13.隠された能力・解放!
しばくして、
バンッ! ヒュウウウウー……壁にドーンッ!
「うがっ⁉」
モノすごい勢いで叩きつけられたレイジ。
「くっ……」
そのままグッタリして動かなくなる。
「──もう~、これじゃウォーミングアップにもならないよ。本気でやってよ~」
あまりにも歯ごたえがない。
エマコは、無様にうなだれる男を見下ろしながらそう言った。
「あっ! まさか手加減してくれてたりする? 別に気を使わなくてもいいのに。レイジ君ってば、やっさしいんだ~」
エマコうれしい!
なんて、両手を組んで、一人勝手にときめいている
「ち、ちくしょうめ……」
一方、全てを出し切ったレイジは、悔しみの声を漏らす。
「エマコ……お前……」
敗北者が何か言っている。
「ん? どうしたの? レイジ君」
「お前たしか、ヒーラー、だったろ」
「うん、それがどうかした?」
エマコはわざとらしく首をかしげた。
さっそく可愛い子ちゃんアピアピタイムである。
「…………」
レイジは尋ねるのをやめた。
──レイジは本気で戦った。
新しいスキルとかも色々使ったし、とにかく全力を出していた。
にもかかわず、目の前の少女にはまるで手も足も出なかった。
丸太に水押し、エマコに水押し。
何をやってもダメだった。
スキルも、術も、全て通用しなかった。
結果、このような失態を晒している。
「…………」
そもそも、エマコはこんな武闘派ではなく、スキル【回復士】で皆をサポートしたり、たまに後ろから援護するような、典型的なヒーラーであった。
それがなぜ、あのような、過激な戦闘スタイルに変わっているのか。
今まであんなエマコは見たことがない。
性格もそうだが、まさしく別キャラ、裏エマコだ。
「なんで、だよ……」
それと、もう一つ不可解なことがある。
あれだけの攻撃を受けたというのに、エマコの手は綺麗でスベスベで、傷一つ付いていない。
「なんだよ、そのスキル……」
EXスキル:【奇死怪生】
レイジの目にはその四文字が、エマコの頭上に禍々しく浮かびあがっていた。
先述言った通り、エマコのスキルは【回復士】だったはず。
それが自分と同じく覚醒して、EXへと進化を遂げていた。
まさか彼女も同様に、何か神的な存在に選ばれたのか。
「んー? スキル? なんのこと?」
一方、エマコはまた首をかしげる。
コレは可愛い子ぶってるのではなくて、本当に分かってない顔である。
自分が上位の存在だということに気づいてない。
「ひ、ひぃっ……」
どうやら覚醒者の中では弱い方らしい。
外れスキルのレイジは怯えた声を漏らす。
さっきは大事なハーレム要員が殺されてしまい、ついカッとなってしまった。
だが、今ではすっかり冷えあがり、もはや恐怖しかない。
やはり勝負を挑むべきはなかった。
一目散にケツを振って、誰よりも早く逃げるべきだった。
レイジは激しく後悔した。
ピタ、自分の背後は壁、逃げられない。
「た、助けてくれ……」
勝手に出た言葉がそれだった。
「んー?」
「お、俺が悪かった……だから……」
見逃してほしい、首だけは跳ねないで欲しい。
レイジは必死に命乞いを始めた。
と、思ったが、
「──今だ! 食らえ! 【天性解除】!」
なんちゃって☆
手のひらをエマコの前に広げ、ダークな光を放つ。
ならばこちらも新スキルをお披露目するまで。
思い出したように相手のスキルをパクろうとした。
良く分からないがEXさえ封じ手しまえばこっちのモノ。
「はっ! 俺の勝ちだ!」
そうしたら、またバーネットの時みたく脅して、好き放題やってやる。
ロリ趣味は特にないので、奴隷商に高値で売るのが良いかもしれない。
女の尊厳とやらをこれでもかとぶっ壊してやる。
「ざまあみろエマコ! せいぜい汚いおじさんに可愛がってもらえよ! ハハハッ! ハーッハッハッハッ!」
この男、下衆すぎる。
とにかく勝負はもらった! 悪人は高笑いするが、
ガキンッ!
「っ⁉」
ロック音と共に弾かれた。
【奇死怪生】に×マークが浮かび、侵入をあっさりと拒絶された。
「なっ……」
”同レベル帯のスキル、EXスキルはパクれない”
それが、レイジのEXスキル【天性解除】の隠された能力。
「があ……ああ……うそ……だろ……」
衝撃の事実。
レイジの表情はコンマ0.1秒で絶望に変わった。
奈落の果てに突き落とされた気分になる。
そう言うのはもっと早く言って欲しいとしみじみ思う。
「レイジ君、さっきから何してるの?」
バカなの? というエマコの声が全く耳に入らない。
ただ真後ろは壁だというのに、なぜか必死に下がろうとしている。
万策尽きた。
ちなみに、仮にパクれたとしても、エマコには勝てないのだが、コレが。
「うわあああ! く、来るなああああ!!!」
レイジは絶叫しながらすぐに立ち上がった。
「ウガッ⁉」
しかし、落ちていた生首に躓いてすっ転んでしまう
「うわああああ! 誰かあああああ!!!」
大声をあげて誰かに助けを求める。
先ほどと違って演技などではない、マジなヤツだ。
レイジのガチ声が路地裏に響き渡る。
「ちょっと、物を投げないでよ」
エマコは困ってしまう。
これでは彼の方が異常者に見えてくる。
「そもそも、私がレイジ君を殺すわけないじゃん」
殺してしまったら、一緒にラブラブ──いや、冒険が出来なくなるではないか。
エマコがゆっくりと近づいてくる。
「また一緒にパーティ組も? もちろん2人だけでね」
「うわああああ!!!」
「私がいれば安心だよ。さっきので良く分かったでしょ? 私はレイジ君と、ず~っと一緒だよ! ウフフッ!」
「うわああああ!!!」
レイジは号泣しながら、鼻水を垂らしながら、死に物狂いで逃げようとする。
腰が引けて立てないので、ケツで地面を這って進んでいる。
「えぇ……そんなに怖がらなくてもいいのに……」
終いには、あのエマコが引いてしまっている。
それほどまでに見っともない姿を晒していた。
なんでこの男に執着していたのか、一瞬疑ってしまうレベルである。
やがて、そんな彼を流石に哀れに思ったのか、エマコが、
「はあ、わかったよ。今日はここまでにするから」
と、ため息交じりに言った。
「……へっ?」
レイジのクシャクシャになった顔が止まる。
「そんな酷い顔されたら、組めるパーティも組めないよ」
この様子だと一度落ち着いて貰ってから、またお話した方が良さそう。
「それに今日は結構働いたし、一日の成果としては十分かな!」
エマコ今日頑張ったし、もう疲れたし、今回だけ見逃してあげるそうだ。
「…………」
レイジは色々な水分を流しつつ呆気を食らっている
「う~ん、明日はショッピングに行く予定だから、ちょっと会うのは難しいな~」
クソ女たちのビチ臭い血で服が汚れたので、新しいお洋服が新調しなくては。
エマコは頬に指を当てて、今後のスケジュールを振り返る。
「そうだね。じゃあ、続きはまた明後日しよっか? それでいい?」
レイジは高速でうなづいた。
逃がしてくれるなら何でも良い。
とにかくここから離れたい思いで、何度もウンウンした。
「デートの約束だね! あはっ!……で、逃げたらどうなるか、わかるよね?」
エマコ、ギュリンッ!
「ひぃっ……」
レイジ、ゾゾゾッ!
「楽しみにしてる! じゃあね、レイジ君!」
シュンッ
そう言い残し、エマコは闇に消えた。
「…………」
静寂の中、レイジはスッと立ち上がり、
「うわああああああ!!!」
逃亡した。




