17.約束の日
そして、翌日。
本日は約束の日、運命が決まる日、最後の日。
例の場所、路地裏にて、
「…………」
地面に頭をこすりつけて土下座するレイジ。
その丸くなった身体はガクガクと震えている。
「何の真似? みっともないよ」
対して、彼を憐れむように見下ろすエマコ。
キラーン☆
付けているグラサンに光が反射する。
現在、彼女はゴスロリ服に黒のサングラス、おまけに派手な日傘まで差している。
ゴスロリ服に関しては、昨日あの店主が紹介していた最も高額のヤツだ。
なるほど、様子からしてそれなりに充実した休日であったことが伺える。
一方のレイジといえば、全身傷だらけで至るところに包帯をグルグル巻いていた。
服だってボロボロ、見るからに痛ましい。
こちらはあまり良い休日ではなかったらしい。
──あれからレイジとエマコは、各自闇の幹部と相対し、見事勝利を収めていた。
エマコは、黒服たちを一瞬で蹴散らし、晴れてロリ専門店を自分の物に。
レイジは、幹部とその手下たちを相手に一人で戦い抜き、ボロボロになりながらもなんとかペンダントを取り返した。
掘られなかった、守り抜いたのだ。
おかけで街を牛耳っていた東西の幹部が、たった一夜にして排除された。
2人の活躍により、この街に蔓延る闇組織はほぼほぼ壊滅。
街は再び安心に満ちあふれ、人々にも活気が戻っていた。
しかし、当事者たちはそんな事など知りもしない。
目の前のことで精一杯なのだ、悲しい。
「ねえ、レイジ君。これなーに?」
異国チックなエマコがサングラスを取り、手に持つペンダントを不思議そうに見ている。
「頼む、それで許してくれ」
そして、見逃して欲しい。
レイジは地面に頭をスリスリしながら許しを乞う。
「……あっ! もしかしてプレゼント⁉︎ 私に⁉︎」
エマコは目を大きくした。
愛しの彼からのサプライズプレゼント。
これは嬉しくなる。
「……は?」
「もう〜、レイジ君ったら、急にこういう事してくるんだから〜」
このこのこの〜
エマコが指でツンツンする仕草をしてダル絡みしてくる。
ちょっとウザいかもしれない。
「い、いや、何でそうなるんだ?」
「えっ、違うの?」
「母親の形見だろ、それ」
「う〜ん? そうなの?」
「エマコ、お前……分からないのか?」
「うん。知らな〜い」
相手の軽い感じに、レイジは唖然とした。
まさか違うペンダントを持ってきてしまったのか。
いや、何度も見てきたから間違えるなんてあり得ない。
というよりその口ぶりからして、エマコはペンダントの存在を忘れている。
レイジの背中からイヤなモノが流れてくる。
「そ、そんなはずは……おいエマコ、お前あれだけ大事にしていたのに、本当に覚えてないのか?」
「う〜ん、そう言われてみれば、何か忘れてるような気もするんだけど、これがそうなの?」
なるほど、そういうパターンか。
レイジの生存本能がすぐに察した。
「エマコ、ソイツはお前の母親の形見だ。お前がいつも肌身離さず持っていた、何よりも大切な物なんだ」
「う~ん……私、レイジ君より大切な物なんてないし」
「……お前いつも言ってただろ、『これでお母さんが私を見守ってくれてるんだ』って。まさかお袋のことを忘れたのか?」
「お母さん? お母さんなら私が小さい頃に死んだけど、それがなに?」
なんとか思い出してもらうために説得を試みるも、エマコには届かない。
しばらくそんなこう着状態が続く中、やがて、
「へえ~。つまり、これはプレゼントじゃないってこと?」
エマコがペンダントを目をやり、
「ふ〜ん。じゃあ、いーらないっ!」
と言って、手の中でグッと握る。
そして、パキンッ、レイジの希望が砕かれた音
「なっ……」
エメラルドの破片が、レイジの瞳に映り込む。
そのままバラバラとなって地面に散乱した。
「うそ……だろ……」
レイジは言葉を失ってしまう。
あんなに大事にしていたのに。
自分が命かながら取ってきたのに。
簡単に破壊した。全てが砕け散った。
本当の絶望とはこういうことを言うのか。
レイジは思考が停止した。
エマコは手をパンパンして、手に刺さった破片を払い落とす。
「じゃ、行こっか?」
「……へっ?」
どこに?
「そんなの決まってるよ、今からデートだよ!」
でー……と?
「もうっ! この前約束したでしょ! 忘れないでって言ったはずだよ!」
まったく、レイジ君はすぐ忘れるんだから!
と、エマコはフンスカと怒ってますアピールをする
「うーんとねえ、まずは~、可愛いお店でランチを食べて~、あーんってして~、でその後は手を繋ぎながらショッピングして~」
昨夜ベッドの中でずっと考えていたのだろう。
エマコは楽しそうにデートプランを語っている。
「夜になったら綺麗な夜景を見て~、そこで良い感じになって……あっ♡」
頬をポッとさせる。
我ながら完璧なプランだとエマコは自負した。
アレだ、考えている時が一番楽しいヤツだ。
「それで~、『今夜は君を返さない』ってレイジ君が~……」
意外と言いそうなセリフ。
しかし、
「──助けてください」
レイジの声がそれを遮った。
「んー?」
「もう、勘弁してください」
「…………」
「お願いします……お願いします……」
その声は震えている。
もう限界だった。
エマコに付きまとわれるのも、狂ったエマコの相手をするのも。
「本当に無理なんです……だから、もう……」
敬語だ。同い年の女性に敬語である。
まるで子犬のように小さくビクビクしている。
そこには冒険者としての威厳やプライドは欠片もない。
いるのはただの惨めな男性だけであった。18歳。
「…………」
ここまでされたら、流石のエマコでも目が覚めてしまう。
こんな情けない男にまだ想いを寄せるなんてどうかしている。
だとしたらお世辞にも異性を見る目が無さすぎる。
そうだ、きっと呆れてモノも言えず、もう解放してくれるはず──
「──するわけないじゃん、そんなの許さないよ」
ダメだった。




