ヒロイン
──王族を誑かした淫女め──
──「 」を陥れた罪人だ──
──身分が低い者を本気で愛すると思ったか──
──お前の罪は重い──
「処刑せよ!」
執行人が背後に立ち、私の首に縄が掛けられた。
お腹が空いたな⋯⋯でも、もう空腹を感じなくなるのよね。
あら? この世界は王太子が自ら立ち会いするのね。
──暇なのね。
ぎりっ⋯⋯。一気に力を込められた縄が首にめり込み骨が軋む。
いよいよね。
さようなら、王子様、さようなら悪役令嬢。さようなら⋯⋯くだらない世界。
私はこれで「最後」になれば良いなと思いながらギリギリと締め上げられて暗闇へと落ちた。
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「⋯⋯、⋯⋯。ああ、また「始まった」のね」
暗闇から意識が戻されて私は辺りを見回した。
高級とは行かなくても清潔なシーツと整頓された部屋。今回は男爵位か子爵位かしら。
ベッドを降りて鏡を覗いた私は確信する。
「また始まった」のだと。
そこに映り込んでいたのはピンクブロンドに金色の瞳のまだあどけなさを残す可愛らしい少女だった。
これが「今回」の私。
「毎回同じ系統なのよね。ピンク頭で可愛い系」
どうして毎回同じなのか私は感覚で理解している。私は「ヒロイン」として生を繰り返しているのだと。
私は時に平民、時に男爵位もしくは子爵位の娘として世界に突然覚醒する。
スタートは赤子だったり、幼児だったり。成人だったり⋯⋯覚醒する時期はバラバラだ。
鏡の中の私はあどけなさはあるものの、大人びた目をしている。今回は16歳辺りかしら。
もちろんどんな仕組みか分からないけれど、私には覚醒した世界で生きて来た年数の記憶がある。その記憶に繰り返された記憶が追加される。そんな感じだ。
多くの世界の私は処刑時にはただの罪人。だから貴族の処刑ではなく、薄暗くじめじめした地下牢で絞首か毒殺されて来た。斬首刑は貴族の処刑方法だからね。
追放刑はマシな方だったのかな。まあ、行く宛もないし野生動物か野盗とかに襲われて終わったような気がする。
さて、今回はどんな「終わり」なのかしら。