。
「それだけじゃない。彼らは常人では計り知れないほどの負の感情を、その身に宿している」
変異者の放つ感情は、時に厄災をもたらすことがある。
言わば、いつ暴発するか分からない設計不備の爆弾みたいなモノ。
次第に大きくなっていき、周りを覆うように囲んでいく。
「逃げ場がないように、じっくりと。気づいた時には何もかも手遅れ。滅びゆく様を黙って見ているしかない」
やがてそれは天災へと発展する……可能性が高い。
「だからそうなる前に、取り返しのつかなくなる前に、私たちが見つけて即刻排除する」
それが自分たちの仕事だ。
と最後に言って、女は説明を終えた。
「あー、ちょっといいか? ずっと気になっていたんだが、そもそもお前は何者なんだ? どうしてそんなこと知ってるんだ?」
ここでレイジの質問タイムに移る。
EXスキルもそうだが、変異者なんて今まで聞いたこともなかった。
まだ世間的に知られてないであろう知識をどうしてお持ちなのか。
「そこまでは教えない。それに私たちだってそれほど詳しいわけじゃないの」
変異者に関してはまだまだ未解明なところも多い。
だからこうやって当事者を尋問している。
そうでなければ、レイジはとっくに地獄送りだ。
「さて、これと言って目ぼしい情報はなかったし。あなたはもう用済みね」
レイジとお話しても全然楽しくない。
よって、女は死という形でお別れを告げることにした。
「ま、待てよ! 俺は狂っちゃいない! 話をして分かるだろ!」
正常者アピールする異常者。
こういうのは経験上相手にせず、さっさと始末した方がいい。
そう思い、女はナイフを振りあげた。
すると、
「エマコは! アイツはどうなった!」
ナイフを持つ手が止まる。
「死んだのか⁉」
「いいえ、生きてるわ」
その答えを聞いて、レイジは
「…………」
顔を歪めた。




