14.それぞれの休日、店主たちの思惑
──翌日、レイジは宿屋に用があるためそこにいた
「なにぃ⁉ 売り払っただとぉ⁉」
「ぐはっ⁉」
覗いてみると、何やら騒がしい。
レイジの怒鳴り声がしたかと思うと、宿屋の店主らしき男が壁までぶっ飛ばされた。
その衝撃で上からホコリがポロポロと落ちてくる。
「おいおい、落ち着けよレイジ。まあ、その様子じゃ無理そうだが」
店主は暴行を受けたというのに、えらく慣れた様子で客をなだめる。
「よりにもよって……クソッ!」
レイジは舌打ちした。
いつもにまして酷く荒れている。
コレは別に、前回エマコに完膚なきまでに敗北したイライラを、店主に当たっているとかではない。
もちろんそれもゼロではないのだが、今回は違う目的のために焦っていた。
というのが、エマコのペンダントである。
レイジはあれから考えた。
その母親の形見のブツと、全財産を彼女に貢げば、もしかしたら許してくれるかもしれない、と。
エマコがああなったのは、おそらくペンダントを失くしたショックによるモノ。
つまり、原因を取り除けば何とかなるかもしれない。
お詫びとして賠償金もたんまり渡すつもりだ。
相手の方がはるかに格上なため、もうそうするしかない。
むしろ、これで見逃してくれるなら安いくらいだ。
なので、レイジはさっそく急ぎ足で、現在の持ち主にところを尋ねた。
それがいま目の前にいるボロボロの店主だ。
何を隠そうこの彼こそが、レイジと協力してバーネットたちを嵌めた、宿屋の店主ご本人。
共謀した際に、店主はエマコのペンダントを気に入ったらしく、譲って欲しいとのことで彼に渡しておいた。
レイジは改めてそれを取りに来たのだが……、
「悪いなレイジ、もう売っちまった。売っちまったもんは戻らねえ」
だそうだ。ある人物に高額を提示されたのでつい応じてしまったと、店主は悪びれもなく言う。
「っ! アレに俺の未来が掛かってるんだ! 謝罪だけで済まされるか!」
レイジはまたも感情的になり、相手の胸倉をグイッと掴む。
「やめてくれよ、アイタタタ……こちとらこの前バーネットに絞められたばかりなんだ。少しは怪我人を労わってくれよ」
「ああっ⁉ 全部お前の自業自得だろうが!」
ドデカイブーメランが尻に刺さった気がした。
「なんで今更あのペンダントにこだわるのか知らねえがよ……一旦その手を放しちゃくれないか」
チラッ、店主は目を横に向けた。
「パ、パパ……」
レイジも目をやると、そこにはドアの向こうで怯える少女がいた。
店主の娘だ。
まだ小さな娘が横暴なお客さんを見て怖がっている
「チッ、おらよ」
これは良心がすごく痛んでしまう。
レイジはたまらず店主を開放した。
「で、誰に売ったんだ?」
そして、ペンダントの行方を問う。
「ああ、それなんだが──」
店主の言葉を聞いて、
「っ⁉ なんだと⁉ クソッ!」
レイジは店を飛び出した。
バタンッ!
「ふうー……やっと消えやがったか。迷惑客の相手も一苦労だな」
出て行ったのを確認した店主は、立ち上がりパタパタと埃を払う。
「……よし、もういいぞ」
ドアの向こうにいる娘の方に振り返る。
「わーい! パパー、上手く行ったね!」
娘は元気よく父親の元へと駆け寄る。
「ああ、助かったぜ」
ハイタッチ!
娘と共謀していた。
──一方その頃、エマコといえば、
「フ~ン、フフ~ン」
鼻歌なんて口ずさみながら、上機嫌に街を歩いている。
「フフッ、どこにしよっかな~」
気分はルンルンルン。
楽しそうに周りのお店に目をやっている。
こうなるも当然だろう。
何せ、明日は大好きな彼とのデートだ。
そう考えると気持ちが勝手に舞いあがってしまう。
「バッチリ決めないとね、レイジ君にガッカリされちゃう」
デートというのは初めの、特に待ち合わせの第一印象が最も肝心。
ここでその日の内容が決まると言っても過言ではない。
だから失敗は許されない。
エマコは彼の気に入りそうな、良い感じお洋服を見つけると意気込んでいる。
「あっ、可愛いお店~。うん、ここにしよっと!」
やがて、見つけたみたいだ。
エマコは見るからに派手めな、ロリ服専門店に目を付けた。
レイジにロリなる趣味はない、大丈夫だろうか。
そんな不安とは裏腹にエマコは気分良く入店した。
中に入ると、さっそく店内のお洋服を見ていく。
「これ良いかも! あっ、こっちも! う~ん、エマコ困っちゃう」
中々決められない、どれにするか悩んでいる。
ちなみ、そのどれもがゴスロリ服ばかりだ。
「普段こういう店には来ないからな〜……こうなるならレイジ君と一緒に来れば良かったかも」
今から彼と会って選んで貰おうか、その方が失敗しなくて良いかもしれない。
でもその分、初めのインパクトが欠けてしまう。
悩ましい、エマコは頭をくねらせていると、
「──お悩みでしょうか? お客様」
ダンディな店主さんに声をかけられた。
「そうなの、どれにしたらいいか分からなくて」
エマコは服を見ながらそう返事をする。
「ほう、では差し支えながら、こちらはお召し物いかがでしょうか」
と言って、店主は一際派手なピンクまみれのお洋服を紹介した。
これはまた一段と手の凝ったゴスロリ服だ。
お値段だってバカにならない。
「当店自慢の一品になります。お客様のようなロリ──ゴホン、お美しい方にこそ相応しい代物かと」
「う〜ん……ちょっと派手すぎない?」
これだとデートで浮いてしまう。
エマコはうむむといった感じで吟味している。
「なるほど、でしたらこちらなどは如何でしょう。デートの時などにはピッタリです」
「ちょっとおばさんっぽいかも」
「ほう……失礼。でしたらこちらは?」
「ダメ、逆に子供っぽすぎ。それに赤は嫌いなの」
「…………」
この少女、中々に生意気なメスガキ──いや、手強いお客様だ。
しばらくエマコと店主のお洋服選びが続いた。
そして、
「あー! やっぱり決めらんな~い!」
エマコが爆発した。
「あっ、そうだ! 全部買っちゃえばいいんだ!」
なんでこんな簡単なことに気づかなかったのか。
エマコにひらめきという名の雷が落ちた。
「ほう、いいのですか? 承知いたしました。ではこれら全てをお買い上げということでよろしいでしょうか」
店主が確認を取るも、
「ううん、違うよ。全部! ここにあるお洋服ぜ〜んぶ! だよっ!」
エマコは腕を大きく広げてグルっと回り、そう主張した。
「はて? 失礼ですがお客様、今なんと?」
「だから! このお店の服を全部買うって言ってるの!」
店主にも驚きという名の雷が落ちた。
「お、お客様、それはいくらなんでも……」
「何度も言わせないで! 怒っちゃうよ!」
「……本当によろしいのですか? 当店としても、非常に有難いことですが」
なんと、それでも構わないそうだ。
客も店員も、お店の外観もどうかしている。
「うん、お願いするよ!」
決まったようだ。
良いお買い物もできたことだし、エマコはお店を出ようとした。
「お客様、少々お待ちを。こちらは会計になるのですが……」
「会計?」
「はい、ご確認のほどを」
と言って、お客様に決済表らしき紙を手渡す。
「…………」
いろんな数字がたくさんある。
エマコはそれをザッと眺め、
「ふ~ん、すごいね。じゃっ!」
ピラッ、他人事みたいに投げ捨てた。
「お支払い願います、お客様」
「残念だけど、今は手持ちがないの。だから払うのは無理」
「……一応、後払いも可能ですが、そういうことでよろしいでしょうか?」
その問いに、エマコは足を止めて、
「しつこいよおじさん、もうお買い物は終わったんだから、このお店は全部私のモノだよ」
ここにあるお洋服は全部自分のだそうだ。
エマコは真面目な顔でそう説明してあげた。
「もう! 私は忙しいの! このあと美容室にも行かないといけないんだから!」
エマコ嫌になっちゃう! プンプンプンプンッ!
「……なるほど、そういうことでしたか」
それを聞いた店主は、目を鋭くさせ、
指をパチッ
その合図を皮切りに、奥から黒服の男たちがゾロゾロと出てきた。
「払えないのでしたら、お引き取り願います」
もしくはその身体で支払ってもらう。
店主は目の前にいるロリの身体を、一瞬だけじロリと見た。
ここはそういうお店だった。
「さあ、あなたたち、行きなさい」
再び指パッチン。
黒服の男たちが、エマコに、
「っ!」
襲い掛かる。




