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18.何もいなかった

 エマコは許してくれなかった。


「あれから2日も待ったし、おめかしだって頑張ったのに、そんな返事はあり得ないよ」


 どんなに酷い顔でワンワンわめこうとも、容赦なく連行する。

 もう決定事項だ。諦めた方がいい。

 それにまだ、お洋服の感想だって貰ってない。


「いやだ……いやだぁ……」


 レイジ、ガクガクッ、ガクガクッ。


 身体の震えが止まらないほど今日のエマコは決まっている。


「……ねえ、なんでそんなに嫌そうにするの? 意味わかんない」


 だとしたらなぜそこまで不安がるのか。

 何か文句でもあるのか。

 あまりにも失礼ではないか。


「私思うんだ。ほらっ、レイジ君ってば危なかっしいからさあ、誰かが監視してみててあげないと」


 現に、一日目を離しただけでボロボロ。

 あまりにも見ていられない。


「……っ」


 誰のせいだと思って……。

 レイジは煮えたぎる気持ちを噛み殺した。


「やっぱりレイジ君には私がついてないとダメなんだよ。ねえ、そうでしょ? そう言ってよ」


 その問いに、レイジは地面につけた頭を横にズリズリする。

 これは、痛みなんてどうでもいい、それほどイヤだということを端的に表している。


 すると、


「……なんでダメなの」


 震えた声。ギリッ


「他の女は良くて、なんで私だけはダメなの。ねえ、答えてよ」


 シーン……、レイジは一ミリも動かない。


「本当はね、レイジ君は皆のモノでもよかったの。色んな人がいる中でも、たまに私の相手をしてくれれば、それでよかった」


 でもそれすら叶わなかった。一度も。


「みんなしてレイジ君を独り占めしようとする。みんな自分のことばっかり、自分を物語のヒロインだと思ってる」

 

 不公平、遠慮してた自分がまるで馬鹿みたい。


「だから私もそうすることにしたの、何にも悪いことじゃないよね? もう遠慮なんか絶対しない。だって、そろそろ私もヒロインになりたいもん」


 みんながやってる事と変わらない。

 邪魔する女は全力で物語の舞台から叩き落す。


「あの女は特に許せない。散々独り占めしておいて、私の邪魔までする! いっつもいっつもいっつもいっつも!」


 だから真っ先に排除した。

 殺されて当然だ。エマコはそう主張する。


「…………」


 感情的になる相手を前にして、レイジは怖いほど静かであった。

 バーネットが死んだ。

 今更ではあるが、その事実が彼の心に響いていた。


 やはりアレは本当に彼女だったのか。

 最後は愛するエマコに……。

 そう思うと、なぜか切なさ──いや、言葉では言い表せない強烈な何かが雪崩れ込んでくる。


 どうやら彼女は、自分の中ではまだ、それなりに大きな存在だったみたいだ。

 完全に吹っ切ったつもりだったのに。

 彼女に対して認めたくない気持ちが溢れてくる。


 そして、

 

「自分だけレイジ君と……そのうえ子供・・まで作るなんて……許せない、許せないよ」


 その言葉を聞いて、


「……は? こど……も……?」


 レイジは目を丸くした。


「……あっ! 言っちゃった!」


 しまった、エマコはわざとらしくお口を抑える。


「子供って……一体どういうことだよ」

「さあ? エマコ知らな~い、ヒュー、ヒュー」


 そっぽを向いたまま、下手くそな口笛を吹いている


「エマコ、おい、答えろよ」


 レイジの口調が強くなる。


「フンだ! なにさ、レイジ君くせに。さっきまで小鹿みたいに──」

「──エマコ!」

「……っ」


 エマコは言いたくなさそうだったが、


「あ~あ、バレちゃった」


 残念そうに口を割った。


「でもあの女も酷いよね、だって私たちにずっと内緒にしてたんだよ?」


 両腕を首の後ろに組んで歩き出す。


「レイジ君もレイジ君だよ、まさか避妊してなかったなんて。そりゃあ、あんなにヤッてれば出来ないほうがおかしいよ」

「そ、そんな……」


 考えれる中で、最も残酷な、最悪のシチュエーション。

 こんなことがあっていいのか。

 許されていいのか。


 そして、エマコはピタッと止まり、


「そうだよ。あの女、妊娠してたの」

「……っ」

「うん、たぶんレイジ君の子供だね」

 

 レイジは悲壮な表情のまま動かなくなる。


「でも安心して? ちゃんと除去おそうじしておいたから」


 まだ若い、遊び盛りだというのに、もうパパになるなんて、レイジとしても嫌なはず。

 

「感謝して欲しいな〜。あの女が奥さんになったら、それこそレイジ君が一生コキ使われちゃうところだったよ」


 尻に敷かれてしまう。

 かなり危なかった。だがもう大丈夫。


「それにあんなのがママだなんて、生まれて来る赤ちゃんが可哀そうだよ」


 親に望まれずに生まれた子。

 生きていてもきっと辛い目に遭う。

 苦労するだけ、幸せにはなれないだろう。

 だから、いま楽にしてあげた方がずっと建設的だ。


「ねっ? レイジくんもそう思うでしょ? そもそも、まあ、赤ちゃんなんていなかったけど」

「…………」


 レイジは無言。

 ただ何とも言えない顔で相手を見ているだけだ。


「大体、こういうのって普通、結婚するのが先だし。あまり世間様の印象も良くないし、節操なしにもほどあるよ」


 やがて、少しずつ歪んでいく。


「あっ、でも私の時はいつでもいいからね? レイジ君が欲しいって言ってくれたら、いつでも応じるよ」


 さりげなく良い女アピールをするエマコ。


「まぁ私としては、なるべく早い方がいいけど……なんて、キャッ♡」 


 言ってしまった。エマコは照れて顔を隠した。

 一緒に長く冒険者をやっていくのもいいが、いずれは収まるところに収まりたいところ。


「あっ! でもレイジ君が望むなら、今から──」

「──ぶっ殺すッ!」

「ッ⁉︎」

「エマコオオオオオ!!!」



 襲い掛かる。

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