10.わ・た・し♡
「お、お前は……」
レイジは目を大きく見開いた。
「エマ……コ……?」
それは、エマコだ。
元パーティメンバーの、エマコ=エマージェンスだった。
ショックで塞ぎ込んでいたはずの少女であった。
「やっと会えたね! レイジ君!」
しかし、今はその面影はどこにもない。
かつてないほど調子が良さそうだ。
バーネットが言っていたこととまるで違う。
「もう~、レイジ君ったらこんな所で油を売って。ずっと探してたんだよ~」
嬉しそうにするエマコとは裏腹に、レイジは面食らったまま動かない。
辛うじて眉がピクピクなっているくらいだ。
「一応、サプライズのつもりだったんだけど……どう? 喜んでくれた?」
と言って、エマコは真下にある異物に目を向ける。
そこには、かつて人だった何か。
真っ赤に染まる肉塊が地面に転がっていた。
まだ新鮮な血の匂い、所々に確認できる体の部位、作り物とは到底思えない。
それは出来あがったばかりの、残酷な人間の亡骸であった。
「っ⁉ うぅ……ウオエエエエ!!!」
口を塞ぎたくなるような光景。
レイジはたまらず口を押させるも、指の隙間から吐物が溢れ出てしまう。
まさか本当に胃の中のモノを、全部ぶちまけてしまうとは思いもしなかった。
「あらら、吐いちゃった。可哀そうに、レイジ君にはちょっと刺激が強かったかな?」
強過ぎである。レイジは嘔吐が止まらない。
「うん、やっぱり汚いよね。ごめんねレイジ君、すぐにお掃除するから待っててね」
エマコはそう言うと、落ちてる死体に手を伸ばす。
「えいっ!」
グチョッ そのまま中に突っ込み、何やか妖艶な光を集中させる。
グチュグチュ、グチュグチュグチュグチュ、グチュグチュ。(自主規制の音)
グチュグチュ、グチュグチュグチュグチュ。
そして、
「はい! 完成! キレイさっぱり元通り〜!」
エマコは満面の笑みでそう言った。
「ッ⁉︎」
それを見たレイジはまたも驚愕する。
あの2つに分かれたバーネットが綺麗にくっついている。
エマコが自分より一回り大きい彼女を、片手で楽々と持ち上げていた。
あんなに酷かった怪我や出血も見られない。
身体が完全に再生していた。
「これはもう邪魔だから、ポイッと!」
エマコは手に掴んでいたバーネットを、壁に向かって放り投げた。
「…………」
背中から叩きつけられた彼女に反応はない。
あの虚な目をしたまま、お人形さんのように時間が止まっている。
「なん、だよ……どういうことだよ……」
以前までのエマコとは様子がまるで違う。
前はもっとお淑やかで、何かと遠慮ガチな性格だったはず。
それが今でどうだ、ほとんど別キャラではないか。
「フフフッ。そんなの決まってるよ。全部レイジ君、あなたのタ・メ♡ キャッ!」
エマコが人差し指を立てて、コツンッと相手の鼻先に当ててきた。
と思ったら一瞬で恥ずかしがる。
「だって〜、私の王子様はすーぐ悪い魔女に引っ掛かっちゃうんだも〜ん」
今度は腕を後ろに組み、たいくつ〜、みたいな感じでレイジの周りをゆっくりと歩き始めた。
「そういうのって良くないと思うな〜、だから私が守ってあげることにしたの。じゃないとすぐダメ人間になっちゃうから。ねっ、そうでしょ? レイジ君」
やがて3周ほどすると、身体の角度を斜めにして、チラッ、横から相手を見た。
「……あっ! でも別にご褒美とかはいらないよ。だって私はレイジ君のそばにいられるだけでと〜っても幸せだから……あっ♡」
と言って、赤くなった頬を両手で押さえてテレテレする。
自分はなんて良い女なんだと勝手に酔いしれている
「…………」
”意味が全く分からない”
その言葉に全てが集約されていた。
この少女の言ってることが何一つ理解できない。
レイジは目の前で起こっている事について行けず、思考が固まってしまう。
でもこれだけは嫌でも分かる。
この女は異常すぎる。もうエマコではない。
逃げなくては、一刻も早く、ここから。
さもないと、アレみたいに……
「ひぇっ……く、来るな!」
そうと決まれば話は早い。
レイジはさっそく逃げ出そうとした。
だが、その思いとは裏腹に、腰が引けてしまい立つことができない。
「うわああ! やめろ! だ、誰か! 誰か助けてくれえええ!!!」
情けない声をあげながら、同じくそれに相応しい表情で助けを求め始めた。
地面にケツを張り付けたまま哀れに逃げようとする
「そんなに怖がらなくたっていいのに。別に食べちゃったりしないし」
ちょっと傷ついちゃう。
エマコがゆっくり近づいてくる。
「むしろ私を食べて欲しい…… なんて、キャッ! 言っちゃった! 恥ずかしい〜」
「うわああああ! 来るなあああ!!!」
レイジは恐怖のあまり絶叫する。
そして、
「──ニャ〜! レイジがいたのニャー!」
背後から声が。
「──ご主人様〜、こんなとこで何をなさってるんですか〜! 早くベッドを決めて帰りましょうよ〜」
それは2人の少女、陽気な感じの、
「んー? だーれ?」
ケモ耳たちだった。




