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19.プロローグ

 しばくして、


 ドカッ! バキバキッ! ドカッ!


 ──うがっ⁉

 ──アッハッハッハ! レイジく~ん!

 ──くっ、うおおおお!!!

 

 バキッ! ボコッ! ドゴォッ!

 

 バヒュウウウウー……壁にドーンッ!


 ドンッ! ドンッ! ドーンッ!!!


「ぐはっ⁉」


 超高速回転しながら叩きつけられたレイジ。


「おごぉっ⁉ ゲボッ! ゲボゲボッ!」


 そのまま血を吐き捨て、グッタリと動かなくなる。


「──も~う、やっと大人しくなってくれた。流石に疲れちゃったよ」


 勝利者であるエマコがゆっくり近づいてくる。

 手についた汚い血をピッピッと払いながら。


 ちなみ、例のゴスロリ服は戦いで邪魔になったのかすでにパージしており、元の服装に戻っていた。


「どうしちゃったの? 急に怖い顔で向かってきて」


 内容は前回となんら変わりない。33:4

 ただ今回はやけにしぶとかったため、制圧に少しだけ苦労した。

 

「無駄なのに。レイジ君じゃ今の私には勝てないよ。はあ~、学べないんだね、レイジ君って」


 学習能力皆無。お猿さん以下。

 未来の王子様がこれだと悲しくなってくる。

 そう思い、エマコは海よりも深いため息を吐く。


「……なんで……だよ……」


 敗北者がまた何か言っている。


「んー?」

「なんでバーネットを、殺したんだよ……」


 悔しそうに唇を噛みしめた。


「アイツは、お前のことを、誰よりも大事に思っていたのに……」

「違うよ、レイジ君は男の子だからそう見えただけ。そんなのただの幻想だよ」


 内情はもっとドロドロしていた。

 所詮女なんてそういうモノ。

 男の前ではキャピキャピしているだけの汚い存在。


「違う……本当にアイツは、バーネットは……俺なんかじゃなくて、お前のことが、好きだったんだ」


 その結果がこれとは、残酷すぎる。

 彼女があまりにも報われない。

 エマコにも少しくらい分かっていて欲しかったが、


「なに言ってるの? そんなわけないじゃん。そもそも女同士とか○○じゃないんだし、気持ち悪ッ」


 同性を相手に恋愛感情を抱くなんてあり得ない。

 エマコは拒絶反応と共に否定した。


「元々あのビッチのこと大嫌いだったし。うん、今はせいせいしてるよ」


 スッキリしたそうだ。


「くそっ……」


 そう聞いてレイジは、胸の内にある悔しさを、ただ噛みしめることしかできない


「じゃ、行こっか。負けたんだから約束は守ってね」


 敗者を自由にできるのが勝者の特権。

 この世は弱肉強食。弱い者はただ捕食されるだけ。

 よってエマコは、レイジを終焉デートに連れて行こうとしたが、


「……殺せ」


 弱者が、静かにそう言った。


「……ん?」

「……殺せよ、俺を」


 生きることを諦めたようだ。

 実に弱者らしい選択である。


「ううん、殺さないよ? 何度も言ってるよね?」


 バカなの? エマコは首を傾げてさもおかしそうにする。


「お前と一緒にいるくらいなら、死んだ方がマシだ」


 バカじゃない、レイジは言い返す。


「ふ~ん、そうなんだ。でもそれはレイジ君の都合だよね? 関係ないよ。だって私言ったよね? 次はもうないって」


 エマコが触れようとしてきたが、


「来るな」


 レイジは炎で威嚇する。ボワッ!


「いいの? 私はともかく、レイジ君は無事じゃすまないよ」


 撃つには距離が近すぎる。

 エマコが顔を近づけてそう忠告した。


「お前に最後一矢報いられるなら、それも本望だ」

「……ふ~ん、すごいね」


 エマコはジッと相手を見ていたが、


「っ!」


 ピクッ


「動くな」


 ボワッ!


 レイジが素早く手を前にかざした。


「っ!」

「次に変な真似してみろ。コイツを容赦なくぶっ放す」

「…………」


 2人の間には静寂。


 エマコの瞳に怒りの業火が映り込む。

 

 レイジは目に鋭さを宿し、真っすぐと敵を見据えた。

 すでに対象との間に恐怖はない。

 あるのは憎しみだけ、逆巻く炎だけであった。


 しばらく両者は見合っていたが、


「どうして……どうしてなの……」


 急に、エマコの表情が。


「どうして、いつもダメなの……」


 声が震えて、弱々しくなる。


「酷い、酷すぎるよ……こんなに頑張ってるのに、なんで、なんで……ねえ、なんで……」


 そのまま瞳に涙を浮かべ、相手に苦労を訴えかけた


 しかし、


「……何が頑張ってきただ。気持ち悪い」


 レイジが否定の言葉を挟む。


「えっ……レイジ、君?」


 普通、今のは慰めてくれるパターンだろう。

 だがそんなこと、この男に期待してはいけない。

 レイジはさらに続ける。


「お前はいつもそうだった。昔からすっとろくて、他人の顔色ばかり伺って、そのくせして良い人みたいに立ち回ろうとする」


 自分の立ち位置を聖女か何かだと思っている。

 勘違いも甚だしい。


「みんな自分をヒロインだと思ってる? ソイツは違うな。第一、自分のことしか考えてないのはお前の方だろ」


 当たり障りのない無難な感じ。

 男を全肯定する女が受けると思っている。

 あいにく、レイジの一番嫌いなタイプだ。


「違う、私は……っ」

「ずっと目障りだったんだよ。いつも俺の周りをウロついて、今だってそうだ。ハッキリ言って迷惑しかない」


 こんなクソヒロイン、世界のどこにいるモノか。

 虫唾が走る、吐き気がする、頭痛もだ。


「そ、そんなこと、言わないでよぉ……」


 エマコの頬に涙がつたう。

 こういうのには耐性がない。


「たしかアイツのことが嫌いだって言ってたな。俺も同じだよ」

「うっ……うぅ……」

「俺は、お前のことを心底毛嫌いしていた」

「ッ⁉ うえええん!!!」


 バーネットはなぜこんな女を好きなったのか。

 彼女こそ人を見る目が無さすぎる。


「うぐっ……ひっぐ、ひっぐ……」


 エマコは溢れ出てくる涙を必死に拭おうとする。


「違うの、私は目が覚めたの……私は、レイジ君しかいらないだけ……レイジ君は私の全部。なのに、なのに、どうしてそんなこと言うのぉ……」


 こっちのセリフだ。なぜそんな事が言える。

 すすり泣く相手に、レイジはただ軽蔑の目を送る。


「冗談だよね? ツンデレさんなだけだよね? そう言ってよ! お願いだから、何でもするからぁ……」


 その問いに、レイジは顔をグイッと近づけ、


「ああ、何度でも言ってやるよ。エマコ、俺はお前のことなんか眼中にない。俺の心がお前に向くことは、絶対にない」

「ッ⁉」

「消えろよ、ブス女」

「あ……いや……いやぁ……」


 拒絶の言葉を受け、エマコの、


「いやあああああああああ!!!」


 世界が崩壊した。


「あああああああ!!!」


 自身の存在、生きる理由を否定されたエマコは、精神がズタズタに引き裂かれていく。


「あはははっ……あはっ、あははははっ」


 そして、壊れたおもちゃのように狂いだす。


「〜〜ッ! 自分のことだけを考えて何が悪いの! だってみんなそうでしょ! 良い人ぶってる偽善者なんかより私の方が全然マシだよ! そうでしょ!」


 開き直る。


「……もういい! もううんざりだよ! こんなのレイジ君じゃない! 私の大好きなレイジ君はこんなこと言わない!」


 今度はヤケクソ。

 壊れた脳を修復しようと自己暗示をかける。


「どこにいるの? ねえ、レイジ君、どこなの……」


 目の前にいるではないか。

 だというに、エマコは辺りをウロウロと徘徊する。

 辛い現実から目を背けるように。


「これで最後だ」


 レイジは手を前にかざし、標的に狙いを定めた。


 燃え盛る炎が渦を巻き、その質量が徐々に高まっていく。


 やがて、手の平に収まりきらないほどの、大きな業火が姿を現す。


「消えろ、異常者」


 そして、放──


 と、その時、


 ゴリュッ!


 突然、エマコの左腕が肩までかけてずり落ちた。


「ッ⁉ いやああああああ!!!」


 左半身から大量の血が噴き出す。


 ザシュッ!


 一瞬、黒い影のようなモノが見えたかと思うと、それが標的のもう片方を容赦なく切り落とす。


 間髪入れずに、一閃、二閃、三閃、身体が前後左右に激しく流れた。


 休む暇を与えない。

 その間にも、身体の至るところから赤黒いモノが飛び出してくる。


「なに……が……?」


 レイジはただうろたえた。

 目の前に光景に何もできない。


 エマコの悲痛な叫びと共に、四肢がもぎ取られていく。


 影が一本線となり、標的をズタボロに切り裂き、原型が留まらなくなる。


「あああああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」


 すでに首はない。でも声がする。

 エマコの肉が発する叫び、人では出せない低音へと変わっていく。


「ウヴォワアアアア! デェジグウウウウン!!!」


 やがて、片足だけがついたソレは、一度壁に思いっきり衝突して、逃げるようにしてこの場を離脱。


 絶叫が耳から徐々に遠くなっていき、


 やがて、完全に消失した。


「うっ……くっ……」


 急に強烈なめまいが。


「お、お前……は……」


 消えゆく意識の中、レイジの瞳には、


「くっ……」


 バタンッ─。


 一人の女が、映っていた。



 これは、全てを奪われた者の、復讐の物語。

 一人の女を殺すための、一人の男の物語。

これで第1章はおしまいです。

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


もし、現段階で評価してあげてもいいわよって言う聖女のような方がいましたら、下の☆評価ボタンをどうかお願いします。


また、この話が面白いと思ってくれた方は、引き続き第2章も読んでみてくださいお願いします。


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