その後の勇者
「くそ!なんでだ!黒龍ごとき!」
勇者は城のように大きな黒龍の尾による攻撃を木の枝で受け流す。
「飛翔のスキルも上手く機能してねえ。」
黒龍の爪のによる連撃をよけながら勇者は木の枝を振るう。
黒龍は全くダメージを受けていない。
「それにこれだ!なんでユグドラシルの枝で傷一つつかないんだ?」
勇者の頭に以前の仲間の顔が浮かぶ。
「ちっ!」
シャルのあたふたとする姿。
「斬撃付与!耐久性向上!」
黒龍の体当たりを何とか受け流す。
ルイの背中。
「飛斬!」
黒龍に一閃の傷が入る。
エリザの呆れた顔。
「アイス・ストーム!」
黒龍の傷口に氷の乱撃が襲い掛かる。
黒龍が吠える。
周りに爆炎のブレスを吐き出す。
勇者はそれを空の高い位置から見下ろしていた。
「こいつは負担が大きいから嫌なんだよ!流星斬!」
勇者は、空気を蹴り堕ちる星のごとく燃えながら斬撃を放つ。
黒龍が次に勇者の姿を見たのは自身の頭と体がわかれた後だった。
装備もボロボロで木の枝を持つ勇者の姿を見て皆、笑う。
「寄生勇者が黒龍にやられて帰ってきたぞ!」
「キセイ勇者?まあ、俺は確かに勇者だ!言われなくたってわかっているぜ。」
勇者を見るなりみな寄生勇者、寄生勇者と馬鹿にしていた。
「やめろよ。そいつに何言っても無駄だ!見ろよ、その誇らしげな顔。馬鹿にされたことにも気づいていないぞ?」
勇者はよくわからないが、冒険者たちは騒がしいぜ、くらいにしか思っていなかった。
それよりも今日の黒龍だ。
あきらかに前より強く感じる。
黒龍は魔王の四天王軍の幹部一人一人に与えられた最高戦力ではある。
すでに勇者たち四人は7匹の黒龍を倒していた。
6匹目などはほとんど傷一つ負わずに倒していた始末だ。
前と今で変わったこと…。
3人をやめさせたことくらいしか思いつかない。
しかし、今まで4人だったのが、1人になっただけでそこまで変わるのだろうか。
これではまるで、勇者は自分より格上と感じていた3人に助けられていたようではないか。
「くそ!今に見てろよ!」
勇者は黒龍を魔法バッグの中に入れたまま換金もせず、宿屋に向かった。