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入学式


 新入生はクラス発表の後、すぐに入学式が執り行われる学園内の大きな講堂に集められた。総合高等学校とあって、魔術部門、戦闘部門、総合教育部門の3つの部門の生徒たちが集まると、その数は圧巻の一言だった。


「エリアちゃん、座る席は自由みたいだし、ここに座ろ?」


 ルシアが我先にと座った隣の席に私も腰掛けた。ふんふ〜んと鼻歌を歌っている今日のルシアはいつも以上にニコニコふわふわしているように感じる。


「もしかして緊張してるの?」


 私がそう尋ねたら、ルシアは肩をぶるっと振るわせて視線を彷徨わせた。


「えへへ、だって僕は“変”だからさ? 男が女の子の格好をして平然と人前を歩いてるなんて、普通じゃないって思われるでしょ。だから、拒絶されたらどうしようとか、否定されたらどうしようとか、実はすっごい不安なんだよね……」


 やっぱりいつも以上に気丈に振る舞ってたのは、感情が不安定だったからか。ルシアの心配性な面は出会った時から全く治らない。


「全く。他人を気にし過ぎなのよ、ルシアは。どんな人間も、全ての人に受け入れられるわけじゃない。嫌われたり、拒絶されたりするのよ。結局は、その受け入れてくれる人の人数が多いか少ないかの違いしかないのよ。ルシアはそんなに沢山の人に受け入れられるのが重要?」


 私だって、魔力がないと知られた時は受け入れてくれる人の多くを失った。それでも、数少ない私を受け入れてくれる人がいたから、希望を捨てずにいられたのだ。


「アナタを受け入れている人は少なくともここに一人いる。だから、アナタは胸を張っていればいいのよ」


 私が胸をコンコンと叩くと、影を落としていたルシアの顔にようやくまた光が戻った。


「そうだよね。ありがと、エリア」


 そう言って満面の笑みを向けてくるので、私は眩し過ぎて目を逸らした。やっぱりルシアとまともにやり取りすると、小っ恥ずかしくて心が痒くなる。



 その後軽くルシアと談笑していると、入学式の式典の始まる時刻になった。


 式典と言っても、題目は学園長の祝辞と新入生代表の挨拶くらいだ。学園長の長くて有難い言葉を聞いた後、まずは総合教育部門の代表が壇上へ上がる。

 金色の髪を靡かせ、凛々しく佇む長身の美丈夫、碧い瞳は王家の者である証拠であった。私たちの同学年に第3王子のルギニス=ブランド様がいるという話は聞いていたが、まさかこの学園に入学し、さらには代表を任されるくらい成績が優秀だとは思わなかった。

 前に立つルギニス様は全く臆することなく、堂々とした演説で会場を虜にしていた。


 ルシアがひっそりと私に耳打ちをしてきた。


「ルギニス様、カッコいいね」


 え? ルシアってもしかしてソッチ系なの? BLは私の守備範囲外だから勘弁して欲しいかな……。


 次に壇上に上がったのは、戦闘部門の代表だ。名はマルツというらしい。苗字がないということは平民上がりだということだ。新入生代表に平民が選ばれることは稀であるため、会場も驚きか、困惑か、かなりざわついていた。


「みんな、静かに聞こうよ……」


 ほら、ウチのルシアが拗ねちゃったよ。可哀想でしょ、静かにしてあげなさい、なんて私は言わないけれど、ルシアのションボリ顔を見ると心が痛くなってくるから、早く挨拶が終わることを祈った。


 最後に壇上に上がるのは、魔術部門の代表だ。


「皆さま、ご機嫌よう。マナ=グレイスと申します」


 マナと名乗ったその少女は、特徴的な赤髪を靡かせながら優雅に抱負を語る。だが、その内容は聞くに耐えなかった。

 魔術は魔力を練り上げるイメージが大切で〜、とか、魔術を強くするために魔力の保持量を鍛えます〜、とか真実に的を射ない言葉はこうも人を苛立たせられるのか。

 代表でありながら、魔術の根本を一ミリも理解していないのはお笑い草である。


 魔術に関して、魔力のない私が3年間の勉強、研究、考察の末にようやく辿り着いた結論が、そもそも魔力と魔術はなんの関係性もなく、魔術はただの物質、現象の“圧縮”と“解凍”を司るエネルギー変換的な術式のことだということだ。ここで言うところの圧縮とは、例えばコップに入れた水を一時的に書き込んだ術式に吸い込むようなことだ。また、解凍はその水を再度吸い込んだ術式から吐き出してコップに戻すことだ。

 私が入学試験の時に見せた魔術は、あらかじめ本の中に書き込んだ術式に膨大に水を蓄えさせておき、試験の時にそれを解凍して放出したものだというわけだ。

 ルシアに説明した時は、難し過ぎて分からないと言われたので、要は魔術は本の中に水を蓄えたり、好きな時に放出できるんだよ、とかなり噛み砕いてようやく理解してもらえた。


「それでは、私からの挨拶は以上とさせていただきます」


 やっと長かったマナという子のスピーチが終わった。イライラする話だったので、胃酸がかなり上の方まで昇っていた。その異物感からようやく解放されて一安心だ。

 そう思っていたのも束の間、マナのスピーチはそれが終わりではなかった。


 マナ=グレイスは壇上から降りる前、新入生全員の前を指差して言い放った。


「最後に一つ、エリア=テレニアさん。私は魔力を持たないアナタを魔術部門の生徒に相応しいと認めることは出来ません。すぐに退学させて差し上げますから覚悟していてください」


 場が一瞬シーンと静まり返った後、会場がざわつき始めた。


 なんてとんでもない爆弾を最後に落としてくれたんだ!

 入学式の最後の最後で、私はしばらくその場で頭を抱えることになったのだった。


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