11.○○ガキと化す
背後に現れたのは、ケモ耳と奴隷っ子だった。
「こんなところで何をなさっているのですか?」
「そうだニャ~、レイジがあまりにも遅いから呼びに来たニャ~」
2人は何事もなく近づいてくる。
「もう、ご主人様ったら。いけませんよ、私たちのことを忘れては」
「奴隷っ子の言う通りニャ。ミャーたちをほったらかしにするなんて酷いニャ~」
「お、お前ら……」
よりにもよって今とは。
タイミングがあまりにも悪すぎる。
「ねえ、レイジ君。この人たちは? レイジ君の知り合い?」
レイジは質問に答えることができない。
「ん?……ニャニャッ⁉ レイジの隣に誰かいるニャ!」
「あら? ホントですね」
2人はようやくエマコの存在に気がついた。
「そこのお前! どうしてレイジの隣にいるのニャ!」
ケモ耳は相手を見た途端、挨拶もなしに、そこは自分の特等席だと指をさして言い放つ。
「そうですよ、レイジ様に気安く近づかないでください!」
今すぐ離れろ、奴隷っ子もそれに同調した。
女だと分かった瞬間すぐにこれだ。
まだ初対面だというのに、2人は早くも敵意丸出しである。
「だいたいお前は何者ニャ! 答えるニャ!」
「何って……レイジ君の未来のお嫁さんだけど?」
一方、キョトンとした感じで答えるエマコ。
発言と血だらけの身なりを除けば、この中で一番まともに見える。
「ニャニャッ⁉ レイジは今フリーだって言ってたニャ! そんなの絶対あり得ないニャー!」
「そうですよ! 嘘はいけません!」
「いや、あり得ないって……ホントのことだし」
そのまま口論になる女性陣たち。
モテる男はつらいつらいの構図だ。
「そもそもこんな芋臭い女が、レイジのフィアンセなわけないニャ」
「……っ」
エマコはピクッ
「おそらく相手にされずに、ストーカーになってしまわれたパターンですね、お可哀そうに……」
ピクピクッ、ピクッ、
「お、おい、お前ら、よせ……」
「きっとレイジに貢いでるニャー。レイジもお金を貰って仕方なくって感じ、つまりミャーたちの格下ニャ」
「ウフフッ、そうですね。養って貰える私たちとは違って、なんて哀れなのでしょう」
「そう、無様だニャ」
レイジの忠告が聞こえないのか、2人は言いたい放題である。
加えて女性特有のマウントを取ってくる始末。
「…………」
一方、エマコは下を向いたまま無言。
顔には影ができており、表情が確認できない。
「ケモ耳さん、もしかしてあの方……」
何かに気づいた奴隷っ子が、相棒の肩をポンポン叩く。
「ん? どうしたニャ?」
「もしかしてあの方、レイジさんの、私たちのパーティに加入したいのではないでしょうか?」
そして周りに聞こえる声で耳打ちする。
「ニャッハハハ! 冗談きっついニャ! こんなブッサイクな女、ミャーたちのパーティには相応しくにゃいニャ!」
「ウフフフッ、その通りですね。私たちとは不釣り合いですよ!」
全く、勘弁して欲しい。と、ケモ耳も笑顔で賛同する。
「ですが、まあ、そうですね。私たちの”奴隷”になるというのでしたら、特別に入れて差しあげてもいいですよ?」
奴隷っ子はニヤァ。
確かに我がままに生きろとは言ったが、これは行き過ぎだ。
10分前とは想像もつかないほどの変貌っぷりである
「そいつは名案だニャ! お前にはミャーたちのお世話をさせてやるニャ。ミャーたちに感謝するのニャ!」
部屋のお掃除、ご飯の用意、お洗濯、トイレのケツ拭き、とにかく全部やらせてあげるそうだ。
「ウフフフッ。あなたにお似合いですね」
「そうだニャ! 身の程をわきまえるニャ!」
女の子と思えないほど下品な顔で笑みを浮かべる2人。
お口に手を当ててニヤニヤしながら、エマコに軽蔑の目を送っている。
やはりクズ男と一緒にいると、こうなってしまうのだろうか。
ものの見事にメスガキと化していた。
『キャハッ! キャハハハハハッ!!!』
「お、おい、そろそろ……」
ヤバい、そう思いレイジが止めようとしたが、
「──あー、そういうこと」
次の瞬間、エマコの瞳に一閃の光が。
そして、手を鋭くさせ、目にも止まらぬ速さで、
真空波
──ゴリュッ
背景が血に染まる。
鈍い音ともに、ケモ耳の首が宙を舞う。
「なっ⁉」
胴体とのつなぎ目からおびただしい量の血が噴き出る。
ドサッ
それが地面に落ちるのと同時に身体も倒れ込んだ。
「えっ……?」
ピチャッ
真っ赤な液体が、近くにいた奴隷っ子の顔に。
「は……は……は……」
まだ動いている。
落ちた首が、目をズンムリと開いて、彼女を、
「い、いやああああああ!!!!」
奴隷っ子の叫び声が路地に響く。
「ウソ……だろ……」
目の前に広がる光景に、レイジは言葉を失った。
あっさりと命が奪われた。
簡単にやってのけた。
「──刃波」
エマコが遅れて術の名を呟き、そのまま光の振動を抑えた。
……まずはうるさい方から、
「次は、あなた」
「ひぃっ……⁉」
「っ! やめろエマコ!」
レイジはようやく我に返る。
身を挺してでも奴隷っ子を守らなくては。
動揺する心を振り払い、すぐに立ち上がるも、
「──衝撃」
「ッ⁉ うぐっ⁉」
突然、背中から激痛が走る。
一瞬で後ろを取ってきたエマコに、背後から攻撃を受けてしまう。
「ちょっと大人しくしててね、うるさいハエをすぐお掃除するから」
身体の自由が利かなくなり、痺れたように動けなくなる。
「クソッ! ど、奴隷っ子! 逃げろおおお!」
叫ぶことしかできない。
「っ⁉ ひいいいいいい!!!」
言うまでもなく、奴隷っ子はご主人様を置いて、必死な形相で逃げ出した。
「──刃波」
エマコは袖からシュッと木製のペンを取り出し、再び光を纏わせた。
それを逃亡する標的にめがけ、ダーツの要領で、
ブシュッ
「っ! ああああっ⁉」
細いふくらはぎを容赦なくとらえ、光が極小規模な衝撃波となって弾けた。
足を貫通した木の弾丸が、地面深くに突き刺さる。
「ああっ!」
奴隷っ子はたまらずバランスを崩し、その場にすっ転んでしまった。
「っ⁉︎ そ、そんな……私の、あ、足が……」
直撃を受けた右脚を見ると、ふくらはぎのところで無くなっていた。
雑に切断された部位から生暖かいモノが流れてくる。
まだそこにあるような幻肢感。
恐怖のせいか痛みをほとんど感じない。
「はあ……はあ……?」
自分の身体に影ができた。
奴隷っ子は顔を見上げると、
「っ⁉︎」
そこには、エマコが立っていた。
動けなくなった相手を、ただ無表情で見下ろすエマコが立っていた。
「あ……ああ……あ……」
恐怖で身体が動かない。
その凍てつく深紅の瞳に、目が放せない。
「いやあああああ! レイジ様助けてえええ!!!」
悲鳴をあげる奴隷っ子。
「…………」
エマコは腕をスッと縦にあげ、
「──やめろ、エマコ! よせえええ!!!」
ザシュッ
垂直に振り下ろした。
「は……」
悲鳴が断末魔へと変わり、プツリと途切れる。
血しぶきと共に、身体が横に倒れた。
その返り血がエマコの頬に飛び、冷たい瞳が赤く反射する。
手を振り上げ、さらに、
「フンッ!」
ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ
血に感化されたのか、鬼の形相で刻み始める。
エマコの身体がどんどん真っ赤に染まっていく。
「私のレイジ君に! 手を出さそうとするから! こうなるのッ!」
酷くゆがんだ少女の顔。
周囲に肉の弾ける音が響き渡る。
「くたばれッ! このッ! このッ! このッ! くたばれええええッ!!!」
怒りに限り、その手刀を振り下ろす。
対象の色々な部位が分断され、原型が分からなくなる。
「…………」
やがて、終わったのだろうか。
ジッと立つエマコの手には、真っ赤なモノがポタポタと滴っている。
「ふぅー、ちょっと熱くなり過ぎちゃった……さあ、レイジ君! これで2人っきりだよ!」
血に染まった顔で全力スマイル!
……しかし、
「──エマコおおおお!!!」
背後から怒りを露わにしたレイジが、
「っ! あはっ!」
襲い掛かる。




