表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/54

1.追放されて早5日

「さーて、どうしたものか」


 街をブラブラと出歩く一人の男がいた。

 

 茶色がかった黒っぽい髪の毛、輝きを失ったエメラルドのような瞳。

 少し目つきが悪い、不良だろうか。

 その割にまあまあ整った顔立ちをした、どこにでもいそうな普通の青年だ。


 彼の名前は、レイジ=アルバード。18歳。

 一応冒険者をやっている。

 

 ただいまの時刻はお昼過ぎで、彼のような冒険者を含め、みんなせっせと働いてる時間帯である。

 にもかかわらず、この男はギルドで依頼も受けずに、ただ暇そうに町中をブラついていた。


 一体どういうつもりなのか。

 まさかサボっているのか。

 いや、違う。これには深いわけがある。

 というのがこの男、レイジはパーティから追放されたのだ。


 理由はモロモロあるのだが、5日前、突然リーダーからパーティを抜けるように宣告された。

 なので、今は特にやることがないため、こうやって道の真ん中を歩いている。


 冒険者というのは大体、4~5人でパーティを組むのが一般的。

 一人でもギルドの依頼を受けることは可能だ。

 しかし、それでは報酬の高い依頼を達成するのは極めて困難である。


 冒険者というのは、一人でやっていけるほど甘い世界ではない。

 中には、単独でも問題ないという猛者もいるにはいるのだが、残念ながらこの男にそれほどの力量は期待できない。

 

 つまりレイジは路頭に迷っている。

 一応まだ冒険者という肩書はあるものの、実情はただの無職に等しい。

 そこらの路地裏によくいるお先真っ暗の若者だ。


 普通なら新しいパーティに入れてもらうとか、一人でしょぼい依頼を受けるとか、別の仕事を探すとか色々あるだろう。

 食っていく手段を失ったのだから、それこそ必死になるべき。

 先の見えない残酷な世界に絶望するべきだ。


 しかし、当のレイジに焦りは見えず、足取りもどこか軽快であった。


「……なーにがギルドだよ、名前だけは大層立派だな。けっ」

 

 ちょうど右手にある冒険者ギルドを、あっさりと通り過ぎていく。

 今までお世話になったはずなのに、まるでもう用済みかの如く唾を吐き捨てる。


「今日からは俺は自由。ハッ、考えると悪くねえな」


 これからは誰の指図も受けず、一人で気の向くままに生きていく。

 スローライフを送るそうだ。

 なんて無謀な、それに働き盛りにあるまじきセリフ。

 調子に乗っているのは誰の目からも明らかだ。


「ヒヒヒッ……ヤバい、額を思い出すとまた笑いが……」


 道のど真ん中で一人で笑いを堪えるおかしな青年。


 彼がこうなってしまうのも仕方ない。

 なぜなら、彼は現在、莫大の財産を持っている。

 懐には到底しまいきれない、そのほとんどをギルドのバンクに貯金した、巨万の富を有しているからであった。


 どうして彼が突然、身の丈に合わない成金へと化してしまったのか。

 それは昨日、元パーティメンバーの装備品を含めた、全てのアイテムを売り払ったからだ。

 

 レイジがいた元パーティは、Bランクの中でもやや上の方に位置する、ちまたでもそこそこ有名なパーティであった。

 結成してから年月もそれなりに経っており、総資産も莫大なモノになっていた。


 世界にたった50個ほどしかないと言われる希少な魔石。

 一流冒険者たちの磨きに磨きをかけた装備品。

 入手するのに滅茶苦茶苦労した割に、結局使わないまま倉庫の住人となっていた代物まで。

 その他高級アイテムの色々たち。

 

 それら全てを一度に売却したのだ。

 多少散財したとしても簡単には無くならない。

 それこそこの青年が一生遊んでも、まだ少し余るくらいの金額であった。


「まさかあんなので上手いくとはな……馬鹿だろアイツら」


 方法は至って簡単。

 レイジは5日前、めでたくパーティから追放された。

 次の日、元パーティメンバーの泊まる宿に先回りし、そこの店主を金で買った。


 そして、彼らの食事に超強力な睡眠薬を混ぜてもらう。

 目が覚めるのに、丸一日はかかると言われる激ヤバな奴だ。 

 彼らが全員寝静まったのを確認したレイジは、そのスキに一日かけて、倉庫の物品を全てお金に還元してもらった。


 彼らが起きた時には、何もかもがすっからかん。

 あるのはBランクという邪魔な肩書だけ、あと着ていた寝間着のみ。

 成り立てホヤホヤの冒険者より質が悪い。

 ほぼまっさらな初期状態というわけだ。

 

 ちなみ、協力してくれた店主には0.1割くらいを報酬として与えておいた。

 もちろんギルドのお偉いさん方にもいくらか渡してある。

 これで証拠はバッチリ隠滅、実に計画的な犯行だった。


 つまるところ、普通に犯罪である。

 しかも、ギルドの上層部まで絡むという非常に闇深な案件だ。

 でもバレなければ罪に問われない。

 足さえつかなければ問題はない。

 ここはそういう街、そういった組織だった。


「半ばやけくそだったが、意外と何とかなるもんだな」


 上手く行き過ぎて怖いまである。

 案外、人生とはこんなモノなのかもしれない。

 この青年はまだ若いというのに、早くも悟りを開こうしていた。主に悪い方向に。

 何はともあれ、もうこのお金は全部自分のモノ。

 レイジはこれからの優雅であろう未来に、期待に胸を膨らませた。


「さてと。で、どうしたものか」


 レイジは考える。

 まずはこの大金にモノを言わせ、女を侍らすのもいいかもしれない。

 これだけの額があれば、女には一生困らないだろう。

 今まではパーティとして多忙だった。

 また、ある事情からそういったことが出来なかった。

 男なら一度はハーレムとやらを経験しておきたいところ。


「……待てよ。奴隷枠、とかも外せないな」


 この街では奴隷商とやらが盛んだと噂に聞く。

 少し表道から逸れると、そういう店がチラホラ目に映る。


 彼自身別に、経験がないとか、童〇とかではない。

 元パーティメンバーの一人と、性処理を名目に結構ヤリまくっていた。

 ただ単純に、そういったモノに少し興味を持ってしまうお年頃なだけ。

 ご主人様プレイとかにちょっと憧れが……。

 ただそれだけ、それだけだ。


「よし、そうと決まればさっそく──」

 

 レイジは意気揚々と狭い道へ入ろうとしたが、


「──見つけたぞクソアマ! よくもやってくれやがったな!」


 背後から声をかけられた。

 

「あー、遅かったな。リーダーさんよ」


 レイジは少し得意げな顔で振り返る。


「マジざっけんなよてめえ! 覚悟は出来てんだろうな! レイジ!」


 それは、息を荒げた様子の、


「…………」



 一人の女性だった。

新作です。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ