1.追放されて早5日
「さーて、どうしたものか」
街をブラブラと出歩く一人の男がいた。
茶色がかった黒っぽい髪の毛、輝きを失ったエメラルドのような瞳。
少し目つきが悪い、不良だろうか。
その割にまあまあ整った顔立ちをした、どこにでもいそうな普通の青年だ。
彼の名前は、レイジ=アルバード。18歳。
一応冒険者をやっている。
ただいまの時刻はお昼過ぎで、彼のような冒険者を含め、みんなせっせと働いてる時間帯である。
にもかかわらず、この男はギルドで依頼も受けずに、ただ暇そうに町中をブラついていた。
一体どういうつもりなのか。
まさかサボっているのか。
いや、違う。これには深いわけがある。
というのがこの男、レイジはパーティから追放されたのだ。
理由はモロモロあるのだが、5日前、突然リーダーからパーティを抜けるように宣告された。
なので、今は特にやることがないため、こうやって道の真ん中を歩いている。
冒険者というのは大体、4~5人でパーティを組むのが一般的。
一人でもギルドの依頼を受けることは可能だ。
しかし、それでは報酬の高い依頼を達成するのは極めて困難である。
冒険者というのは、一人でやっていけるほど甘い世界ではない。
中には、単独でも問題ないという猛者もいるにはいるのだが、残念ながらこの男にそれほどの力量は期待できない。
つまりレイジは路頭に迷っている。
一応まだ冒険者という肩書はあるものの、実情はただの無職に等しい。
そこらの路地裏によくいるお先真っ暗の若者だ。
普通なら新しいパーティに入れてもらうとか、一人でしょぼい依頼を受けるとか、別の仕事を探すとか色々あるだろう。
食っていく手段を失ったのだから、それこそ必死になるべき。
先の見えない残酷な世界に絶望するべきだ。
しかし、当のレイジに焦りは見えず、足取りもどこか軽快であった。
「……なーにがギルドだよ、名前だけは大層立派だな。けっ」
ちょうど右手にある冒険者ギルドを、あっさりと通り過ぎていく。
今までお世話になったはずなのに、まるでもう用済みかの如く唾を吐き捨てる。
「今日からは俺は自由。ハッ、考えると悪くねえな」
これからは誰の指図も受けず、一人で気の向くままに生きていく。
スローライフを送るそうだ。
なんて無謀な、それに働き盛りにあるまじきセリフ。
調子に乗っているのは誰の目からも明らかだ。
「ヒヒヒッ……ヤバい、額を思い出すとまた笑いが……」
道のど真ん中で一人で笑いを堪えるおかしな青年。
彼がこうなってしまうのも仕方ない。
なぜなら、彼は現在、莫大の財産を持っている。
懐には到底しまいきれない、そのほとんどをギルドのバンクに貯金した、巨万の富を有しているからであった。
どうして彼が突然、身の丈に合わない成金へと化してしまったのか。
それは昨日、元パーティメンバーの装備品を含めた、全てのアイテムを売り払ったからだ。
レイジがいた元パーティは、Bランクの中でもやや上の方に位置する、ちまたでもそこそこ有名なパーティであった。
結成してから年月もそれなりに経っており、総資産も莫大なモノになっていた。
世界にたった50個ほどしかないと言われる希少な魔石。
一流冒険者たちの磨きに磨きをかけた装備品。
入手するのに滅茶苦茶苦労した割に、結局使わないまま倉庫の住人となっていた代物まで。
その他高級アイテムの色々たち。
それら全てを一度に売却したのだ。
多少散財したとしても簡単には無くならない。
それこそこの青年が一生遊んでも、まだ少し余るくらいの金額であった。
「まさかあんなので上手いくとはな……馬鹿だろアイツら」
方法は至って簡単。
レイジは5日前、めでたくパーティから追放された。
次の日、元パーティメンバーの泊まる宿に先回りし、そこの店主を金で買った。
そして、彼らの食事に超強力な睡眠薬を混ぜてもらう。
目が覚めるのに、丸一日はかかると言われる激ヤバな奴だ。
彼らが全員寝静まったのを確認したレイジは、そのスキに一日かけて、倉庫の物品を全てお金に還元してもらった。
彼らが起きた時には、何もかもがすっからかん。
あるのはBランクという邪魔な肩書だけ、あと着ていた寝間着のみ。
成り立てホヤホヤの冒険者より質が悪い。
ほぼまっさらな初期状態というわけだ。
ちなみ、協力してくれた店主には0.1割くらいを報酬として与えておいた。
もちろんギルドのお偉いさん方にもいくらか渡してある。
これで証拠はバッチリ隠滅、実に計画的な犯行だった。
つまるところ、普通に犯罪である。
しかも、ギルドの上層部まで絡むという非常に闇深な案件だ。
でもバレなければ罪に問われない。
足さえつかなければ問題はない。
ここはそういう街、そういった組織だった。
「半ばやけくそだったが、意外と何とかなるもんだな」
上手く行き過ぎて怖いまである。
案外、人生とはこんなモノなのかもしれない。
この青年はまだ若いというのに、早くも悟りを開こうしていた。主に悪い方向に。
何はともあれ、もうこのお金は全部自分のモノ。
レイジはこれからの優雅であろう未来に、期待に胸を膨らませた。
「さてと。で、どうしたものか」
レイジは考える。
まずはこの大金にモノを言わせ、女を侍らすのもいいかもしれない。
これだけの額があれば、女には一生困らないだろう。
今まではパーティとして多忙だった。
また、ある事情からそういったことが出来なかった。
男なら一度はハーレムとやらを経験しておきたいところ。
「……待てよ。奴隷枠、とかも外せないな」
この街では奴隷商とやらが盛んだと噂に聞く。
少し表道から逸れると、そういう店がチラホラ目に映る。
彼自身別に、経験がないとか、童〇とかではない。
元パーティメンバーの一人と、性処理を名目に結構ヤリまくっていた。
ただ単純に、そういったモノに少し興味を持ってしまうお年頃なだけ。
ご主人様プレイとかにちょっと憧れが……。
ただそれだけ、それだけだ。
「よし、そうと決まればさっそく──」
レイジは意気揚々と狭い道へ入ろうとしたが、
「──見つけたぞクソアマ! よくもやってくれやがったな!」
背後から声をかけられた。
「あー、遅かったな。元リーダーさんよ」
レイジは少し得意げな顔で振り返る。
「マジざっけんなよてめえ! 覚悟は出来てんだろうな! レイジ!」
それは、息を荒げた様子の、
「…………」
一人の女性だった。
新作です。よろしくお願いします。