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友情は繋がり


 入学式のマナ=グレイスの暴露は、私を学園内で完全に孤立させる作戦なのだろう。結果として、それは大成功に終わった。

 あの事件で、私のことを知らなかった人達にも、私が無能力者であることがバレたのだ。


 私を除く魔術部門入学者は無能力者と比べて、魔力を持った特別な存在であり、それを誇りに思っている人が多い。つまり、魔力を持つことが彼らにとってのアドバンテージであり、彼ら同士を認め合うために必要なキーパーツであるわけだ。

 それを持たないと知らされた私がどうなるかは火を見るよりも明らかなわけだ。


 クラス分けで振り分けられたBクラスに入った私は四方八方から敵意の視線を向けられていた。


 うぅ、さすがにこの突き刺すような視線の数々には堪えるものがある。視線に殺傷能力があったとしたら、今頃私の全身は血だるまだ。


 隣に座るルシアは心配そうに見つめてくる。そんな顔しないでも、ある程度覚悟していたことだから大丈夫、、とは言えないかもしれない。あくまでも覚悟はある程度で、ここまでのものはカバーしきれない。


 まもなくして、クラスに教師が入ってきたため、私はようやく敵視の雨から解放された。


 入学式の後は各クラスでオリエンテーションがあるのみである。その内容は特別大したものでもなかったので、私はこの先のことを思案していた。

 私の目標である、“主席になる”こと。この為に必要なことは平時の授業を好成績で修めることに加えて、この先行われる学園行事で上位入賞することが必要である。

 私が今問題視しているのは、学園行事のことよりも平時の授業の方だ。授業にはグループワークというものがある。グループワークには最低限3〜4人必要で、その人数で課題に取り組まなければならない。今回の一件で、私を同じグループの仲間に入れようと思う人はいないだろう。無能と一緒のグループだと揶揄されることになるし、何の得もない。逆に、私がグループを作って勧誘したとしても、応じてくれないのは当たり前だ。

 ただでさえ、人間不信の過去がある私を的確(クリティカル)な攻撃で追い詰めてくる。私の弱点を知り過ぎているがゆえに、今回の件はカタストリック家の姉達の差金である可能性が高いと思えた。

 そんなにカタストリック家に泥を塗った私が憎いのかと、私は頭をもたげた。


 そんな悩み事をしていたら、いつの間にかオリエンテーションは終わっており、放課後になっていた。


「エリアちゃん、早く帰ろ?」


 ルシアは考え事をしている私をずっと待っていてくれたようだ。別にもっと早く声をかけてくれても良かったのに。


 そう思いながら私が席を立とうとした所で、突如現れたクラスの女子生徒3人がルシアとの間を、私に背を向けて遮った。


「ご機嫌よう、ルシアさん」


 リーダー格っぽい真ん中の女子がルシアに声をかける。あからさまに私に背後を向けるあたり、私を関与させたくない意図が明白だ。


「何の用?」


 ルシアは怯えたように尋ねる。ルシアは過去にその容姿からイジメられていたことがある。もしこの女子達の目的がそうなのだとしたら、私の眼前でそのようなことを許すつもりはない。


「そう畏まらないで。ルシアさんは平民上がりですのよね? 特別生クラスはルシアさん以外に平民出身の方はいらっしゃらないので、お友達作りに困っているのではないかと思いましたの。授業にはグループワークもありますわ。ですので、私たちのグループに入って頂けないかと勧誘しにきたのですわ」


 ひどいことを言われないかと身構えていた私だったが、リーダー格の女子からでた言葉は意外なものだった。こちらからは顔は見えないが、少なくともルシアに対する悪意は感じられなかった。


「ルシアさんが連んでいるのは無能力者なのでしょう? そんな方と一緒にいたら、あらぬ噂を立てられたり、仲間外れにされたりなど、きっと嫌な目に遭ってしまいますわ。私たちと一緒にいた方が安全ですから、ね?」


 最初は嫌なやつかと思っていたが、この子の言い分は全て正しかった。

 私は主席になる為なら、少し悪目立ちしようが不快な思いをしようが構わないと思ってここにいる。

 しかし、ルシアは違う。ルシアは純粋に魔法を学びに、この学園に来ているだけだ。私と連んでいることで嫌がらせを受けるのも、仲間外れにされるのもダメなことだ。それは私の業であって、ルシアのものではない。今日は友達がいなかったから私と一緒にいるしかなかったが、この子達が今後ルシアの友達になってくれるのなら、彼女たちと連んだ方がルシアの今後のためになるだろう。


 ルシアは子犬のように困った顔で私の方を見てくる。私はため息を吐いて、言った。


「ルシアの好きな方を選べばいいよ。どんな選択をしても私は怒らないし、認めるから」


 ルシアはずっと孤立して苦しんでいた。それを見てきた私だからこそ、ルシアに少しでも報われてほしいという思いがあった。


「エリアちゃん、ありがとう」


 そう言ったルシアの顔にはもう迷いはなかった。ルシアは元々明るい性格だし、相手が受け入れてくれるのなら、すぐに馴染めると思う。私は頑張れと密かにエールを送ることにしよう。

 ルシアは立ち上がって、リーダーの女子に向かい合って言った。


「勧誘はありがたいけど、エリアちゃんを1人には出来ないからお断りするね」



「「え?」」


 思わず、私を含めここにいる全員が声を漏らしていた。状況を理解できていない一向は相変わらず、口をぽかんと開けたままだった。


「ちょっと、なんでエリアちゃんまで驚いてるの? 重要なのは、受け入れてくれる人数じゃないって言ったのはエリアちゃんなんだよ?」


 いや確かにそう言ったけれど、それは最悪の状況を考えた場合の詭弁であって、今みたいに受け入れてくれる人がいる前で言うことではない。


「もぅ。本当に孤立してから泣いても知らないわよ?」

「エリアちゃんが居れば大丈夫だよ。僕の目指す“本の魔女”が居てくれればね」


 さ、帰ろっ、とルシアが女子をかき分けて私のことを誘う。

 正直私はこの展開にホッとしたところがあった。もしルシアが彼女たちの元へ行ってしまったら、どこか心の柱を一本抜かれた喪失感を抱えていたかもしれない。ルシアの存在はもう私を構成する一つの要素になってしまっていたようだ。

 私は何にかはわからないが、勝ったような余韻に浸りながら、席を立ちルシアと共に教室を後にする。去り際、私は少々調子に乗って、女子三人衆が気づいていないことを教えてあげた。


「“男”のルシアに自ら声をおかけするなんて。ご貴族様が逆ナンなんて節操がないですわね」


 私の言葉を聞いて、女子たちは顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。ちょうど今日は鬱憤が溜まっていたから、これでスッキリ爽快だ。


「エリアちゃん、なんか良いことでもあった?」

「ううん。別になんでもないよ」


 家までの帰路は何一つ変わらない、いつも通りの帰り道だった。





 だが、この時は私たちが一週間経ってもグループが見つからず、学園から警告通知を受け取ることになるとは想像すら出来ていなかった。


ようやく次回から話が動き出すところまできました…。続きが気になると思っていただけましたらブックマーク頂けると作者に励みが出ます。

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